3 行動指針
つなぎ回的なアレです(´・ω・`)
『少し話が長くなってしまったな。そろそろ戻るがよい。思念体の余とは違い、汝らは生身の肉体を持っておるからな。そろそろ休息するがよかろう』
魔王に労われるとは妙な気分だった。
『特にクロム・ウォーカー。汝は常人に比べ、その肉体は虚弱だ。余の願いを叶えてもらうまで、早々に倒れてもらっては困るからな』
「お優しいことだな、魔王様」
俺は皮肉げに笑った。
『余は慈愛に満ちた王ゆえに』
冗談とも本気ともつかない口調で語る魔王。
『では、いずれまた会おう』
黒い髑髏はその言葉を最後に、俺の前から消えた。
もちろん消滅したわけではなく、話の続きは俺たちが休んだ後で──ということなんだろう。
「クロム様、本当に魔王の言うとおりにするつもりですか」
魔王がいなくなったとたん、シアが俺に詰め寄った。
俺への心配と不満が半々といった表情だ。
ユリンの方は不安げに俺を見ている。
「魔王を信じるわけじゃない。ただ、俺にとっても利がある話だと判断しただけだ」
俺は二人をなだめた。
──頭の中で状況を整理する。
まず、魔王の目的は自身の復活──ふたたびこの世界に実体化することだという。
今は残留思念状態だから大した力は振るえないが、復活すれば、また世界に恐怖を振り撒く強大な魔族として君臨するだろう。
当然、そんなことをさせるわけにはいかない。
で、奴が復活するためには大量の【闇】が必要なようだ。
それを供給するための手段が『闇の祭壇』の起動。
起動させるためには、強い【闇】の力が必要であり、奴はそれを俺に求めた。
が、俺の【闇】をもってしても祭壇の最終起動は叶わなかった。
そこで次の手段として、遺跡探索を持ちかけたわけだ。
遺跡へ行けば祭壇を次の段階まで起動する手段を得られる──ということだ。
また、遺跡内には対【混沌】用の戦術記録があるという話だった。
それを得られれば、俺にとってのメリットは十分だ。
無事に遺跡探索を終えれば、双方の利益になるわけだが……。
「それは魔王の話が真実なら、という前提ですよね」
シアがさらに詰め寄る。
唇が触れんばかりの距離に、思わずどきりとした。
「疑おうとは思わないのですか?」
「やっぱり怒ってないか、シア?」
「心配なだけです! あたしは、クロム様が──」
シアが表情を歪めた。
悲しみなのか、別の何かなのか。
俺を見つめる瞳には薄く涙が浮かび、強い光を放っている。
だが、そこに宿る感情を正確に読み取ることはできなかった。
「強大なスキルがあっても、あなた自身の体は普通の人間よりずっと弱いんですよ。だから、あたしは──やっぱり不安なんです。予想もつかない事態が起きて、万が一のことになったら、って」
「……悪いな、気遣わせてしまって」
俺は彼女の肩に手を置いた。
「クロム様……」
シアはその手に頬を寄せ、そっと口づけする。
「あたしはあなたの【従属者】。あなたの判断には従いますし、遺跡内で危険があれば、あたしがお守りします」
「ありがとう……シア」
「あ、私もです~」
ユリンが慌てたように、ひょこっ、と手を上げた。
「私だって、クロム様を想う気持ちは同じ。恩義も同じです」
「そうだね。一緒にクロム様をお守りしよ、ユリンちゃん」
「はいっ」
うなずき合う二人の少女。
「じゃあ、とりあえず行動方針は決まりだな。二人とも、頼む」
俺は彼女たちを等分に見つめる。
と、
「──ここにいたのですね、クロムさん」
前方に黒い霧がわだかまったかと思うと、人の姿となって実体化した。
吸血鬼真祖の妖艶な美女──フランジュラスだ。
身にまとう黒衣が裂け、白い肌から血が伝っている。
「……何かあったのか?」
「侵入者との戦いで傷を負ったのです。しばらくすれば治ります」
と、フランジュラス。
侵入者──か。
「すでにマルゴさんが始末しました」
フランジュラスはそう答え、俺を見据えた。
「あなたはこんなところで何をしているのですか、クロムさん。ここは幹部以外には立ち入りを許されない区域ですが」
斬りつけるような、瞳。
その瞳が、驚いたように揺らぐ。
「かすかに残るこの気配は──まさか、魔王様……!?」
「残留思念なら、さっき会ったぞ」
俺はそっけなく言った。
「ま、まさか、すでに実体化を果たし、クロムさんと接触していたとは」
フランジュラスは唇をかみしめた。
「──こちらが用意する前に、会われたのですね。魔王様に」
「用意だと? どういう意味だ」
「ええ、実は──」
フランジュラスが話し始めた。
もともと、彼女は儀式で魔王を呼び出そうとしていたらしい。
もちろん本体を復活させることなどできないが、限られた時間、残留思念を具現化することなら可能だった。
が、そのための儀式を完遂するより早く、俺がその残留思念に出会ってしまったのだ。
フランジュラスは、ここに来れば俺がさらなる力を身に着けるためのヒントを見せられる、と言っていた。
で、彼女が用意していた『ヒント』というのは、魔王の残留思念召喚だったらしい。
結果的に、それを待つことなく、俺は魔王と会うことができた。
ヒントを得るという当初の目的は果たしたわけだ。
では、こいつの処遇をどうするか──。
俺はあらためてフランジュラスを見つめた。
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