1 第一起動
更新再開です。とりあえず短めですが、新章の触りから。
「先史文明が、こんなにあっさりと──」
魔王が見せた映像に、俺は呆然となっていた。
現代をはるかに超える栄耀栄華を誇った先史文明レムセリア。
だが、その偉大な文明は【光】と【闇】──『
魔法で作られた巨大な甲冑や竜などが世界を守ろうと立ち向かう。
だが、『奈落』や『涅槃』の前になすすべもなく吹き飛んでいく。
浮遊大陸は跡形もなく消し飛び、建造物の一部が地上に墜落して、遺跡となった。
『余とて、すべてを知っているわけではない。ただ600番台の端末は、汝に従うラクシャサのような一般端末よりも、はるかに多くの知識と力を与えられている。それによって知り得たことを汝に示した』
黒い髑髏──魔王ヴィルガロドムスが告げる。
同時に、先史文明の栄華から崩壊までを描いた映像は消えた。
気がつけば、俺の視界には元のホールのような場所が映る。
部屋の中央には、巨大な黒い祭壇がそびえていた。
『実感できたか、【光】と【闇】の力を』
「……なぜ、俺にこんなものを見せた?」
『力を使いこなすために重要なのはイメージだ』
と、魔王。
『先史文明を滅ぼすほどの力を持つ【光】と【闇】──それを目の当たりにした汝は、己の【闇】を振るう際に、より鮮明に、より強大なイメージを持って行使できる』
「俺の【闇】の力が強化されるっていうのか」
『然り』
魔王が言った。
『そうして高め、磨き上げた力で『黒の祭壇』を起動させてほしい』
さっきの話に戻ってきたわけか。
『レムセリアの栄耀栄華は【光】や【闇】の力をある程度解明し、それを利用していたからこそだ。現代の文明や魔法など比べものにもならない、莫大な力──』
謳うように告げる魔王。
『汝にもその大いなる力の一部が宿っているのだ。さあレムセリアの最高遺産たる『黒の祭壇』を起動させよ。更なる力を得るために』
「レムセリアの遺産、か」
俺は前方の祭壇を見据える。
どくん、どくん、と心臓の音が聞こえそうだ。
俺の中の何かが高ぶっている。
あるいは──喜んでいる。
まるで祭壇に呼応するように。
ああ、なんだろうこの感覚は。
単純な喜びや興奮とは違う高ぶり。
そう、これは──懐かしさだ。
祭壇を見ていると、不思議なくらいに郷愁を掻き立てられるんだ。
「俺は……」
ほとんど無意識に祭壇に歩み寄る。
「クロム様!」
と、背後から誰かが俺を抱きしめた。
「……シア?」
「それ以上、祭壇に近づかないでください」
シアが背中から抱きついたまま、語る。
その声が震えていた。
不安げに──震えていた。
「どうした、シア?」
「嫌な予感がするんです。あの祭壇は──クロム様に不吉なものをもたらすんじゃないか、って」
「不吉なもの……」
「根拠はありません。嫌な感じが消えなくて……」
俺はあらためて祭壇を見つめた。
ごご……ご……ご……。
低く唸るような振動音が、断続的に響いている。
まるで、祭壇自体が生きているかのように。
「……ん?」
よく見ると、祭壇の下部に窪みがあった。
全部で四つ。
それぞれに紋章が刻んである。
スペード、ハート、クローバー、ダイヤを意匠化したような紋章だ。
四つの紋章が淡く輝き──。
祭壇の振動が、止んだ。
『……ふむ、さすがに最終起動までは難しいか』
魔王がうなった。
『だが、第一段階の起動は成ったようだ。汝へのフィードバックもいずれ起きよう。その先は──今しばら��待つとしようか』
「なんの話だ?」
『まずは余の願いを一部成し遂げてもらった。その礼をさせてもらう』
髑髏の眼窩から黒いモヤが広がる。
それは中空で一つの形を取った。
紋章が刻まれた指輪だ──。