<< 前へ次へ >>  更新
62/122

6 魔王軍の残党

「断る」


 俺はフランジュラスにはっきりと言った。


「俺は勇者ユーノたちと敵対している。だが、魔族に与するつもりはない」

「残念です」


 吸血鬼の美姫は、憂い顔でため息をついた。

 ハッとするほど美しいが、だからといってほだされることはない。


「では、利害が一致する部分で協力する、というのはどうでしょう?」

「しつこい奴だ」

「……私を消しますか?」


 フランジュラスが一歩後ずさった。


 それでもまだ俺との距離は8メートルほど。

【固定ダメージ】の射程圏内だ。


 俺が奴を敵と認定すれば、その瞬間にスキルが発動するだろう。

 いかに吸血鬼真祖といえど、9999のダメージには耐えられない。

 なんらかの手立てで耐え、逆襲に転じたとしても、シアとユリンが俺を守る。


【固定ダメージ】のスキル効果は、敵が範囲内に入った瞬間と、以後の3秒ごとに9999ダメージを与え続けること。

 一度や二度耐えたところで長くは持たない。


 フランジュラスに勝ち目はないはずだ。


 ──()るか。

 俺がフランジュラスを敵と認定しようと考えた、その瞬間、


「スキル【魔獣化】」


 彼女の全身が黒いモヤに包まれた。

 同時に、その体が無数のコウモリに変化する。


 コウモリの群れは、超速の羽ばたきで俺から離れた。

【固定ダメージ】の効果は一瞬遅く、フランジュラスには及ばなかったようだ。


 無数のコウモリは空中で集まり、元の美女姿に戻った。

 さすがに吸血鬼真祖だけあって、多彩な能力を持っているらしい。


「それで逃げたつもりか」


 俺は右手から黒い鎖を伸ばした。


「我らのアジトには、あなたが求めている人物もいますよ? 会ってみませんか」


 着地するフランジュラス。


「それに──あなたの力をさらに磨くためのヒントも」


 その笑みが深まった。


 ……こいつ。


 俺は鎖を伸ばして奴を拘束しようとして──止める。


 正直、少し惹かれたのは事実だ。


 さて、どうするか。

 俺は思案した。


 もちろん、魔族と協力して人類に敵対する気なんてない。


 ただ、復讐を確実に遂げるためには力が必要だ。

 マルゴやファラには問題なく勝てるだろうが、ユーノだけは別である。


 この間の対峙では圧倒したとはいえ、奴だってまがりなりにも魔王を倒し、【光】を持っているんだ。

 土壇場で何かの力に覚醒しないとも限らないし、そもそもどんな奥の手を持っているのかも分からない。


 やはり万全の準備を整えていくべきだろう。


「……いいだろう、案内しろ」

「クロム様!?」


 シアとユリンが同時に声を上げた。


「心配するな。魔族の味方になるわけじゃない」


 ただ見極めるだけだ。

 奴らに利用価値があるのか、どうかを。




 ──魔王軍残党のアジトは各地にあるそうだ。


 その本拠ともいえるものはルーファス帝国にあったのだが、勇者ユーノと女剣士ファラ、騎士マルゴに攻められ、すでに陥落。

 そこを守る高位魔族ラギオスは討たれたと聞いている。


 俺たちが案内されたのは、そことは別のアジトだ。

 さっきの場所から数キロほど離れた、とある山の中腹。

 天然の洞窟の奥に隠し扉があり、向こう側に広大なダンジョンが広がっている。


 その、最深部──。


「ようこそ、我らが拠点に」


 巨大なホール状の部屋で、フランジュラスが微笑んだ。


 玉座を模した椅子が二つある。

 魔王軍残党を総べる幹部──ラギオスとフランジュラスのものだろう。


 ……もっともラギオスは巨大な竜だから、こんな椅子には座れない。

 単なる飾りとして設置してあるようだ。

 と、


「人間……」

「いや��魔人も混じってるぞ……」

「俺たちと似た匂いを感じる……」


 暗闇に灯る、無数の赤い光。

 魔族たちの眼光だ。


「へっ、だからって人間がここに入っていいわけねーだろ!」


 そのうちの一つが、俺たちに向かってきた。

 体長5メートルほどの、狼の姿をした魔物。


「がは……ぁぁぁ……っ」


 そいつは、俺の10メートル内に入った瞬間、血しぶきを上げて絶命した。


「すまんな。殺気立っているようだ」


 轟音が頭上から響いた。

 巨大な竜が、そこにたたずんでいる。


「お前は──」


 蒼き竜、ラギオス。

 フランジュラスと同じく、魔王軍十三幹部の一体だ。


 しかも、さっきのハロルドの話だと、こいつはすでにユーノに討たれたということだったが……。


「『客人』をいきなり襲うとは、統制が取れていないんじゃないか?」


 内心の疑問を押し殺し、俺は言った。


「面目ない」


 素直に謝罪するラギオス。


「我らの組織はいまだ再編途上。人員も玉石混交だ」


 まあ、魔王軍の大部分はユーノたちが倒してしまったからな。


「首尾よくここまで連れてきたのか。そいつがユーノに対抗するための【闇】の宿主か?」


 声とともに、かつ、かつ、という足音が近づいてきた。

 暗がりから、全身鎧をまとった騎士が現れる。


「お前は──」


 俺は驚きに目を見開いた。


 なぜ、こんな場所にいるんだ。

 なぜ、勇者パーティの一員であるお前が、魔族の本拠地に──。


「マルゴ……!」

「クロム……か?」


 マルゴもまた驚きの表情で俺を見ていた。

「面白かった」と思っていただけましたら、感想やブックマーク、最新話の下部にある評価を押していただけると励みになります(*´∀`*)


  ※ ※ ※


『「この世界に魔法なんてありません。全部トリックです」俺は世界の謎を暴き、異世界で成り上がる【連載版】』という新作を始めました。下記リンクから飛べますので、読んでいただけると嬉しいです~!

<< 前へ次へ >>目次  更新