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1 勇者VS蒼き竜

※数日の間、感想返信滞るかもしれません。申し訳ありませんm(_ _)m

 SIDE ユーノ



「ここは──」


 気がつけば、城の中だった。


 眼前には青い巨体を揺らす、竜の姿。

 かつての魔王十三幹部の一体であり、今は魔王軍の残党を率いる高位魔族ラギオスだ。


 そして、隣には肌もあらわな美女剣士。

 勇者パーティの仲間であるファラである。


「消えたと思ったら、また現れたか……」

「ユーノ……!?」


 ラギオスとファラがともに驚いたような声をもらす。


 やはり、自分はこの世界から『黒の位相(クリフォト)』とやらに移動していたようだ。

 そして──わずかなタイムラグを経て、戻ってきた。


「あんた、その腕……!?」


 ファラが彼の右腕を見て、息を飲む。

 いや、正確には右腕があった場所、というべきか。


 ユーノの右腕はクロムとの戦いで消失していた。

 今は【光】によって応急処置しているため、痛みはかなり軽減されている。

 さすがに、なくした腕が生えてくることはないが。


「ふん、逃げたのかと思ったぞ」


 ラギオスが吠えた。


「今度こそ消し飛ばしてくれよう。魔王様の仇だ!」


 ふたたびドラゴンブレスの発射体勢に入る。


「ファラさん、下がって」


 ユーノは左手に『真の勇者の聖剣(アークヴァイス)』を構え、告げた。


 ──戦況は変わっていない。


 ラギオスは『封魔の紋章(バリアクレスト)』を備えている。

 術者が受けるダメージを肩代わりしてくれる宝具である。

 30000ダメージを与えなければ破壊できない、厄介な代物だった。


 ユーノの聖剣は、一撃で6000ダメージ程度。

 先ほど一撃浴びせているが、あと四回から五回は斬りつけないと、ラギオスを倒せないだろう。


 その前にドラゴンブレスで消し飛ばされる──。


「諦めろ。お前が俺を斬り殺すより、俺がブレスでお前を消し飛ばすほうが早い」


 竜の口中に鮮烈な輝きが収束する。


「確かに、君のほうが早いね」


 ユーノがうめく。

 クロムからは逃れることができたが、今度はこっちが問題だ。


(こんなところで死んでたまるか)


 左手で聖剣を握り直す。


 城内という限定空間ではブレスから逃れるのは難しい。

 もっと広い場所に出ることができれば──。


『逃げる必要などないぞ、マスター』


 声が、した。


 いつの間にか、すぐ側に太った男が立っている。

【光】の意志の具現者──『端末』と本人は以前に名乗っていたが──ヴァーユだ。


『先ほどの【闇】との戦いで、マスターの力は上昇している。【闇】と【光】は互いを高め合う、ゆえに』

「僕の、力が……」

『新たなスキルを行使可能だ』


 ヴァーユが告げると同時に、脳内にいくつものイメージが流れこんできた。

 ユーノが取得した新たなスキルの説明代わりに、ヴァーユが流してくれたらしい。


「……なるほど、これなら」


 ユーノの瞳に強い意志の光が灯る。

 確かに、逃げる必要などない。


「覚悟を決めたか、勇者!」


 ラギオスが傲然と吠えた。


「ああ」


 ニヤリと笑うユーノ。


「新しい段階に踏みこむ覚悟が、ね」

「ほざけ! そして消し飛べ!」


 蒼き竜がブレスを放つ。


「スキル発動──」


 ユーノが聖剣を掲げた。


 刀身から黄金の光が、次いで漆黒の輝きが立ち上った。




「【混沌なる桜花の盾(アイギス)】!」




 ユ��ノの前面に、輝く盾が出現した。


 黒と金の光に彩られた、5メートル四方ほどの巨大な盾。

 ドラゴンブレスがその盾に触れたとたん、跡形もなく消失する。


「俺のブレスをかき消しただと!?」

「かき消す? 違うね」


 ユーノの笑みが深くなった。


 直後、ラギオスの背後で爆光が弾けた。


「がっ……!?」


 苦鳴とともによろめく蒼き竜。


「俺のブレスが──」


 そう、ラギオスを襲ったのは、彼自身が放ったドラゴンブレスだった。

 それが巨竜の背後に出現し、炸裂したのだ。


「僕の盾は、攻撃を『かき消す』んじゃない。任意の地点に攻撃を『転移』させる──」


 これなら、クロムのスキルにも対抗できるだろうか。


『いや、この盾だけでは無理だ』


 と、ヴァーユ。


「『ダメージの転移』にもいくつかの制約がある。同等か、より上位に属するスキルや魔法などは転移させられないのだ』

「……クロムくんを倒すためには、もっと大きな力がいるんだね」


 ユーノは小さくため息をつき、ラギオスに視線を戻した。

 とりあえず、クロム対策は後だ。


「まずは君から片付けさせてもらう」

「ほざけ。そうやすやすと殺されてたまるか」


 ラギオスがうなる。

 傷は負ったものの、まだ動けるようだ。


 ──激闘が、再開された。


 ユーノはスキルや聖剣を駆使して戦うが、右腕を失っているため、攻撃に威力が乗り切らない。

 一方のラギオスもダメージがあるためか、攻撃力も敏捷性も落ちている。


 戦いは一進一退。

 戦局が動いたのは、突然だった。


「ぐあああっ……!」


 苦鳴を上げてよろめくラギオス。

 その向こう側から、かつ、かつ、とブーツの音が近づいてくる。


「遅くなった。加勢するぞ、ユーノ」


 告げたのは、剣を手にした中年騎士。


「マルゴさん!」


 頼もしい仲間の到着に、ユーノは顔を輝かせた。

次回の更新は2月5日(火)予定です。

以降も隔日更新になります。引き続きよろしくお願いいたしますm(_ _)m


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肥前文俊先生が主催されている競作企画『書き出し祭り』に参加しています。

『第五回 書き出し祭り 第四会場』

https://ncode.syosetu.com/n4854fg/

↑25作の中のどれかが僕の作品です(連載予定)。

よろしければ、どぞ~!

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