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12 英雄騎士マルゴ

2章ラストです。勇者パーティの一員、中年騎士マルゴ視点。

次回はまた主人公のクロム視点に戻ります。

 SIDE マルゴ


 暗い城の中に二つの影が蠢いていた。


 一つは、騎士。

 一つは、竜。


「ラルヴァ王国にいるミノタウロスの一隊が全滅したようだ。七体もの中級魔族がたった一人を相手に」

「ほう、なかなかの猛者だな」


 青い巨竜──魔族ラギオスの言葉に、その騎士は小さくうなった。


 マルゴ・ラスケーダ。

 魔王ヴィルガロドムスを討った勇者パーティの一人であり、ルーファス帝国の最上位騎士。


 四十五歳にしていまだ衰えぬ剣腕と高潔で知られる人格、統率力、そして魔王退治の実績から英雄騎士とも呼ばれる男である。


「ミノタウロスが七体となれば、人間の騎士が一部隊単位で当たってどうにか戦える相手だろう。それをたった一人で倒したとなれば──」

「英雄クラスの腕の持ち主だろうな」


 マルゴの言葉にラギオスがうなずく。


「あるいは、お前に匹敵する戦士かもしれん」

「この私に、か」


 小さくうなるマルゴ。


「しかも、その者は【闇】の気配をまとっているようだ。厄介な相手だぞ」

「【闇】……か」

「魔王様を打ち倒した勇者ユーノの【光】──それに匹敵する力だ。

「ユーノの力に匹敵……まさか、それは」

「ああ、お前たちが生み出したのだろう? 勇者の【光】を生み出す代償として」


 マルゴの問いに巨竜は、ふしゅうっ、と灼熱の息を吐き出した。


 二年前のあの日のことを思い出す。




「ユーノを【光】の力で強化する」


 クロムをのぞく勇者パーティ一同での話し合いで、賢者ヴァレリーが切り出した。


「このままでは他の勇者パーティたちに後れを取るばかりだからな」

「【光】の力で強化……?」

「先日の古代遺跡での戦いで、私はとある魔導書を発見した。そこに書かれていたのだ、禁呪法が」


 マルゴの問いに答えるヴァレリー。


「『闇の鎖』──その呪法を成功させるためには、誰か一人を生け贄に捧げなければならない」


 その言葉にマルゴは恐怖した。

 自分が生け贄にされるのではないかと思ったのだ。


 だが幸いにして選ばれたのはマルゴではなく、クロムだった。


 彼は恋人を奪われ、仲間たちに見捨てられた絶望の中で【闇】を生んだ。

 その【闇】は同時に【光】をも生み出し──その力が勇者ユーノに宿った。


【光】の力はすさまじかった。


 魔王軍の幹部フランジュラスを一撃のもとに打ち倒し、その後もユーノは目覚ましい活躍を見せた。


 そして、ついには魔王ヴィルガロドムスをも討ってしまった──。




 魔王を倒したユーノは、たちまち世界を救った勇者として最高の栄誉を手に入れた。

 世界中の吟遊詩人がこぞって彼の英雄譚を歌い、誰もが彼を讃えた。


 マルゴはこの二年で、何度となく思ったものだ。


 ──ユーノではなく、私に【光】の力があれば、と。


 彼はルーファス帝国の最上位騎士である。

 魔王を打ち倒した勇者パーティの一員として、その名声は不動のもの。


 だが、勇者の名声はそれすらもはるかに凌ぐ。

 ルーファス帝国にはユーノが居住しているため、自分の名声もかすんでしまう。


 言ってみれば、勇者のおまけ扱いなのだ。


 マルゴは『英雄騎士』としてではなく『勇者ユーノの仲間の一人』と言われることの方が、圧倒的に多い。


 屈辱だった。


 嫉妬は、日に日に大きくなるばかりだった。


(私だって英雄なんだ。いや、あんな若造よりも私こそが──)


 マルゴは唇をかみしめた。


 しかも、彼がひそかに思いを寄せていた聖女イリーナも、今や勇者の婚約者である。

 あの清らかな美女を、ユーノが思うままに抱いているのだと思うと、強烈な嫉妬を覚える。


 剣でも、名声でも、女��も──そして若さでも。

 すべてにおいて、自分はユーノに後れを取っている。


 認めざるを得なかった。

 だが、だからこそ──マルゴはそれ以上の『力』を求めた。


 魔王軍の残党とひそかに連絡を取り、目の前の魔族──魔王十三幹部の生き残りであるラギオスと懇意になった。

 そして、『計画』を進め始めた。


(今度こそ、私が唯一絶対の英雄になる)


【光】の勇者ユーノではなく、このマルゴ・ラスケーダが。

次回から第3章「禁呪の探求」になります。明日更新予定です。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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