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第7話  フォローと狙撃と専属メイド?


 視聴者の急増に戸惑ったハルキチだが、彼のリスナーたちはハルキチが動きを止めることを許さなかった。


【そんなことはどうでもいいから! 照り焼きチキンサンドをはよっ!】

【配布販売するまでがお料理配信クエストでしょっ!!?】

【君には我々に照り焼きサンドを販売する義務があるっ!!!】


「あっ、はい」


 やたらと押しが強くなったリスナーたちに促され、ハルキチは慌てて配信の新機能である料理の配布販売を行おうとする。

 新機能の解説によれば、この機能を利用することで視聴者の手元にハルキチが作った照り焼きチキンサンドと同じものをコピーして届けることができるらしい。

 しかしコピー品には料理の食事効果がつかないという説明が続いていて、料理アイテムは追加で付与される効果が大切だと知っているハルキチはいちおう確認した。


「あの……配布販売する料理には食事効果が付かないみたいなんですが……それでもよろしいでしょうか?」


【いいからはよっ!(台バンバン!)】

【大切なのは味だから!】

【食事効果とかどうでもいいわっ!】


「ええ……」


 リスナーに促されたハルキチはウィンドウを操作して配布販売の手続きを行う。

 販売料金の振り込み先は学生協会のインベントリでいいとして、問題は料理を販売する値段である。

 料理の値段は10EN~100ENまでの間で設定することができるらしく、ハルキチはとりあえず最安値の10ENを選択しようとして、リスナーたちに怒られた。


【なにを考えているの! そこは100ENでしょっ!!!】

【他のお料理系配信者のことも考えなさいよっ!!】

【あなたが10ENにしたら10EN以外の選択肢がなくなっちゃうでしょ!】

【まったくダメな子ねぇ……ハルキチちゃんは私たちが育ててあげなきゃ(使命感)】


「す、すいません……」


 なぜかお姉系の口調になって怒ってくるリスナーたちに、ハルキチは従うしかない。

 そして言われた通り100ENで照り焼きチキンサンドを販売すると、ハルキチの手料理は瞬く間に売り上げを伸ばしていく。

 見た目美少女×美味しそうな手料理の破壊力はリスナーたちのハートをがっちり掴んだらしい。

 凄い勢いで増えていく販売数にハルキチが学生協会の口座に振り込まれている金額を想像して恐怖を抱いたころ、料理を食べ終えたリスナーたちが感想のコメントを書き込み始めた。


【ふぅ……とりあえずフォローしたわ】

【ごっそさん、美味かった!】

【毎日キミが作る手料理を食べたい(ガチ告白)】

【脳ミソとろけるほど美味しかった!】

【気づいたら完食してた】

【いま3個目食べて過食の警告が出てる】

【食べ過ぎると腹が千切れて死ぬからやめとけw】

【俺はすでに死に戻った】

【俺もなぜか死んでた……まだ7個しか食べてないのに】

【てゆーかハルキチちゃんってルナ射クリアしたラッキーガールじゃね?】

【それで? 次回の配信予定は?】

【一生フォローするよ、姉ちゃん!】


「……いや、俺は男だから姉ちゃんじゃ…………」


 ハルキチは訂正しようとするがコメントの勢いに押し負ける。


【姉ちゃんっていいな! ハルキチちゃんには母性がないし、ママより似合ってるw】

【まな板ですからな、お料理配信者だけにww】

【こんなお姉ちゃんが毎日ご飯を作ってほしいという非リアの願望が……】

【それで? 次回の配信予定は(圧)?】

【俺達はまたお姉ちゃんのご飯が食べたいんです!】

【お願いします! 姉ちゃんっ!!】

【お金なら払いますから! 姉ちゃんっ!】

【足とか舐めますから! 姉ちゃんっ!】

【なんでもしますから! 姉ちゃんっ!】

【……今なんでもするって言った?】

【変態が湧いてて草】

【まあ、手料理配信はまたしてほしいから気持ちはわかる】

【それで? 次回の配信予定は(重圧)?】


 増え続けるコメントとフォロワーにハルキチは押し流されて、


「じゃ、じゃあ……また明日あたりに…………」


 お料理配信を続けることが確定した。


【勝ー利っ!】

【あれ……この子けっこうチョロい……?】

【しっ! バカ! 黙ってろ!】

【ありがとう、姉ちゃん!】

【ありがとうございます!】


 姉ちゃん呼びが定着してしまったが、多くのリスナーから感謝されるのは悪くない。

 料理が趣味のハルキチはどうせ一日一回は自分で料理を作ろうと思っていたし、ついでに配信して喜ばれるなら嫌になるまで続けてみようと考えた。


「これからよろしく」


 カメラに向かって挨拶すると、大量の【よろしく】コメントが返ってくる。

 そしてそんな中に混ざって流れたひとつのコメントがハルキチの目に止まった。


【どうしてハルキチさんは、そんなに料理ができるんですか?】


 他のリスナーも同様の疑問を抱いたのか、似たような質問が増えていく。

 ハルキチはその質問に応えようとして、


「あー……料理ができるのは、俺の母さんが民族料理の研究家で……――」


 そこまで語ったところで、ハルキチは悪い予感がして首を横に倒した。

 傾けた顔の横を掠めるように一発の弾丸が走り抜け、遅れて森の方から銃声が響く。


【は!?】

【え?】

【ふぁっ!? 狙撃!??】

【新入生狩りかっ!?】

【姉ちゃん逃げて!】


 リスナーたちも銃声に気がついて反応をよこすが、ハルキチの反応はそれよりも早かった。

 ライフル弾を回避したハルキチは調理に使っていた初心のナイフと菜箸を一本掴んで、襲撃者に向けて走り出す。


【迷わず突っ込んだ!?】

【……てゆーか、いま銃弾避けてなかった?】


 続けて2発、3発とライフル弾が放たれるが、ハルキチは躱したり、初心のナイフで弾丸を斬り飛ばしたりして、襲撃者との距離を詰めていった。


【……マジで躱してる】

【……狙撃の弾を斬ってる】

【……息をするように神技してる】

【……チートか?】

【いや、高天原にチートとかないから】


 そしてリスナーがハルキチの異常性を改めて認識したころ、森の端まで走りきったハルキチは襲撃者の姿を捉えた。

 大木の梢が作る暗がりで、金髪のメイド服を着た美少女がスナイパーライフルを構えている。

 謎のメイドはハルキチに最後のライフル弾が斬り飛ばされたのを確認すると、身体を起こし、スナイパーライフルを捨てて拳銃を構えた。

 その銃口が地面と水平に構えられるのと同時に、ハルキチは持ってきた菜箸を投擲する。


『っ!?』


 投げられた菜箸は拳銃の銃口へと刺さり、襲撃者の攻撃能力を無力化する。

 そして一気に襲撃者の懐まで飛び込んだハルキチは、襲撃者の頭部にナイフを突きつけて継戦の意思を確認した。


「……まだやる?」


 本当は走った勢いのままトドメを刺すつもりだったが、ハルキチがナイフを止めたのには理由がある。


『いえ、降参させていただきます』


 それは金髪金眼の美少女だと思っていた襲撃者が、美少女ではなかったからだ。

 もっと言えば彼女(?)は人間ですらなかった。

 頭のブラウン管テレビに美少女の顔を表示させた人形ロボットが降伏の意思を表すために機械の手から拳銃を投げ捨てる。

 ハルキチを襲った狙撃手はメイド服を着たヘンテコなロボットだった。

 機械の身体ではナイフが通らないのだから攻撃を止めるしかない。


【さすらいのメイドマスターさんだっ!】

【なにやってんですかメイドマスターさんww】

【さすらいのメイドマスターさんが降参しただとっ!??】


 ロボは有名なロボだったのか、盛り上がるコメント欄にハルキチは訊ねる。


「さすらいのメイドマスターさんってなに?」


 ハルキチの疑問にリスナーたちは素早く反応した。


【高天原をさすらうユニーク人工知性のひとり】

【量産型のレイシア先生とは違ってオンリーワンな個体】

【さすらいのメイドマスターさんは理想のご主人様を求めて、真恋学園の創設時から高天原をさまよっているのだ! 高天原前史より抜粋】


「???」


 けっきょく謎が多いロボの素性にハルキチは疑問符を増やしたが、そんなハルキチに向けてメイドマスターさんは気品を感じる所作で姿勢を正す。


『皆さま、ご紹介ありがとうございます。わたくし【さすらいのメイドマスター】こと、ラウラと申します』


 ハルキチから見ると顔の映像がメイド服とマッチしているため、美少女メイドに見えなくもない。

 しかし続けて彼女が頭を下げると、やっぱり頭部が時代遅れのテレビなので、ハルキチは奇妙なロボットの存在感に混乱した。


「えっと……ラウラさん?」

『はい、いいえ、敬称は不要です。わたくしのことは『ラウラ』と呼び捨ててください。貴方様はわたくしのマスターなのですから』

「ま、マスター……???」


 謎多きロボの言動にハルキチの混乱は続くが、メイドロボットがマスターと口にしたことでコメント欄は盛り上がる。


【メイドマスターさんが主人と認めた!?】

【今まで誰にもデレなかったのに!!?】

【俺たちは歴史の目撃者となったのか!!!】

【流石は姉さんだぜ! メイドマスターさんを従えちまうなんて!】

【かっこよかったです! 姉さん!】

【キ○ガイみたいな戦闘能力に惚れました! 姉さん!】

【姉ちゃんなんて馴れ馴れしく呼んですみませんでした! 姉さん!】


 ハルキチの戦闘シーンが怖かったのか、リスナーたちは呼び方を改めた。

 混乱しているうちにメイドの主人と認められてしまったハルキチは、いちおうラウラと名乗るロボットに確認をする。


「よくわからないけれど、仲間になりたいってこと?」

『仲間ではなくメイドです。マスターだけの専属メイドでございます』

「……それはもう確定してる感じ?」

『当然です。メイドとは主人を勝手に選ぶものですから』


 そんなゴリ押しメイドはどうかと思うが、ロボの決意は鋼鉄よりも硬いらしく、



《――ユニーク人工知性【ラウラ】がハルキチの専属メイドになりました!》



 それを決定づけるアナウンスまで流れてくる。

 どうやらこいつは勝手についてくるらしいと判断したハルキチは、諦めてラウラの同行を認めることにした。

 たぶん抵抗しても無駄だから。


《――【ラウラ】からフレンド申請されました。フレンドになりますか? YES/NO》


 関係を固めるために飛んできたフレンド申請にハルキチは仕方なくYESを選択する。



「……これからよろしく、ラウラ」

『はい! よろしくお願いします! マスター!』



 そしてハルキチの仲間に謎のメイドロボットが加わった。




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