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第26話  シリアルキラーと鬼ごっこ ②



 学校の廊下を全力疾走する。

 現実の教育機関であれば教師から確実に怒られるその行為も、仮想現実では許される。

 そして逃走を開始してすぐ、リコリスはアイテムボックスから【電子レンジ】を取り出して、二の腕から先を失った右腕へと押し付けた。


「――【生体融合機関】起動っ!」


 ガシャガシャと音を立て、ハルキチが実験で使った余りの電子レンジが変形し、リコリスの新たな右腕となる。


「……便利ですね、その神器」

「そうでしょ?」


 半ば呆れるハルキチに、バニーガールはウインクして健在ぶりをアピールした。

 そんなやり取りをしている間に、背後に撒き散らされた白煙の中から二つの影が飛び出してくる。


「て~め~え~らぁ~っ!」

「…………死になさい」


 ブチ切れたキララと、静かに命令してくるマキナ。

 チラリと振り返ったハルキチは、どちらも同じくらい怖いと思った。

 怖いので背後へと【神膳包丁】をひと振りし、カウント4秒くらいで【即席料理】を発動させる。


「――【爆裂卵(バーストエッグ)】×5っ!」


 ポーン、ポーン。

 と廊下を弾んでいった5つの卵は、ドンピシャでキララとマキナの近くで爆発した。


「「「やったか!?」」」


 あん子とカンナとリコリスが同時に叫んで、


「ああ……効いてないのね……」


 ハルキチはあまり効果がなかったことを確信した。

 仲間たちのネタを証明するように、爆炎の中からさらにブチ切れたキララと、視線だけで人を殺せそうな目つきをしたマキナが現れる。


「「…………」」

「怖い怖い怖いっ!?」


 二人の美少女から無言で殺意を向けられて、ハルキチは涙目になった。

 どうやらヘイトを稼ぎ過ぎたらしい。


「いぃ~ち、にぃ~い、さぁ~ん……」


 ドルルン。

 ドルルン。

 ドルルルン!


 キララが再びカウントを始め、それに合わせてマキナが抜刀術の構えを取る。


「――【短距離転移(ショートテレポート)】」


 そして背中に取り憑いたレイスの魔法でハルキチの前まで飛んだマキナは、そのまま神速の剣閃を抜き放った。


「っ!?」


 突然目の前に現れたマキナの剣撃に、ハルキチはどうにか反射的に刃を合わせる。

 ギャリッ。

 と刀と包丁の間で火花が舞い散り、攻撃を防いだことでハルキチの動きが一瞬止まった。


「――【人皮面の解体者(テキサスエッジ)】っ!」


 その隙を付くために背後から斬撃の嵐が迫り、刃の風がハルキチの足へと当たりそうになったところに暗黒騎士が滑り込む。

 ギャリリリリリリリリッ!

 そしてチェーンソー女の斬撃が漆黒の鎧に無数の細かい傷を付け、学校の廊下に激しく火花が飛び散った。


「てめぇっ!? 邪魔くせぇんだよ! むっつりナイトっ!」

「うむ、敵から邪魔だと言われるのは褒め言葉だ! もっと言わせてやろう!」


 パーティのメインタンクとして胸を張るあん子に、キララはイラッとしてエンジンの回転数を上げる。


 ギャリッ!

 ギャリリッ!

 ギャリリリリィッ!


 と、キララが繰り出す拳と蹴りで火花と紫電が廊下を舞うが、とっても硬い暗黒騎士はそれをガードしながら不敵に笑う。


「ふははははっ! 貴様の攻撃力はそんなものか【宴刃魔王】よっ! この程度では日が暮れても私は倒れんぞっ!」


 あん子の拳が唸り、キララの腹を殴打する。

 ギャリギャリギャリッ。

 と床に二本の斬痕を残しながら後退させられたキララの背後で、ゾンビの一体が腹を爆発させて倒れた。


「――【誘引闘気(ヘイトオーラ)】!」


 勝負に誘う武技を発動し、続けて上に向けた手の平で、クイッ、クイッ、と挑発してくる暗黒騎士の行動に、【宴刃魔王】は凶悪な笑みを浮かべる。


「ハッ! 上等だぁっ! まずはてめぇから削り取ってやらぁっ!」


 そしてギャリギャリッと激しく火花を散らして暗黒騎士を攻撃しはじめた単細胞なキララに、マキナは嘆息しながらハルキチの首を斬ろうとした。


「あの……ため息のついでに殺そうとするの、やめてもらっていいですか?」


 無言で繰り出される無数の斬撃を防ぎながらハルキチはお願いしてみるが、マキナは刀を振る手を決して止めなかった。


「いいから! あなたはっ! さっさと死になさいっ!!」


 理不尽な暴力の嵐にハルキチが泣きたくなっていると、少し離れたところからバニーガールが援護の魔法を撃ってくれる。


「――【ムラムラス】!」


 いや……なんでその魔法?


 と、ハルキチが疑問を抱いたのも束の間。

 リコリスはさらに魔法を重ねてマキナへと放った。


「――【ムラムラス】っ! 【ムラムラス】っ! 【ムラムラス】っ!」


 連続で放たれた性欲増進魔法に、ついにマキナの手が止まる。


「んくっ!?」


 頬を赤く染め、甘い吐息を漏らしながらバックステップした美少女の姿に、思わずハルキチも【ムラムラス】されそうになった。

 自分の身体を抱きしめて内股になったマキナは、涙目でバニーガールを睨みつける。


「こ、この魔法を解きなさいっ!」

「魔法を解くことはできないけれど、その状態異常を解除する方法なら教えてあげるよ?」

「お、教えなさいっ!」


 かわいい顔で命令してくる美少女に、アダルトショップを経営するエロウサギは、とてもいい笑顔で叡智を授けた。


「まずはそこらへんの空き教室に引き籠もってぇ~、それからムラムラする部分を擦り上げるんだ! 自分の指でしてもいいし! 学習机に擦り付けてもいい! 学校の教室には無限の可能性が秘められているよね! んん~っ【ムラムラス】っ!」


 性懲りもなく魔法を重ねがけするバニーガールに、顔を真っ赤にしたマキナは全身全霊でブチ切れた。


「死ねぇええええええええええええええええっ!!!」


 状態異常が原因か、雑に放たれた剣撃を、リコリスは魔法障壁で受け止める。


「おっと! マキナちゃんは意外と初心だね? そんなにエッチな身体つきしてるのに、学校でこっそりイジったこととかないのかい?」

「そんな変態じみたことするわけないでしょっ!? それに私はエッチな身体つきなんてしていないっ!」

「Gカップはとってもエッチだと思います!」

「なっ!? どうして私のサイズをっ!??」


 胸元を押さえて後ずさる美少女の姿に、バニーガールはキュンキュンした。


「ダメだよマキナちゃん……そんなかわいい反応をすると、現実でも同じ大きさだってことがバレちゃうから……んん~っ【ムラムラス】っ!」

「っ!? その魔法をやめなさいっ!!!」


 キララとマキナ。

 二人のヘイトを上手いこと暗黒騎士とバニーガールが引き付けた隙に、ハルキチはアイテムボックスから取り出した【幽体化寝具】をカンナといっしょに被る。

 迷わず切り札を使った後輩の決断に、リコリスは小さく呟いた。


「いい判断だ」


 残されたバニーガールは役目をまっとうするため、さらに荒ぶるマキナを煽る。


「へいへ~い! どうしたんだいマキにゃん? 動きがどんどん雑になっているよ? もしかして身体がムラムラして苦しいのかにゃ? はいっ【ムラムラス】!」

「このっ!!? 変態ウサギがぁああああああああああっ!!!」





     ◆◆◆





 やたらとヘイトを稼ぐのが上手いバニーガールたちに逃がしてもらったハルキチたちは、キララとマキナから十分に距離を取った空き教室で、耐久値がゼロに近づいたシーツを取って姿を現した。

 周囲に他の生徒がいないことを確認すると、それまで目立たないように黙っていたカンナが頬を赤く染めて口を開く。


「どうしましょう、先輩……さっきので私はエロ同人を作りたくなってしまいました……タイトルは『ムラムラ娘と空き教室』」


 業が深い趣味を持つ鬼娘の発言に、ハルキチは『ちょっと読んでみたい』と思いながらも冷静に忠告した。



「……斬り殺されるぞ?」







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