敵を知ろう:後半戦
ピキュルリーン。
ビービービー。
ひゅるるる、どかーん。
ぴろりぴろりぴろりん。
「あーっ、うっさいわ!」
思わずディーにブチぎれる。
彼が手にしているのは、銃の形をした、電子音が鳴るオモチャ。
いつぞや泊りがけで出かけた時に、ホテルのお土産屋さんで買ってあげた奴だ。これを握り締めたまま動かなくなった時はどうしようかと思った。
ちっちゃい男の子ってこういうの好きだよね。僕も昔、お祭りのくじで当たったヤツがお気に入りだった。すぐ兄に取られたけど。
買ってあげたはいいがあんまり鳴らしてうるさいので、ディーの周りだけ防音結界を張らせて遊んでもらった。
ディーはその後、「もう音を鳴らしていないのに幻聴が聞こえるんだ…」とションボリしていた。
僕も通った道だったので、理解はできた。
でも懲りずに次の日にはまた鳴らしていたので、元を取る程度には遊んだと思われる。
「なんでいきなりそんなもの出してきたの?」
「うむ。あの奴隷商に使ってみた」
「…これを?」
奴隷商は地下牢に入れているという。
依頼主が隣国の貴族というところまでは喋ったものの、その貴族の名前やどんな地位なのかなどは明かしていなかった。
しかしながら、相手の詳細がわからないことにはこちらも対策を立てられない。
奴隷商は、王子がパトロンについている吟遊詩人を売買したことで、どうせ自分は助からないだろうと拗ねきっていた。
肝心の詳細な情報を吐かなかったのだ。
「しかし、これで拷問を行ったところ、奴隷商が何もかもを素直に喋るようになったのだ」
平和で傍迷惑なだけのオモチャだったはずなのに、ディーはとんでもないことをしていた。
「…ちょっ…と何言ってるのか、よくわからないのですが…」
「空間魔法使いの少年という以外、ギルガゼートの情報は相手方に流れていないようだ。奴隷商自身、今回捜索するまでは、名前も気にしたことがなかったと言っていた」
あっ、本当に情報を引き出してきてる。
でも、確かに奴隷商からしてみれば情を移すような関係でもないのに、名前なんていちいち覚えないよね。
「それは朗報だけど。コレでできる拷問って何なの?」
殴ったところで高が知れている。
音がうるさいと、僕がキレる程度の能力しか秘めていないと思うよ、このオモチャは。
疑問しかない僕にディーは頷いて、拷問方法を説明し始めた。
「猿轡に目隠しを付けさせ、「これは接している者の精神に作用する魔道具だ」と嘘情報を与えたうえで、音を聞かせ続けた」
後頭部に銃口を当てて、延々とピキュルリーンだのどかーんだのと鳴らし続けたらしい。
奴隷商は今、電子音の幻聴に悩まされているという。
何でも話すし協力するので、何とかしてほしいと懇願しているそうだ。
「協力させたいのは山々なのだが、幻聴をどうにかする方法などわからないのでな。何かいい方法はあるか?」
うおお、なんという残虐行為を行ったのだ、この王子様は。
テレビもラジオもないような異世界だぞ。
ましてや地下牢で1人きりとか、気を逸らすものが何もない状況で幻聴が消えるはずもない。
僕はそっと、リラクゼーションCDをディーに手渡しておいた。
「見られたらアレだから目隠しは継続だろうけど、ヘッドホンつけてコレ聞かせて、アロマでも焚いて、癒してあげたらいいじゃない」
「ああ、わかった」
グッスリ寝たら、きっと良くなるよ…可哀想に。
妙に奴隷商に同情してしまった僕だったが、ギルガゼートの背格好なんかも相手が知らないというのなら、次はリルクス君に代役をお願いしなくちゃいけないのだということに気づいた。
…あのCD、やっぱり電波ソングかなんかにチェンジしちゃダメかな。