ドラゴンは食べないらしい。
バーベキューはお預けだ。
油断するとケー王子が来る。そうするとまず、マロックが必ず来る。
僕の窓はディーの部屋と繋がっているのだから、魔法による追跡云々を差し引く。
すると、下手をすると見知らぬ近衛兵も護衛として来る。場合によっては給仕をしに侍女も来る。
みんな窓を乗り越えて我が家にやってくるということだ。
…いや、普通に無理…。
「そういえばドラゴンステーキってしたの?」
「ドラゴンを…、食べ物として認識したことはなかったな…」
「え、そうなんだ。ファンタジー高級食材かと思ってた」
バーベキューの話をしたせいで肉が食べたい。そんな気持ちを抱えながら、僕は涙を飲んで干し芋を食っている。
どうやら両親は茨城に行ったらしく、干し芋が大量に送られてきたのだ。ご近所と近場の親戚と都合のついた友人に振舞ってもまだなくならぬ。既にヒューゼルトとマロックとレディアとギルガゼートにも渡してもらった。
僕は毎朝毎晩、芋を食っている。昼は菓子パンです。
この飽食の時代に、栄養失調にでもなる予感満載。
ディーは三日ほど続けて出される干し芋にも全く文句を言わず、もぐもぐしている。
「じゃあ、素材だけバラした感じなの? こないだのドラゴン。そろそろディーの称号も勇者になった?」
「そうだな、鱗は鎧になるといっていた。それから、勇者にはならないぞ。魔王がいないからな」
「でもドラゴンスレイヤーは伝説級なんでしょ?」
「私は既に四大精霊の祝福がある時点で伝説級だ」
「精霊、滅せよ…伝説など塗り変えてくれるわ」
「お前が魔王か」
ディーの皿に、芋を追加する。嫌がらせのつもりだったのに、相手は軽く頷く。普通のおかわりだと認識したようだ。
たーんとおあがり。僕はもう芋を見るのが辛い。でも頑張る!
「やっぱり祝福持ちだからドラゴン倒せたの? 大変だった?」
「うむ…祝福がなければ大変な相手であったことは確かだと思う。しかし、あのドラゴンは少し異質であったので、私でなくとも時間をかければ倒せただろう」
「…二度も言うけどドラゴンスレイヤーは伝説級なのに? 一般兵でいけるの?」
「ああ。ドラゴンは普通、人間よりもずっと精霊の扱いに長けている。だから攻守に優れていて、簡単には勝てない相手なのだ。しかし、あのドラゴンは精霊に避けられていた」
僕の同類か。いや、違うな、僕は精霊に嫌われてなどいない。無関心を貫かれているだけだ。
どちらがいいものか…精霊に嫌われて守ってもらえないドラゴン。精霊に興味を持たれず魔法が使えないのに、棒だけ祝福される僕。
うん。どっちも痛いね、心が。
「恐らく正気ではなかったのだと思う」
「え、僕が?」
「なぜだ。ドラゴンの話だ」
思考が横道に逸れていたから、つい反応してしまったが、無意味な自爆だったようだ。
ふぅん、と何事もなかったかのように相槌を返しておく。
「それについても報告を上げてあるから、特段私が祭り上げられることもないだろう」
ディーは順調に干し芋を消費している。
うん。持つべきものは食い意地の張った友達だな。
「そういえば花火はなかなか面白かったな。またやりたいものだ」
「あ、そう? 良かった」
ディーが言っているのは僕がドラゴンにぶつけた奴ではなく、戻ってきてから城の庭でやった家庭用花火のことだ。
手持ち花火を二本持って両手で振り回すのがセレブなんだよと教えてあげた。決して嘘ではない。
ディーの部屋には上手にキャッチした全ての落下傘が飾られている。
…一人で全力で取りに行っていたな。ああいうのは、多分競って取りにいくのが楽しいんだろうけど。僕にはそんな体力ないし、ヒューゼルトは落下傘なんて欲しくないし。今度はケー王子でも誘ってやったほうがいいのかもしれない。
ちなみにロケット花火やネズミ花火なんかは異音になると思ったのでさすがに避けた。
「そういえば、兄から言伝を頼まれている」
「なぁに?」
「食パンの作り方を教えて欲しいそうなのだが」
「うわぁ…なんかやけにサンドイッチ気に入っていたよね、ケー王子…」
ピクニックのご飯時、延々とサンドイッチばかり食べるので、どうしようかと思ったくらいだ。数上、他の人の分のサンドイッチまで食べてた。他の人達、遠慮しておにぎり食べてた。
パンにレタスとトマトでも挟んでおけばサンドイッチだよ、形なんて気にするなよって言っておいたのだけれど、やっぱり食パン仕様のサンドイッチがいいらしい。
面倒事が嫌だからホットドックのことまで教えておいたのに、防ぎきれなかったか。
「パン生地を四角い型に入れて、焼いたら食パンになるんじゃないの? 焼き型を用意しろってこと?」
「…わからん」
「おい、何してほしいかきちんと言ってくれないと見当はずれの情報になるぞ」
「そうだな。一応レシピも調べて、型も用意しておいてくれ」
…欲張りコースだった。