恋心は桃の味
「ねー譲君、恋ってどんな味がするのかなー?」
ある日の夕方、突然に優美は俺に問いかけた。
「どんな味って。恋ってのは心の動きなんだから、味も何もねぇだろ」
「そーかな? でも、私は楽しいと甘い味がするよ? 悲しいとしょっぱくなるし、ムカッてしたら辛辛する」
優美は、大げさに身振り手振りしながら説明する。味に応じてコロコロと変わる表情を見ると、なんとなくそんな気もしてくるから不思議だ。
「ふーん。じゃあ、今はどんな味がしてるんだ? 俺は舌バカだからあんまり味が分からないんだ」
「えー、かわいそう。今はね、すんごーく甘い!」
「具体的には?」
「そうだなー、とっても甘い桃! 譲君と一緒にいるといっつも甘い桃を食べてるみたいな感じだよー」
「おー、そんじゃ、優美は俺と一緒だと楽しいって事だな」
俺が何気なくそう言うと、優美は首を傾げた。
「うーん、ちょっと違うかな? 楽しいって言うより幸せーって感じ? ほら、優美の好物は桃だから、食べてる時、甘いって言うより幸せーって感じがするもん」
「あー、そういえば優美は桃が好きだったな。確かに、好きなもの食べてる時は幸せな気持ちになるもんな」
「そうそう、そんな感じ! だから、譲君と一緒にいるだけで、優美はお腹いっぱいになっちゃいそうなんだー」
「おー、そりゃあダイエットに便利だな。なんも食べなくてもお腹いっぱいだ」
「ほんとだねー。でも、ほんとにお腹いっぱいになるわけじゃないから、優美は本物の桃も食べるよー」
「じゃあ、幸せも二倍だな」
「やったね!」
西日が、二人を照らしていた。