リリアナ編前編、エピローグ
まず、忘れていたエピローグからいきます。
リリアナを逃がした背の高い影は、水明たちとの対峙を終え、いまは彼らの右往左往する様子が窺える位置で一人、嘲笑うように笑みをこぼしていた。
身を寄せている場所は、帝国では二番目に高い場所であるフィラス・フィリア大聖堂の鐘楼その脇。あんな状態にあっても勘と視覚の尋常ではないスイメイ・ヤカギに気を付けながら、現場を観察する。
周囲は憲兵たちが取り囲み、勇者はスイメイに駆け寄っている。状況を訊ね、従者に回復魔法をかけさせようとしているが、スイメイは気丈にも拒否をしているようであった。
背の高い影は今後の行動について、考えを巡らせる。
今回で、二度目のしくじりだ。
憲兵は言わずもがな、勇者はその力が今後の脅威にはなり得るだろうが、いまは捨て置いても構わないだろう。今回もずっと後手後手に回っているのだから。
しかし――スイメイ・ヤカギ。あの男は、油断のならない男だ。まさかこちらが勇者たちの動きをかく乱している最中に、またしてもリリアナの動きを掴んで、接触しているとは。
「……ふむ」
リリアナの作った領域の中で何があったのかは知らないが、スイメイは彼女と幾度か顔を合わせていたため、戦闘の最中に説得でもしていたのだろう。それを思えば、危ういところではあった。
だが、その脅威にももう気を揉むこともないだろう。闇魔法を受けすぎたせいで、あれでは死ぬ――いや持ち直す可能性もあるが、それでも当分は満足に動けず、魔法の行使にも影響が出るはずだ。
今回、貴族を襲っているところをまでは彼らに見られてはいないが、リリアナはスイメイ・ヤカギにも、勇者にも顔を見られた。ならば、
「もうあの娘を使うのも、潮時だな……」
そう冷え切った呟きを残して、背の高い影は闇の中にその姿を晦ましたのだった。