計測は戦闘。ですよね
受け付け嬢に実力を計測をすると言われた水明は、そのままギルドの奥に通されその通路に設えられた椅子に座っていた。
ランタンに似た吊り下げ式の照明に仄かに照らされた通路は少し寂しさを感じ、どこか見覚えのある情景を連想させる。
――夜の病院の待合か。
異世界にも関わらず、そんな風情も趣もない所感を抱きながら椅子に座って待っていると、間もなく通路の奥から係りの人間らしき人物が現れた。女性だ。ふわりとウェーブの掛かった茶色の髪を持つ、女の子。受け付け嬢と同じ、ギルドの職員の服を着ている。
彼女は程無くして自身の前にたどり着き、小首を傾げながら問う。
「――ええと、スイメイ・ヤカギさん……ですね?」
「ええ、はい」
素直にそう頷くと、この少女は表情豊かか。ぱっとにこやかな笑みを咲かせて、名乗り出す。
「失礼しました。私、新人ギルド員の案内役をしていますドロテアって言います。どうぞよろしくですっ!」
「あ、ああ。よろしくお願いします」
敬礼でもかますか否かの元気な少女に、受け付け嬢の時と同じくの丁寧に返す水明。
外の応対とはまた違った物があるなと感想を抱いていると、ドロテアと名乗った少女は今度は気さくな笑みを浮かべる。
「あ、いいですよ。普通に話してくれて。歳も近そうですし、気楽にいきましょう気楽に」
「……いいんですか? そんなので?」
「いいんですいいんです。その方が話しやすいですし、それにこの後は計測なので新人ギルド員さんの緊張を解すのも私の役目なんですよ? まあ、見た感じ水明さんには無用な気もしますが」
「は、はあ。……じゃあ、改めてよろしく」
「よろしくです!」
こちらの求めに、ドロテアは元気よく返事をする。
そして彼女は、水明にに向かって「では行きましょう」と歩みを促してからゆっくりと回廊を歩き出し、水明もともすればそれに付いていく。
するとドロテアが、ふと思い出したように振り向き訊ねてくる。
「えーと、さっきの紙――記載事項の紙は見せて頂きました。スイメイさんは魔法使いで、火と風の属性を持っていらっしゃるんですよね?」
「ああ、まあ一応ね」
「ふふ、一応ですか。謙遜しますね。なんでも無詠唱で、しかも鍵言も無しに魔法を使ってロハさんをぶっ飛ばしたって言うじゃないですか。凄腕の魔法使いなんじゃないですか?」
「いやいや。あんまり急だったから無我夢中で使ったら、偶然できただけだよ」
と、ドロテアの笑顔に合わせ、こちらも障りのない程度の笑顔で対応する。ロハさんとは、先ほどの大剣男か。早々に制圧してしまい強さの程は分からなかったが、ギルド員としてもそこそこの位置にいたのかもしれない。 だが、それで別に調子づくつもりもないので、適当な謙遜を重ねて誤魔化して置くことにしたのだが――
「うーん、私の知ってる限りですと、魔法はそんな偶然で発動するものではなかったと思うんですけどね……」
記憶違いかと言うように眉を寄せて首を傾げるドロテア。そう言える彼女はそれなりに魔法に通じているのか。
さて、そんな彼女の疑念を氷解させるにはどうすればいいか。このまま自身に対する変な先入観を持たせたまま良くないだろうし、今度は聞こえが尤もらしい理由を言う。
「……魔術の発動の条件は呪文だけに限らないと言うことだよ。それに、使った魔術もそんなにすごいものじゃない」
「そうなんですか?」
「常識だよ常識」
そう、そんな風に言っておけば大抵は食い下がってくる事もない。下手に隠して不審な奴になるよりも、尤もらしい無難な話をしていた方が相手もすんなり聞き分けてくれるのだ。
ドロテアもその例に漏れなかったか、それについて突っ込んだ話はしてこない。だが。
「魔法の先生みたいな話し方ですね。――ちなみに呪文だけに限らないって、スイメイさんは何をしたんですか?」
「内緒」
「む、意外とけちんぼなんですね、スイメイさんは」
「普通、そんなもんだろ?」
水明がそう肩を竦めて訊ねると、ドロテアは食い下がる事もなく「確かにそうですね」とあっさり認め、話を戻した。
「……まああの通りで、ロハさんも気が早い方ですから。最近はああいう事があるとすぐ飛んで行ってくれるんです」
そして言い加えるように、受け付けに無用な負担を掛けず助かってます、と口にするドロテアに、水明は探るように問う。
「……冷やかしとかいたずらとか、よくあるのか?」
「ええ、ありますよ。窓口に来る方には、冒険者に憧れるだけで実力の欠片もない方とか、それに加えギルドの恩恵だけ受けに加盟しようとする悪質な方もいらっしゃいます。勇者様が現れた影響もあってか、ここ二、三日で結構増えまして……」
と、ギルド員には目下の懊悩か。ドロテアはため息混じりに口にする。確かに勇者の召喚は、魔族のノーシアス襲撃で萎縮していた人々にとって一種の清涼剤か起爆剤にでもなったのだろう。この世界の人々の勇者への共通認識がどういったものなのかはまだ知れぬが、もし城にいたときの盲目的な信頼の置きようと遜色ないものならば、その存在を脈絡なく人類の勝利へと繋げてしまい、彼が居るなら自分もそう言う場所で頑張れる、できると言う、大衆には有りがちな足下をまるで見ない全く勢いだけの錯覚をしてしまう者も出てくるのだろう。
いわゆる熱に浮かされたというやつだが、今回の件にはそれが要因の一つとして加わったのだろう。
「じゃあこの後向かう場所にも?」
いっぱいいるのか。
「いえ、午前中の計測はスイメイさんで最後なので、残っている方はいらっしゃらないでしょう」
「……なるほどね」
「何か気になる事でも?」
「……いや。何となくだよ。何となく」
不思議がるドロテアに気にするなと適当に返事をする。すると、彼女は違う話を振ってきた。
「――ちなみにスイメイさんは、パレードに参列した勇者様のお姿、ご覧になりました?」
「まあ、一応すこしだけは……」
と言わず、無論毎日のように見ていたとは――言うべき事ではない。言う意味もない。
すると、ドロテアは感心したような表情を作って。
「レイジ様、でしたか。何とも言い表せない雰囲気を持っていられましたね。さすがは勇者と呼ばれる方です。歴代の勇者の方々も、あんな風に
ふとその場に立ち止まり、瞑目しながら言うドロテア。口にしながら、パレードを思い出しているのだろう。
目蓋の裏に焼き付いた勇者達の姿に、彼女も希望を見出だしているか。彼らと日常を過ごしていた自身には分からないが、彼女達からはそう見えたのかもしれない。
恐らくは一般的な見解を持っているだろう彼女に、少し訊ねてみる。
「ドロテアは、勇者が魔王や魔族軍の討伐ができると思うか?」
「伝え聞く勇者様の並々ならぬお力が本当なら、できると思いますよ」
「伝え聞く、とは?」
更にそう訊ねると、ドロテアは意外だとでも言うように目を丸くさせる。
「スイメイさんはご存じないので?」
「ちょっと恥ずかしいけど、あまり」
恥じ入る事もないのだが、一応表面上はそんな風に。勇者の話というのはやはり一般的なものか。ドロテアの意外そうな顔を見る限り、こちらで勇者のお話は向こうの世界のお伽噺や童話のように、身近にあるものなのかもしれない。
ドロテアは案の定「……意外ですね」と呟きを口にして、話してくれる。
「勇者様のお力については、歴史書やお話などの記述や口伝が残されているんです。今まで数回に渡って世界に危機が訪れた時、勇者様が召喚されましたが、その時の勇者様の戦いが凄まじいものだったと。天を突く高さの巨人を真っ二つにした伝説の剣技や、狂気にかられた暴君を追い詰めた空飛ぶ魔法使いの黒い獣に魔王を斬った聖なる剣。伝えられているだけで、色々なお話があります」
「へぇ」
そう言う話は中々興味深い。話の内容もそうだが、黎二達にも深く関わってきそうな事柄だ。興味が湧かない訳がない。今後、よく調べてみるか。
「スイメイさんはどうです?」
「うん?」
突然の問いに、間の抜けた返事をしてしまう。するとドロテアは、今度はあなたの番だとばかりに。
「勇者様の魔王の討伐についてです。スイメイさんは出来ると思いますか?」
「……どうなんだろうな。ドロテアの話の通りの力を今の勇者が持っていればあり得るかもしれないけど、実際どうだか」
実際も何も、黎二はそんな力など持っていないはずだ。同じようにはいくはずもない。
「あら、否定的なんですか?」
「いや、勇者が居るから勝てるとか勇者だから勝てるってのはどうにも甘い見通しだと思ってね。出来ないとか端から決めて掛かるのは確かにどうかと思うけど……」
やはり、事情を知る自身からすれば不安で一杯である。強い力を手に入れたからと言って勝てるほど、戦いなんて甘くない。
そんな風に、水明が憂慮に目を細めていると。
「外ではあまりそう言うこと喋っちゃダメですよ。勇者をアルシュナ様の使いと同一視する救世教会の方々に聞かれたら、お説教されちゃいます」
「はは……気を付けるよ」
またそれか。レフィールも言っていたあたり、この世界の人間にとって救世教会の説教とは、脅しに使えるほど畏怖の対象らしい。今後のため、頭の片隅にでも留めていた方がいいだろう。
するとドロテアは咎める時の表情を一転。今度はその話も尤もだと同意するような面持ちになった。
「ま、確かにスイメイさんの言う通り、冒険者ギルドの人間が楽観できる話ではありませんね。と、話は戻りますが、それで彼のあんな姿に影響されてか、騎士団や一般兵応募だけではなくこの宵闇亭にも、この数日間で今までの数倍近い方が加盟にこられまして……」
「受け付けの人もピリピリしてて、見た目が普通の俺は追い返されそうになったと」
「ええ。スイメイさん、せめて杖くらいは身に付けてくるべきでしたね。ギルドカードを持っているならいざ知らず、加盟希望者の新人さんが武器も持たずに窓口にくるなんて前代未聞です」
「ごもっともで。猛省しております」
考えが及ばなかった事については、全く恥ずかしい限りである。完全に周りが見えていないお上りさんだった。
そう水明は内心で嘆きつつ、弱ったように頭を下げると、ドロテアは胸を張って。
「分かって下さればよろしいのです。つまりよいよいという事です」
そう言う。意外とすっとぼけた少女である。
「――だけどさ、追い返すにしてもあれは少し手荒過ぎるんじゃないかな?」
そう、それについては些か疑問があった。追い返すにしてもあれは急すぎる。確かに現代社会の丁寧な対応しか比べる物がない故、そう感じてしまうのかも知れないが。そのところはどうなのだろうか。
「ギルド員の行動がですか?」
「ああ。あれじゃあ勝手に変な噂を立てられたりとか、俺みたいな事をした実力を持った奴がもし俺とは違って気分を悪くしたら、有望な加盟希望者が減るんじゃないかと」
しかし、ドロテアはにべもなかった。
「それで加盟を取り止める程度の意欲しかない加盟希望者ならば、我々にとっても必要ないと言う事です。元々加盟者が不足していると言う事もありませんしね」
そして話を挟む余地なく、風聞については「冒険者ギルドおかしな噂など常に付きまとうものです」と続ける。
「それだけ、宵闇亭には実績があると」
「はい」
ドロテアはなんの痛痒もない様子だった。
そんな彼女が、訊ねてくる。
「他に何かご質問は?」
ある。それは、この後自分が行わなければならないもので――
「計測って具体的に何をするんだ?」
そう、気にはなっていた事を口にする。水樹に見せてもらった小説では、ギルド登録の時に異邦人達は不思議な水晶玉に手を当てて魔力量などを図ると言う謎の行動をしていたが、やはりこちらでもそうなのだろうか。
すると、ドロテアはその質問を待っていたと言わんばかりの表情で、元気よく答えた。
「もちろん試合ですよ!」
何が、勿論なのか。
☆
計測方法をドロテアに訊いてから間もなく。彼女に促され扉を潜ると、そこには大きな室内運動場にも似た場所があった。
「なるほど、デカイ敷地なのはこんな施設があったからか」
水明の感嘆とした独白に、ドロテアが律儀に答える。
「はい。これでも三ヵ国内では最大の冒険者ギルドですから、訓練場くらいは備えてあります」
訓練場か。確かに、ギルド員の強さの底上げをするには、欠かせない施設だろう。
だが――
「にしては人がいないみたいだけど?」
そう、水明が口にした通り、そこには誰もいなかった。奥にある扉の奥には、それらしき気配はあるのだが。
「第二訓練場は午前中、計測に使っているんで、訓練している方はいらっしゃいません。前の方も奥の部屋に詰めて記入作業をしていると思いますよ」
「ふうん」
気のない返事をしてから、ふと足下に――と言うよりはこの部屋全体に違和感を感じて、視線を落とす。
「なあ、ここの材質ってさ」
「はい、よくお気付きに。この訓練場は魔法に耐性の強い新素材を使っています。魔法をここでぶっぱなしても、ちょっとやそっとじゃ壊れませんよ」
こちらの問いに、ドロテアが自慢げに答えた。
「魔法に強い材質?」
「はい。つい最近発見されたばかりのもので、使っているのはここくらいなんですよ。えへん」
「へぇ。そんなものがあるのか……」
自慢げなドロテアを鮮やかにスルーして、そう感心したように口にした。
気のない返事だが、しかしまだ不思議そうに床を見る。床の材質、壁の材質。どう見ても木材と石材を組み合わせた物だが、魔法に強い新素材とはこれいかに。
魔術的な処理が施された上での物ならば向こうの世界にも存在するため、そう意外な物でもないのだが、自身が見る限りこれには術式が付与されているようには見えない代物である。魔力に対して抵抗がある物質なら、中々どうしておもしろい。
そんな風に辺りを眺めていると、ドロテアが。
「前後になりましたが、こちらが試合場となります。スイメイさんにはここでこちらが選んだギルド員と試合をして頂き、その戦い振りを見てランクの判断をさせて頂きます。よろしいでしょうか?」
「まあ、いいけど……例えば、例えばなんだけど戦い以外に判断方法なんてものはないのかな?」
「はあ。難しい質問ですね。逆にお訊ねしますがそれ以外に分かりやすい方法がおありで?」
ない。確かにない。
「……おーけー」
「はい?」
「いや、了解したって事さ」
こちらの諾意が分からないドロテアに、短く説明する。日本語はちゃんと通じるクセに、外国語由来の言葉が通じないのは何か理由でもあるのか。不便だなぁと木製の天井を仰ぎ思いつつ、再びよく分かっていなさそうなドロテアを見る。
「は、はあ。分かりました。では――」
と、ドロテアが何かを促そうとした時、奥の扉から誰かの気配。戸が開く音と共に、一つの影が現れる。
そしてこちらに気が付いたか、掛けられる声。
さながら、鈴を鳴らした高音が、優しい風に乗って届いたようなその声は果たして――
「もし、スイメイ君じゃないか?」
「ああ、グラキスさんさっきぶりですね」
振り向き様。そこには先ほど珍妙な理由で知り合った知人、レフィール・グラキスがいた。
鮮やかに映える赤く長い髪を揺らしながらこちらに近づいてくる彼女に対し、そんな訳の分からない返答をすると、すぐに僅かに眉を寄せた怪訝そうな顔で訊ねられた。
「何故、君がここに?」
「いえ、何でもランクの計測をするらしくて」
「……む?」
「何か?」
「……君はギルドに依頼を持って来たんじゃないのか?」
「あ……」
目を白黒させて問い掛けてくるレフィールの顔で、水明にはいま繋がった。そういえばそうだ。
受け付けで別れた折り「君の依頼も」と口にしていた故、彼女も誤解していたのだ。思い出してそう合点がいった。
そして、その行き違いを解消すべく、改めて自身の本来の目的を口にする。
「いえ、俺もグラキスさんと同じく加盟希望なんですよ。あ、ちなみに一応これでも魔法使いです」
「そうだったのか。いや、武器も持っていないからてっきり……」
「……すんません。ほんと。ほんとすんません」
「なぜそんなに謝るんだ?」
「気にしないで下さい」
そう、結局はこの話題である。身から出た錆とはよく言ったもの。ついさっきどこかで聞いた覚えがあるこの言葉が、至らぬ自分の身に染みる。
そんな両者見知ったようなやり取りをしていると、ドロテアが訊ねてくる。
「お二人はお知り合いで?」
「いや、彼とはさっき受け付けの前で知り合ってね」
レフィールの答えに「ああ、そうなんですか」と納得するドロテア。
彼女の問いに答えたレフィールに、水明は訊ね掛ける。
「グラキスさん、計測は?」
「ああ、今しがた終わったところだ」
「どうでした?」
「まずまず、と言ったところかな」
返されたのは、瞑目の上の不敵な笑み。という事は、まずまず良かったではなく、“まずまず余裕だった”ということか。疲れた様子も、肩で息する仕草もない。
すると、ドロテアはレフィールが戦った相手を知っていたか。呆れと困窮が半ば混じりあったような顔で言う。
「あの二人相手にまずまずとは、ウチでも結構な使い手の二人なんですけどね」
「そうかな。私はいつも通り動いただけだが?」
「いつも通りですか……レフィールさんがメテールに残られないのが残念で仕方ありません」
ドロテアのその言葉に、何気なくレフィールの方を向いて訊ねる。
「……? どこか他の土地へ?」
「ああ、それは――」
「あっと、お話し中申し訳ありませんが、そろそろ始めさせてもらってもよろしいでしょうか?」
訊ねの途中だったが、レフィールの声に重なるように、時間を気にするドロテアの声。そう言えば、通路からここまでにも結構な時間を会話に費やした。
あまり、だらだらと時間を掛けるのも迷惑か。
「ああ。俺はいつでも良いよ」
「わかりました。――では、ライカスさんとエヌマルフさん! お願いします!」
と、突然ドロテアが訓練場の奥の方に向かって大きな声を上げた。すると、その呼び声に惹かれ奥の扉から言葉の通り、二人の人間が姿を表した。一人は両手剣を持ち革鎧で身を固めた戦士風の男で、もう一人は杖を片手にローブを身にまとった男。魔法使いか。
彼女がお願いしますと言った辺り、計測で戦う相手だろう。だが――
「二人なのか?」
「はい、これからスイメイさんにはあのお二人のどちらかと試合をして頂きます。ライカスさんは戦士で、エヌマルフさんは魔法使いです。いずれの方もお互いに違うタイプですが、お二人とも相応の力があるので力量も図れるでしょう」
「ふむ……」
ドロテアの言葉を受け、まだ遠目ながらに相手を矯めつ眇めつ。魔力、気配、武威。どちらからも油断ならない気配や悪寒は感じないなと、まず一つ安心していると、やがてライカス、エヌマルフと呼ばれた二人が前に着いた。
そしてすぐ、戦士風の男――恐らくはライカスがどこか苛立ちを含んだように訊ねてくる。
「お前も新しいギルド員か?」
「ああ」
「名前と職は?」
「名前はスイメイ・ヤカギ。一応魔法使いだよ」
やたら高圧そうな態度に、ついこちらもぶっきらぼうな対応になってしまう。
手短に答えると、ライカスは胡乱そうに目を剥いた。
「あ? なんだぁ、その一応ってのはよ?」
「一応ってのはこっちの気分の問題かな。まあ、深く気にするような事じゃない」
「はん、そうかよ」
何故か。ライカスとやら、やたらこちらに対する態度が横柄である。恐らくは苛立ちによる不機嫌さなのだろうが、それにしても露骨である。エヌマルフと言う魔法使いの男も、黙ったままだが同じように空気が帯電したような雰囲気をまとっていた。
そして、ライカスがレフィールの方を向く。
「……お前、まだいたのかよ?」
「ああ。彼らと少し話をしていてね」
それを聞いたライカスが眉根をピクリ。一瞬跳ね上げたかと思うと、再びこちらを向いた。
さっきよりも、その強面を五割増しで仁王さながらに変えて。
「お前、そいつの知り合いか」
「え? まあ一応……」
しかし、知人よりも面識は少ない程度の間柄ですよと水明が言おうとした折り、ライカスは急に不穏な空気を醸しながら呟く。
「……そうかよ。知り合いかよ」
「へ……」
「知り合いなんだろ? なぁ?」
何故にそんな雰囲気になるのか。気が付けば隣のエヌマルフ某も似たような空気を放っている。果たして。
ふと前後の会話でそれに気付いた水明は、隣にいたレフィールに問い掛ける。
「もしかして、グラキスさんが倒した相手って」
「ああ、お察しの通り、そちらの二人だ。……私が謝るのもおかしいが、すまない」
「やっぱりか……」
完全に予想通りなのに、ため息が出るのは何故か。