出発前夜
俺の名は岩原新之助。
織田家では、上洛に参加する軍が編成された。
当初は二万人を予定していたが、予算の都合で千人になった。
……
予算の都合だから。
武将たちが不参加を叫んだからじゃないぞ。
まあ、その予算が……
「経費、かけたくない」
という上総介殿の意向で削りに削られたからではあるが。
気を取り直して。
織田家からの主な参加家臣は、池田殿、丹羽殿、滝川殿、柴田殿。
森殿、佐久間殿、河尻殿、佐々(さっさ)殿、前田殿、木下殿も参加している。
美濃の西側に領地を持つ安藤殿、稲葉殿、氏家殿、不破殿などは留守番になった。
上洛軍に万が一があったときに、備えてだ。
留守番を露骨に喜ばないでほしい。
羨ましいから。
話を戻して。
戦力的には千人だが、機関銃や狙撃銃を個々に装備し、防弾防刃スーツを着こんでいる一騎当千の兵だ。
千人の千倍……百万人ぐらいの戦力と考えていいと思う。
「弾数制限はあるがな」
上総介殿、見回りご苦労さまです。
えーっと、この武装なら百人ぐらいでよかったのでは?
「そうしたかったが、さすがに少なすぎると舐められる」
残念ながら、個々の実力が云々ではなく、見た目の人数が問題になることもある。
「見た目で判断すると痛い目にあうのだがな。
そうそう、移動には自動車を使うぞ。
補給車込みで百台での行軍になる」
了解です。
一台に運転手込みで二十人として、千人だと五十台。
つまり補給車は五十台か。
「いや、四十台だ。
残りの十台は覚慶の一団や徳川、浅井が乗る」
なるほど。
さすが、優しい!
「いや、ワシらだけ乗ってると文句が出るだろ?
車の中、クーラー効かすわけだし」
絶対に出るね。
「なので余分に用意した」
先回りするその見識、お見事です!
「そう褒めるでない。
ははははは」
ところで上総介殿。
なぜ俺が織田家の上洛軍の編成を手伝っているのかな?
まだ新入りですよ。
「大丈夫だ。
馴染み方はすでに古参だから。
頑張れよ」
頑張れよじゃなくて……
まあ、お給金を貰っているからにはやりますけど。
なんとか編成が完了。
織田軍出発。
美濃の不破郡、関ケ原で覚慶の一団と合流。
「頼りにしておるぞ」
「うるせぇ!
将軍になったら、各地で借りてる金を返せよ!
あと、寺に謝っとけ!」
覚慶と上総介殿のあいだに、ろくな会話がなかった。
だが、合流できてよかった。
名目上、上洛軍の主力は覚慶の一団で、織田家の軍は手伝い。
なので合流しないと上洛軍を名乗れないのだ。
ちなみに、俺の主は覚慶から離れたそうだったが、上総介殿にそのまま連絡役を命じられていた。
泣きそうな顔で、こっちを見ないでほしい。
なにはともあれ上洛に向けて改めて出発かと思ったら、徳川軍が来るので少し待機とのこと。
正確には明日まで待機。
なので、ここで一泊か。
夕食はどうなるのかな?
担当者に聞こうとしたら、織田家の面々が集まって揉めていた。
なにかあったのだろうか?
「岩原か。
いいところに来た。
こやつらに言ってやってくれ」
上総介殿、なにを言えばいいのでしょうか?
「今日の夕食はピザなのだが、どこに頼むかで揉めている。
ワシはド●ノピザだと言っておるのに、こやつらは」
「ピ●ーラで」
「ピザ●ットでしょ」
「ピザ・サ●トロペじゃないかな」
「ナ●リの窯がいいと思います」
えっと……
そういった内容なら、上総介殿が強権を発動すればいいのでは?
「さすがにそれは非道であろう。
話し合って決めたい」
はぁ。
それじゃあ、えーっと……全部頼んだらどうです?
「岩原、おかしくなったか!」
いやいや、ここにいる面々だけで食べるわけじゃないですよね?
上洛軍に参加する織田家の軍勢の夕食と考えると、一店舗だけに頼むのは無茶でしょ。
絶対に一店舗で処理しきれる注文量ではない。
いや、五~六店舗でも無茶。
ならば追加だ。
「では、ピザ・カ●フォルニアを頼んでも」
「ピザ●ケットも?」
「ミ●ノピザも許されるのか!」
こうなればア●キーズも、ピザ1●4、ス●ロベリーコーンズも頼んでください。
サイドメニューも自由に!
「岩原、いいのか?
祭りになるぞ!」
支払いは未来の将軍様に押しつけます。
「うおおおおおおおおっ!!」
上洛軍のピザ祭りは盛り上がった!
いや、まあ、未来の将軍様には信用がないので、ピザ代は織田家が立て替えたけどね。
軍勢の数を減らして予算を浮かしているから、大丈夫。
未来の将軍様が将軍様になったら、回収しよう。
あと、糧食の管理担当……兵粮奉行は誰でどこにいる?
さすがに千人分を当日の注文で用意しようとするのはよろしくない。
その規模なら、一週間前には伝えておくべきだ。
注意しなければ。
「兵粮奉行は、覚慶様のところに呼ばれてましたよ。
それで動けなかったんじゃないですか」
?
覚慶が織田家の兵粮奉行にどんな用事があるんだ?
「だから、この帳面に書かれた商人から食料を仕入れてくれればいいのだ。
値は少し張るが、ちゃんとキックバックは渡すから。
お主に損はない。
うん、損はない。
ただ株価がちょっと動く取引が行われるだけだ。
どうだ?」
織田家の兵粮奉行は、不正取引の片棒を担がされそうになっていたので救出しておいた。
主、ちゃんと覚慶を見張っておかないと上総介殿に怒られますよ。
細川 「覚慶様が気絶している!」
一色 「明らかに殴られた痕跡!」
京極 「いや、これは蹴りだ! 強力な蹴りの痕跡!」
三淵 「馬鹿なっ! ここは織田軍に囲まれているのだぞ! いったい誰が!」
細川 「誰にせよ、代行してくれてありがとう!」
一色 「ありがとう!」
京極 「今日の飯と酒は美味いに違いない!」
三淵 「お前ら……」