本願寺からの使者(短編タイトル 満腹狼 織田信長2)
俺は岩原新之助。
尾張にて、店内BGMでボン・ジョヴィを聞きながら、マ●ドナルドを楽しむ武士である。
それが俺の人生。
あ、そうそう。
役目の件では、主から未達成としてビンタをもらった。
いい音がした。
まあ、その主も上総介殿に仕えることになったので、ビンタ以上の罰は与えにくかったのだろうけど。
おっと、主よ。
ハ●ピーセットの玩具で、俺のポテトを強奪しないでほしい。
足りなかったって、注文のときにサイズアップを勧めたのに断るから。
横文字にまだ慣れなくて、サイズアップの意味がわからなかったと?
素直に聞いてくださいよ。
では、少しだけどうぞ。
ナゲットまで渡すとは言ってない!
かじった部分をソースにつけるなぁっ!
そういうところだぞ!
ごほん。
主の説得でも、上総介殿は上洛しなかった。
当然、将軍擁立にも動かない。
尾張や美濃での生活を知れば、それも当然だろう。
なぜ、わざわざ面倒を抱え込まなければならないのか。
将軍家からの無理難題で右往左往するより、未来人と交流するほうが絶対に楽しい。
その上総介殿は、本願寺からの使者と会っている。
隣のテーブル席で。
「では、上総介殿はどうあってもこちらの要求には……くっ……ぬっ……」
「応じられんな。
シェイクを吸うには勢いが大事だぞ」
「そう言われましても、なかなか難しくて……」
「あとは少し待って、溶かしてから飲むのはどうだ?」
「仕方がありませんな。
では、待っているあいだにポテトでもいただきながら……ポテトがない?」
「すまん。
手が勝手に動いた。
おーい、ポテトを追加だ。
一番大きいサイズを三つ頼む」
上総介殿が声をあげるが、反応したのはさらに隣のテーブル席に座っている木下藤吉郎。
「殿。
ここでの注文は、カウンターに行かねばなりません。
拙者が代わりに」
「そうであったな。
頼む。
あ、ポイントはこのカードに」
「承知」
木下殿が小銭袋とポイントカードを受け取り、カウンターに向かう。
ポイントはチリ積もだからな。
少額でも面倒がらずに出すのが貯まるコツだ。
「お待たせしました」
木下殿は、ポテトをカウンターで受け取り、上総介殿と本願寺からの使者殿のあいだに置いた。
「うむ」
上総介殿は木下殿から忘れずに小銭袋とポイントカードを回収し、三つの一番大きいサイズのポテトをトレイに広げて山を作る。
「では、いただこうか」
「はっ。
いただきます。
おおっ、揚げたてのポテトは美味ですな」
「うむ。
ほどよいところでシェイクを飲むのを忘れぬようにな」
「そうでした。
ははははは。
それで、率直な話、どのあたりまでなら、妥協できますか?」
「急に話を戻すな。
……妥協と言われてもな」
上総介殿は、言いにくそうにする。
本願寺の要求には、上総介殿は応じられないし、妥協もできない。
なぜなら、要求はこうだからだ。
「あのクソ童をひっ捕らえて、引き渡せ。
もしくは、そちらで処刑にしろ」
……
応じられるわけがない。
「岩原よ。
童一人で本願寺の機嫌がとれるなら、渡してしまえばいいのではないか?」
事情を知らない主が、気楽なことを言ってくる。
残念ながら、それはできない。
「なぜだ?」
まず、尾張や美濃に多くいる未来人が、子供を犠牲にすることを極端に忌避すること。
身寄りのない子供を保護し、養育しておるぐらいだからな。
未来人と本願寺では、未来人の支持のほうを上総介殿は望むであろう。
上総介殿も、子供には甘いからな。
次に、要求に応じると、上総介殿が本願寺に屈したと思われること。
上総介殿はそういったことをあまり気にしないが、周囲には気にする諸大名な国人がいる。
織田家が弱腰になったと思えば、戦になる。
上総介殿としては、戦になれば勝つが、勝ったあとの面倒な仕事を避けたい。
最後に、ことの原因が本願寺の宗主である、本願寺顕如が童とのレスバに負けたことが発端だからだ。
レスバはその場限りがルールなのに、終わってからも延々と文句を言う顕如殿の姿勢は、ちょっと問題だ。
上総介殿も、本願寺の要求に応えるのはちょっと違うんじゃないかなと思っている様子だ。
「岩原よ。
レスバとはなんぞや?」
「あー……問答のことです」
「顕如殿と問答した童がおるということか?」
「はい。
俺もその場にいましたので」
主題は、偉い坊主ほど働かない。
問答の流れを簡単にすると……
「大きいお寺の偉いお坊様には、何人もの小坊主が小間使いとしてついて働いていますが、それは正しい姿なのですか?
自分の世話ができない人が、他人の世話を焼こうなんて滑稽なだけではないでしょうか?」
「はぁ?
私の世話をすることで、小坊主たちは徳を積んでいるのだ!」
「つまり、周囲が徳を積むほどに迷惑をかけているってことですよね?
小坊主たちが徳を積むほど、偉いお坊様は徳を無くしているのではないですか?
ああ、なるほど。
だから、世の中の寺の住職は、寺が大きくなればなるほど腐っているのですね。
なるほどなるほど」
「おいお前」
「ところで、寺のお坊様は天竺のガウタマ・シッダールタを習い、悟りの境地を目指しているそうですが到達しましたか?」
「お前」
「ははははは。
失礼しました。
悟りの境地に到達していなければ、俗世の政治にあーだこーだ言う暇なんてないですよねー」
「仏敵っ!」
「あれ?
ひょっとして、まだ悟りの境地に到ってないのですか?」
「仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵仏敵っ!」
顕如殿、顔が真っ赤だった。
そして、周囲の判定は童の勝利。
俺も童の勝利と判定する。
たぶん、顕如殿は煽りに弱いというか、慣れていないのだろう。
相手の言うことなど聞かず、自身の主張をすればよかったのだ。
坊主なのだから、そういったことこそ得意であろうに。
まあ、あの童のむかつく顔での煽りは、無視しにくいのはわかる。
横にいただけの俺も、腹が立ったからな。
だが、だからと言って処刑にはできない。
「こちらとしても、本願寺とことを構える気はないのだ。
なんとかしたい。
だが、どうにもならん」
上総介殿が、はっきりと断る。
「正直な話、拙僧も宗主さまの要求はあんまりだと思っております。
そこで……処刑ではなく、なにかしらの罰を与えたという形にしてもらえればと」
「罰?
どういった罪状にするのだ?
まさか、宗主に問答で勝った罪とは言えんであろう?」
さらには、顕如殿は尾張の未来人の話を聞いて、お忍びで尾張に入ったうえでの問答騒動。
童に非はない。
「ですので、目上の者に対して言葉使いが悪かったとして、なにかしらの清掃作業などを罰として命じていただければ。
こちらとしては、その罰が実行されたかどうかは確認しませんので」
「ふむ……なれど、それではこちらが一方的に損をする。
ことは問答に負けた宗主が原因。
宗主にもなにかしらの罰を与えてもらえぬか」
「罰と言いますと?」
「それこそ、なにかしらの清掃作業でよい。
こちらも、その罰が実行されたかどうかを確認はせん」
「ふむ……よき話ですな。
その方向で、話をまとめるとしましょうか」
「うむ。
互いに罰を考えようではないか」
「はい。
それで、次の話なのですが……」
「なんだ、まだあるのか?」
「長島の件です」
「あー、あれはなー……」
長島の件。
尾張と北伊勢の境界にある川にある島。
少し前までは本願寺が支配していたのだが、現在は織田の支配地となっている。
未来人たちがその地を欲したからだ。
そして、その地は未来人たちによって遊園地なる施設へと改造された。
俺も一度行ったが、面白かった。
また行きたい。
「長島を返還してもらうわけには……」
「無理だ」
長島は武力で攻め落としたわけではなく、未来人たちによる無償の農地改革と新しき食、見たことがない娯楽で長島周辺の住民を篭絡した結果だ。
なので、いまさら織田から離れろを言ったところで、従うわけがない。
俺が長島の地の民なら、本願寺に向けて一揆を起こす。
もう、扇風機のない夏は過ごせないし、炬燵のない冬は嫌だから。
農作業だって、全自動田植え機、収穫機、精米機を知ってしまったのだ。
戻れるわけがない。
ちなみに、長島の西にある桑名の地などは、織田に身を寄せて生活が楽になった長島が羨ましいらしいのだが、なぜか上総介殿に文句を言っている。
文句を言うぐらいなら、素直に頭を下げればと思うのだが、なかなかできないらしい。
面子って大変だ。
「では、長島の地に本願寺の者が立ち入ることをお許し願えませんか」
「もとより、拒否しておらんが……
あ、いや、例の問答のときに顕如殿が絶対に織田の地には足を入れんと言ったことを気にしているのか?」
「は、はい……その、宗主は……上総介殿がどうしてもというなら、行ってやらんこともないと」
「なにを偉そうに。
遊園地で遊びたいだけであろうが?」
「ぶっちゃけると。
なんでも大きな水貯まりで遊ぶ施設などもあるそうで」
「ふんっ。
ちゃんと入園料さえ払うなら、拒否はせん。
誘う文言はそっちで好きに決めよ」
「はっ。
ありがとうございます!」
「ああ、ただし問答は禁止だぞ」
「ははは。
わかっております。
問答になりそうなときは、拙僧が殴ってでも止めますので。
では、拙僧はこれにて」
本願寺の使者は席を立ち、帰るのかなと思ったら、カウンターに向かってシェイクのお代わりを頼んでいた。
さっきはバニラ味だったから、今度はバナナ味にするようだ。
うん、あの使者も完全に織田に取り込まれたな。
本願寺顕如「相手が織田だからって、ひよってる信徒いる? いねぇよなぁ!」
下間頼廉 「宗主、落ち着いてっ」(顕如の脛にローキック)
明智光秀 「岩原、ガウタマ・シッダールタとはなんぞや?」
岩原新之助「ブッタ……釈迦如来のことです」
明智光秀 「お主、物知りだな」
岩原新之助「未来人とよく話をするので」
明智光秀 「岩原、童はどこの子なのだ?」
岩原新之助「実は上総介殿の長男です」
明智光秀 「……引き渡せと言った私の言葉は……」
岩原新之助「なにも聞いておりません。ご安心を」
徳川家康 「上総介殿が、三河の地を狙っている?」
酒井忠次 「はい。なんでも加茂郡挙母(現、豊田市中心部)の地に、大きな自動車工場を作りたいらしく」
徳川家康 「あそこってまだ中条の土地じゃなかったっけ?」
酒井忠次 「たぶん……くれてやりますか?」
徳川家康 「くれてやるもなにも、属国になりたいと打診しておるのだが……」
酒井忠次 「天下を獲る徳川家康が、弱気になるなと逆に怒られましたからなぁ」