暇潰しと二条城
「だるー」
上総介殿は、京の滞在場所でダラけていた。
覚慶を将軍にするために、取次役に動いてもらっているので、あとはその結果待ちだ。
まあ、結果はわかっている。
覚慶が次の将軍だ。
ただ、問題はそれがいつになるかだが……
「しばし、時間がかかる」
朝廷側から、そう言われている。
嫌がらせかなとも思ったけど、近衛様とかから絶対に違うと否定された。
縁起の良い日を選んでいることや、誰が使者になるかの調整をしているらしい。
朝廷としても、将軍を定めることには前向きなので、申し訳ないけど待ってくださいと丁寧に言ってきた。
俺に。
なぜ俺に?
上総介殿に言えばいいんじゃないかな?
一緒にいたんだから?
「ワシは、お主の手綱を離すなと厳重に注意されただけだな」
俺、変なことをしましたっけ?
「行動力があることが知れ渡ってしまっただけだ。
気にするな」
そうですか。
なんにせよ、覚慶が将軍になるまで待機。
……
一度、尾張に戻るのはどうかなと思うのですが?
「覚慶が将軍になるまで京に滞在してくれと朝廷から懇願されておる」
むう。
ならば仕方がないですね。
「うむ。
とりあえず、暇を潰すか」
承知しました。
暇潰し第一弾。
《公家ケマリーズ》対《三河SC》のサッカーの試合が組まれた。
「《公家ケマリーズ》は、蹴鞠の大家である難波家、飛鳥井家が中心となったサッカーチーム。
されど、難波家、飛鳥井家よりも家格が上の選手が何人か参加している」
上総介殿、急にどうしたのです?
「試合中に家格を前に出すことはないであろうが、どうしても忖度が発生してしまだろう。
チームとして機能するかどうかが、心配される」
えーっと、な、なるほど。
「対する《三河SC》はフォワードの本多選手と、トップ下の酒井選手がキーマンだ」
本多選手が攻めを、酒井選手が守りを指揮する分業制ですね。
「うむ。
大久保選手、鳥居選手、服部選手とエース級は揃っているが、層が厚いとはいえない」
つまり?
「《三河SC》の若手で期待される榊原選手、移籍でやってきた井伊選手をどう使うかが勝負の鍵とみた!」
な、なるほど。
注目ですな!
試合は7対1で、《公家ケマリーズ》の勝利となった。
「ほほほ。
南蛮蹴鞠などに、遅れを取ったりはせぬ」
「ほほほ、我らの足技。
甘くみないでもらおう」
「ほほほ、忖度?
外敵がいるときの、公家の結束力を舐めるでないわ」
勝利した《公家ケマリーズ》が煽っているが、それが許されるぐらいには強かった。
ボールを地面に落とさないパスサッカーに翻弄された《三河SC》は対応が遅れに遅れ、後手に回された。
その結果が7失点。
徳川殿が青い顔をして、上総介殿に謝っていた。
「手を抜いたわけではあるまい。
なにを謝る必要がある」
「上総介様……」
「此度の敗北を糧に、次の勝利を求めよ」
「ははっ!」
試合が終わればノーサイド。
織田家の主催で行われるバーベキュー大会に、《公家ケマリーズ》と《三河SC》の選手たちを招待した。
暇潰し第二弾だ。
「ほほほ。
織田家は金があるの」
「ほほほ。
……肉……美味し」
「ほほほ。
バーベキュー以外にも料理があるのか。
これななんという料理だ?
単鳥地金……縁起のよさそうな名前じゃの」
「ほほほ。
あの、いくつか家に持って帰りたいのだが……
うむ、家族に食べさせてやりたくて。
持ち帰り用も用意している?
すまぬ」
用意したバーベキューを始めとした料理は評判を得ている。
しかし、公家は肉を食べてよかったのかな?
「ほほほ。
無粋なことを言うでない。
これらは全て山鯨よ。
そうであろ?」
……失礼。
たしかに、これらは山鯨です。
遠慮なくどうぞ。
「ほほほ」
サッカーの次は、相撲をすることにした。
暇潰し第三弾だ。
上総介殿は無類の相撲好き。
上総介殿も喜んでくれるだろう。
「外国人力士の存在について、話し合おう」
……
「ワシとしては、強ければどこの国の出身であってもかまわないと思う。
むしろ、世界に広がれ大相撲!」
……
「女相撲も推奨!」
……
「ただ、男と女がぶつかるのはやめたほうがいいと思う」
……
「大相撲の東西分裂問題は……」
上総介殿、上総介殿。
テンションが上がっているのはわかりましたので、そのあたりで。
連れて来た外国人力士も参加していいですから。
女相撲も開催します。
行司の木瀬さん、すみません。
始めてください。
「はっ、では」
呼び出しが始まる。
「東西東西!
これより始まるは各地より選りすぐられた天下無双の力士たちによるぶつかり合い!
まずは東より出でるは、尾張の佐久間右衛門尉!
これを迎え撃つ西は河内の三好孫四郎!」
孫四郎殿、降伏に来たのに相撲に巻き込んで申し訳ない。
勝っても問題ないですから。
手を抜くほうが上総介殿の機嫌が悪くなります。
ええ、やっちゃってください。
右衛門尉殿も頑張れ!
「双方、見合って見合って……八卦良し!」
暇潰しのあいだの問題。
「覚慶が義秋の名で、借金していることが判明した」
……
「被害者は、朝倉の商人が主になる」
覚慶が越前にいたころの借金ということですか。
あれ?
しかし、あの時分は朝倉家がお金を出していたと思いますが?
「それだけでは足りなかったということであろう。
しかし、なぜその借金の支払いをワシに求めてくる」
上総介殿が、覚慶の保護者と思われているからでは?
「酷い誤解だ」
覚慶の書く手紙では、上総介殿のことを我が父と書いておりますが……
「……」
上総介殿、お待ちを。
いま、覚慶が負傷すると将軍になるのが遅れます。
京の滞在が伸びますよ。
「ぐぬぬ」
俺が上総介殿を止めていると、小姓が慌ててやってきた。
「ご報告!
覚慶様が、新たな屋敷を建築しております」
屋敷?
いや、次の将軍が屋敷を建ててもなにも問題はない。
先代……じゃなくて先々代の将軍である義輝様が使っていた屋敷は、弑逆されたところだから縁起が悪いしな。
問題は、どこにそんな金があったのかということだ。
「調べましたところ、義昭の名での借金を行っておりました!
貸し手は摂津、河内、堺の商人です」
おお、もう……
屋敷を建てる前に、いまある借金を返せよ。
いや、借金を借金で返すのは、問題の先送りでしかないけど……
ん?
それぐらいで小姓が慌ててやってきたのか?
「実はその屋敷なのですが……どうも、城の規模になりそうで。
なんでも、二条城を再建したいそうで」
「そういったことは、将軍になったあとでやれい!」
上総介殿、小姓に怒鳴っても仕方がありません。
「岩原。
これは殴りに行っても許されるやつだよな?」
そうですね。
徹底的にやっちゃいましょう。
あれが次の将軍じゃないほうが、平和な気がする。
しかし、尾張美濃の商人のためには、あれを将軍にしないといけないジレンマ。
暇潰し第四弾。
TVゲーム。
部屋の中に、上総介殿、俺、覚慶、浅井新九郎殿が集まり、コントローラーを握っている。
ここに覚慶がいるのは、余計なことをさせないため。
上総介殿がキレて連れて来た。
「ほほっ。
これでの伊勢は独占よ」
「ぐぬっ!
売られた隙をつかれてしまったか!
ならばこっちで……」
「ちょ、上総介殿、近江に手を出すのはご法度でござろう!」
「偶然、偶然だ。
賽の目が悪さをしただけよ」
「ほほっ。
ほれほれ、圧倒的な資金をもって大和を支配してくれる!」
覚慶は気にせずゲームを楽しんでいる。
この神経の太さは、将軍の資質だろうか。
「ほほっ。
誰も止められぬ!
このまま京もいただきよ」
まあ、調子に乗っているのはムカつくので、妨害。
「ぬおっ!
岩原、お主!」
覚慶の独占都市を崩していく。
「ぬおおおおおっ!」
うん、心から楽しい。
「岩原、よくやった。
この隙に……」
「頂くとしましょう!」
「ちょ、待って!
駄目、そこは駄目!
駄目ぇぇぇぇぇぇっ!」
覚慶が将軍になる三日前の出来事だった。
行司の木瀬さん 行司の初代っぽい。
佐久間右衛門尉 佐久間信盛。織田家の重臣。逃げ佐久間。
三好孫四郎 三好長逸。三好三人衆の筆頭格。
浅井新九郎 浅井長政。信長の妹の旦那。
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