将軍擁立拒否 (短編タイトル 満腹狼 織田信長)
地名説明
尾張 愛知県の中部、西部。愛知県の東部(岡崎市周辺)は三河。
美濃 だいたい岐阜県
越前 ほぼ福井県
北近江 滋賀県の琵琶湖の北東部分
南近江 滋賀県の琵琶湖の南部分
京 京都府の御所周辺
播磨 兵庫県の南側
摂津 ほぼ大阪府
大和 ほぼ奈良県
用語説明
合力 協力のこと。
将軍擁立 将軍任命者である朝廷に向けて次の将軍に任命してとアピールすること。
献金すれば、ほぼ通る。
俺は岩原新之助。
俺は馬を走らせた。
俺の目指す地は美濃の岐阜城。
そこで織田上総介殿に会い、主との面談の約束を取り付けることが俺に与えられた役目だ。
大事な役目ではあるが、簡単なことだと俺は思っている。
なにせ、主が上総介殿と会ってする話が、先代将軍の弟である覚慶様を将軍に擁立する話だからだ。
未来の将軍に頼られ、断る者などおるまい。
そのうえ、上総介殿は尾張が本拠地ではあるが、美濃を手中に収めると美濃に拠点を移した。
北近江の浅井家に妹を送り、手も結んでいる。
これは上洛を意識してのことだろう。
つまり、主が持ち込む話は、上総介殿にとっては渡りに舟なのだ。
断られるはずがない。
「断る」
………………え?
「聞こえなんだか?
断ると言ったのだ」
岐阜城の近くに形成された城下町の一角にある屋敷にて、俺は上総介殿と会うことができた。
そこまではよかったが、上総介殿は俺の話に興味を示さない。
なぜだ?
悪くない話だと思うが?
あ、さては将軍擁立とか話が大きすぎて、想像できないでいるな。
「あー、岩原だったか。
ワシは尾張と美濃の二国で十分。
これ以上は求めておらん。
上洛には興味がないし、将軍擁立に関わる気もない。
そう、主人に伝えるがよい」
「な、なぜですか?」
「なぜもなにも、興味がないものは興味がないのだ。
どうしようもあるまい」
「し、しかし……」
「では、例えばだが……例えばだぞ。
ワシが合力して、その覚慶殿を将軍にするために京に兵を進めるとしよう。
南近江の六角殿、越前の朝倉殿は合力してくれるのか?」
「それは合力するでしょう」
「阿呆。
するわけがなかろう。
合力するぐらいなら、自ら将軍擁立に手を挙げておるわ。
それをせんということは、京を守っておる三好と争いたくないということよ」
「お、お待ちを。
六角殿はわかりませんが、越前の朝倉殿は将軍擁立に織田が動けば、合力すると約束をしてくださっております」
「京に登れとうるさい覚慶殿を追い出す方便であろう。
まあ、義理程度の兵は出してくれるであろうが、戦働きは期待できまい。
つまり、ほぼワシの勢力だけで上京よ。
東国の田舎者が旗振り役で、将軍擁立のために上洛。
敵が多そうだな」
「さ、されど」
「されど、我が軍勢の力を持ってすれば蹴散らすことも可能。
全てを倒して回ったとしよう」
「なによりではありませんか」
「ふむ。
上洛を達成し、朝廷と交渉。
たぶん、これもワシがやるのであろうな。
なんとか首尾よく覚慶殿を将軍にしたとしよう。
ワシはどう扱われるのだ?」
「扱われるとは?」
「将軍家から、ワシはどう扱われるのかという話よ」
「それはもう、望むままの地位や褒美をいただけるでしょう」
俺はそう自信を持って答えたが、上総介殿は醒めた目をこちらに向けている。
なぜだ?
「望むままの地位。
例えばどのような地位があるのだ?」
「それはもう。
相伴衆とかでしょうか?」
「相伴衆か。
四職家の赤松、一色、京極、山名、それに加えて畠山、細川、大内が不満を持ちそうだな。
田舎者が生意気にと。
それを将軍が抑えられるのか?」
「もちろんです」
「はははは。
抑えられるわけがなかろう。
なにせ、少し前まで将軍のイロハすら知らぬ寺の坊主であったのだ。
将軍になったからと才気を発するわけではないわ。
身の回りにおる幕臣の言いなりよ」
「それはお言葉が過ぎるのではありませんか」
「言葉が足らんぐらいだ。
どうせ、ワシが苦労して将軍にしたとて、すぐにワシを敵視してくる。
なにせ、将軍家にとってもっとも邪魔な家が織田になるのだからな」
「そ、そんなことは……」
「ないと言えるか?
上洛したということは、南近江、京を手中にしておるということ。
三好を蹴散らしたのであれば、播磨に摂津、大和もワシのものであろう?
そういった大勢力を、将軍家は味方だからと重宝してくれるかの?」
「うぬ……」
「せんであろう。
逆に、ワシが三好を蹴散らす邪魔をするであろう。
播磨は誰それの領地故、その者に任せよとか言ってな」
……
上総介殿の予想は、ありえる。
覚慶様と直接、お言葉を交わしたことはないが、嫉妬深い性格なのは見てとれる。
そのうえ、覚慶様の周囲にいる幕臣たちは、三好が支配していた地に拠点を持っていた者が多い。
つまり、播磨に摂津、大和に領地を持っていた者が多い。
三好の本隊と決戦でもしたあとなら、遠慮なく足を引っ張ってくる。
「わかったであろう?
興味がないと言った理由が」
「お、お待ちを。
上総介殿のお気持ちはわかりましたが、せめて某の主とはお会いしていただけませぬか」
「会ってもよいが、断るだけだぞ。
ああ、主の名は明智でよかったかな?」
「その通りでございます」
「うむうむ。
まあ、ワシを殺す者だ。
顔ぐらいは見ておこうかの」
「は?」
「ああ、なんでもない。
こちらの話だ。
それよりも、飯でもどうだ。
最近は食への興味が増えてな」
「えっと……」
「気楽な席だ。
かしこまる必要はない。
おーい、料理番。
今日は飯はなんだ?」
「モ●バーガーっす」
「そうか。
じゃあ、モ●バーガー、テ●ヤキチキンバーガー、オ●ポテ、飲み物は……ジンジャーエールにしよう」
「承知しました。
お連れさまはどうします?
こちらのセットをお薦めしておりますが」
「え?
セット?
え?
じゃあ、そ、それで……」
「承知しました。
少々、お時間をいただきます。
お席にてお待ちください」
……
なんだろう?
模様の書かれた札を渡されたが……
「席の近くに立てておけばよい」
はぁ。
「まあ、こうやって待っている時間も楽しいものだが……
そうだ。
ワシの領地の秘密を少しだけ教えてやろう」
「秘密……ですか?
よろしいので?」
「ふむ。
隠しても無駄だと言われておるからな。
かまわんだろう」
隠しても無駄?
どういう意味だ?
「すぐに露見するということだ」
はぁ?
「秘密と言っても、たいしたことではない。
ワシの領地には、なぜか未来から人がやってくるのだ」
……は?
「一人二人ではないぞ。
ワシが知っているだけで百人を超えている」
上総介殿はなにを言っているのだ?
「その百人を超える未来人は、ワシの領地に未来の知識を与えてくれる。
ワシが断ってもな。
好き勝手にやっておるわ」
は、はぁ。
「お陰で尾張と美濃の生活環境は激変した。
この部屋、夏場で閉め切っておるのに、過ごしやすいと思わないか?」
「え、ええ、心地よい涼しさで……」
「そこの箱。
エアコンなるもののお陰よ」
「この箱が?
たしかに冷気を出しておる」
「でもって、こっちの箱がテレビ。
別の場所の様子がわかる」
「さきほどから気になっておりました。
箱の中に、どのようにして人が入っているのかと」
「誰かと会うときは消せと怒られるのだがな。
それで、この板がスマートフォン。
遠くの者と会話ができる」
「なんとっ!
た、た、たしかに声が聞こえる」
「発電機……は、見ても面白くないな。
蒸気機関のほうを見せてやろう。
あれはわかりやすくていいぞ。
まあ、野外でないといかんので、飯のあとになるがな」
「そ、それは楽しみですな」
「うむ。
馬、千頭分ぐらいのパワー……力を出すからな。
驚き過ぎるでないぞ」
馬、千頭分の力?
想像もつかん。
「あと、飛行機も乗せてやろう。
なかなかできん体験だぞ」
飛行機?
なんだかよくわからんが、ワクワクする言葉だ。
「ちなみにではあるが、ワシが今川を破った田楽はざまの戦いでは、このドローンが活躍した」
ドローン?
「ほれ、このように浮くのだ。
そして、このドローンが見ているものがこっちのモニターに映し出される」
……
驚き過ぎて言葉がでん。
されど、上総介殿が冗談を言っているわけではないと理解できた。
未来人か。
恐ろしいものだ。
……
ん?
未来人?
「つまり、上総介殿は未来人より、これから起こる出来事を聞いているのですか?」
「そうなる。
あ、いまドローンを操縦しておる者が……木下藤吉郎というのだがな、天下を獲るらしいぞ」
この愛嬌のある顔の男が?
まさか。
驚いておると、食事が運ばれてきた。
上総介殿が手を叩いて喜んでいる。
「やっと来たか。
だが、待つだけの味ではある。
どれ、食べようではないか」
「は、はぁ……」
珍妙な料理だが……まあ、上総介殿の様子を真似ながら頑張った。
味は……美味い。
天国の料理かと思った。
「岩原よ。
ワシはこのようにエアコンの効いた部屋で快適に暮らし、美味い飯を食べ、テレビやスマホで情報を得ておる。
移動も飛行機や自動車……自動車はさきほど言った蒸気機関を使った乗り物よ。
速いぞ。
それに乗って移動しておる。
この岐阜の屋敷から、尾張の清州まで一刻もかからん。
道路の整備もしておるからな。
そのうち、ワシだけでなく、尾張や美濃に住む者がワシと同じ生活をするであろう。
そうなると……
このまま未来人に従って内政をやっていれば、十分じゃないか。
天下とか必要ないんじゃないか。
そう思うようになってな」
……
返す言葉がない。
俺も、この料理を毎日食べられるなら、上総介殿に仕えたいと思ってしまったのだから。
「ああ、モ●は美味いが、毎日食べるものではない。
料理番よ、次はなんだ?」
「次は吉●家っす」
「牛か。
悪くない。
動いて腹を減らしておこう」
吉●家とやらは、毎日食べられるのかな?
などと思っていたら、部屋に上総介殿の部下が慌てて飛び込んできた。
「来客中ぞ!
どうした!」
「し、失礼しました。
さきほど、清州より連絡がありました!
新たな未来人が到着されたそうです!」
上総介殿はその報告を受けても落ち着いていた。
慣れたものなのだろう。
「すまぬ、ワシのスマートフォンにも連絡が入っておった。
メッセージ機能が、まだ上手く使いこなせんでな。
だが、その程度ではそこまで慌てることはなかろう」
「今回、到着した未来人ですが、なんとハ●ター×ハ●ターの最新話を知っております」
「最新話と?
現在の最新は三百七十であるが……」
「はっ。
四百を超えて、知っておるそうです!」
「まことかっ!
こうしてはおれん、飛行機を用意せよ!
清州に参る!
料理番、飯は清州で運べ!」
「殿、私もご一緒しても!」
木下殿が揉み手で上総介殿に近づき、許可される。
こういったところは抜け目がないから、天下が獲れるのか?
「岩原、お主もついて参れ。
一話から丁寧に読み聞かせてくれる者がおる」
読み聞かせ?
なにを?
「ハ●ター×ハ●ターだけではない、ワ●ピースや呪●廻戦もあるぞ。
完結しているものであれば、ド●ゴンボール、鬼●の刃とか、キ●肉マン、シ●ィーハンターもお薦めだ」
俺はわけがわからぬまま、十日ほどを織田家の領内で過ごした。
主からもらった大事な役目は、綺麗に忘れていた。
それより、ワ●ピースの続きを!
清州、清州で待てばいいのですか?
岩原新之助 オリ主
織田上総介 織田信長のこと。本能寺の変で討たれる人。
木下藤吉郎 豊臣秀吉のこと。のちの天下人。
覚慶 足利義昭(室町幕府15代将軍)のこと。
明智 明智光秀のこと。本能寺の変で信長を討つ。
Q「なぜモ●?」
A「昼、モ●を食べたから」
柴田勝家「ス●ダンが最高」
丹羽長秀「ジ●ジョでしょ」
滝川一益「ナ●トもいい」
前田利家「る●うに剣心も……」
徳川家康「五●分の花嫁は……」
本多忠勝「殿、それはジ●ンプ作品ではありませぬ。あ、三女は拙者の嫁でござる」