第97話「磁石の迷宮-2」
「む、トキ姉ちゃん」
「分かっています。挟まれましたね」
「推定ですが、前方に大型のモンスターが一体、後方に小型のモンスターが数体ですね」
私たちが『迷宮』の中を『箱』の回収を行いながら探索していると、時折身を隠すには小さいくぼみが有る前後に伸びた通路の真ん中で突然ソラが声を上げ、それに続く形で私と風見さんもモンスターの接近に気づきます。
音の感じからして風見さんの言うとおり、正面は大型のモンスターで、後方は小型のモンスターが多数いる感じですね。
「アアァァマアァァ……」
「「「ヘルヘルヘル……」」」
「どうするでやんすか?」
私たちが身構えると同時に正面では体高が2m近い金属の甲羅を持つ亀型のモンスターが下からせり上がって現れて通路を塞ぎ、後方では何処からともなく棘の生えた兜の様な甲殻で身体を覆っているモンスターが数体現れます。
確か亀の方がアーマーで、兜の方がヘルムとか言いましたっけ。
と、何時までも考えている暇は有りませんね。
「正面のは私とソラで、後方のは穂乃さんたちにお願いします。三理君は自身の身の安全を第一にしてもらいますが、可能ならアーマーの核を」
「分かりましたわ」
「「分かりました」」
「了解」
「分かったでやんす」
私は全員に指示を出してそれぞれが対応する相手を定め、私の指示に従って穂乃さんたちはヘルムたちへの攻撃準備を始めます。
さて、私の記憶が確かならアーマーの核は尻尾の付け根に在ったはず、となるとこの場でアーマーの核を狙うのなら三理君に回り込んでもらうしかないですが、案内役である彼の体力は可能な限り残しておきたいですから、出来るなら私とソラだけで倒したい所ですね。
「アアアァァマアアァァ!!」
「トキ姉ちゃん!」
「大丈夫です!」
アーマーが咆哮を上げつつこちらに向かって突進を始めます。
この狭い通路では横に逃げられるだけの空間が有りませんから、本来ならばこれだけで一つの班が壊滅しかねない攻撃でしょう。
なら私がやる事はとても単純です。
「アメノマ様!」
「アアァマァ!?」
私は盾を強化した上で全員の前に出て盾を構えます。
そしてアーマーの頭と私の盾がぶつかり合い、激しい火花と金属音が周囲に撒き散らされます。
アーマーの声には何処か驚きの色が含まれていますが、まあ驚くのも無理は無いでしょう。
本来ならアーマーの突撃は普通の人間には……より正確に言えば今私が使っているような神力を大幅に増幅する効果のある装備でも身に付けていなければ絶対に止められないはずの一撃なのですから。
まったく、もう慣れましたが、茉波さん謹製の装備には本当に驚かされますね。
ですがこの装備で最も驚くべき点は……
「カグツチ様!」
「アアァァグアマァ!?」
私にとっては得手では無い攻撃能力も一般的な討伐班アタッカーを上回る程強化される事です。
現に私の盾から大量の熱が発せられ、アーマーはその熱によって思わず叫び声を上げながら仰け反ります。
「タヂカラオ様!うわっ!?」
「グガァ!?」
そして私の攻撃に続けてソラがアーマーに飛びかかり、これまた茉波さんの装備によって今までよりも明らかに強化されたハンマーを振るい、あろうことかアーマーの頭を潰しつつその巨体を浮かして見せます。
ソラも驚いていますが、アレは私でも流石に驚きますね。
アーマーは少なくとも『凍雲』数台分の重量は有ったと思うのですが、その体を浮かせるだけの一撃を放ち、それでいて殴った側のソラとハンマーは傷どころか反動がまるで無いとは……。
……。あの人が本気を出せば本当に世界が変わりそうな気がします。
「アマ、ガッ、アアァマァァ……」
「あーもう!危ないでやんす……」
アーマーが地響きと激突の音を周囲に撒きながら床に倒れ込むと同時に、アーマーの後ろの方から三理君の声が聞こえます。
どうやらいつの間にか回り込んでいたようです。
となれば、
「ね!」
「アアアァァァマアアアァァァ!?」
アーマーが叫び声を上げると同時にその身体が土くれに変化し、私とソラの前で直前まで有った重量感の欠片も無く崩れ去っていきます。
そして完全に崩れ去った後に見えてきたのは短剣を突き出す三理君の姿。
どうやら的確に核を狙って破壊して見せたようですね。
「と、手助けをする暇も有りませんでしたわね」
「それはこっちの台詞だから」
と、後ろで戦っているはずの穂乃さんから声が掛けられたのでそちらの方を振り向くと、何体も居たヘルムたちは見えない壁に当たったかのように一列に並ぶ形で残らず土くれになっていました。
攻撃と土くれの残り方からして、布縫さんが攻撃を防いだところに穂乃さんと風見さんが同時に攻撃を仕掛けた感じですかね。
「そっちも簡単に終わった感じですか?」
「ええ。それと、前から分かってはいた事ですが、やはり茉波さんの装備は恐るべき威力ですわ。軽く制限を緩めただけでしたけど、布縫さんに守りを任せていなければ危なくて使えたものではありません」
「それには私も同意です」
穂乃さんの言葉に風見さんが肯いて同意を示します。
やはりと言うべきでしょうか、二人ともまだ慣れ切っていないようですね。
「ですが制御しきれなくても『マリス』相手に制限をかけている余裕は恐らくありません。実戦ついでに慣れておいてください」
「言われなくても分かっていますわ」
「土くれの回収終ったでやんす」
「分かりました」
と、私と穂乃さんが話している間に三理君が土くれの回収を終えてくれたようなので、私は全員に集合の声を掛けると、身体や装備の状態を確かめてから再び『迷宮』の中を進み始めました。
今のところは順調です