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第94話「兵器試用中」

「「「…………」」」

 巨大な爆音と猛烈な爆風と共に大きな水柱が立ち昇り、それらに追従するように私たちの頭の上から大量の海水が降ってきます。

 その今までの装備では早々起こりえなかった光景に、目の前の現象を引き起こした穂乃さん自身を含めて私以外の全員が唖然としています。


「こ、これは確かに表に出せませんわね……」

「どうして此処を使わせて貰えたのか分かりました……」

「ははは、確かに結界も張られますよね……」

「また私の常識が壊れた気がするなー……これだから特務班は……特務班は……」

「全員、気持ちは分かりますけど、気をしっかり保ってくださいね」

 ここはジャポテラス南東の海上に設置されている治安維持機構の特別演習場。

 茉波さんに兵器製造を頼んでから一週間経ち、対『マリス』用装備の試作品二号が出来上がったために、私、穂乃さん、布縫さん、風見さん、伊達さんの五人は、装備を受け取るとその性能を確かめるべくスサノオ様の結界が張られたここへやって来ていました。

 そして、穂乃さんが新型の儀礼剣でカグツチ様の火球を放った結果が先程の水柱であり、その威力から新型儀礼剣の効果のほどを事前に知っていた私以外は絶句したわけです。

 まあ、初見では誰でも驚きますよね。

 殆ど力を込めずに撃った一撃だったのに、今まで自分が戦闘中に放ってきた一撃よりも威力があったのですから。


「で、実際の所制御は出来そうですか?」

「何度か試してみないと分かりませんが、訓練を積めば誤射しかけた時に直前で軌道を変える、消す、そうでなくても爆発を起こさないようにすると言った制御はたぶん利かせられると思いますわ。ただ出力を抑えるのは……」

 そう言う穂乃さんの顔は何処か渋そうな表情をしています。


「難しい。と?」

「勿論、出来ない事は有りませんわ。ただ今までの装備とは増幅される率も感度も違い過ぎますから、それに合わせて私自身の感度を矯正しないといけませんの。なのでそれ相応に時間はかかると思いますわ」

「なるほど……」

 言われてみれば確かにと私は感じました。

 今までは水道の蛇口で例えるのなら、威力を上げたいのならとにかく多く蛇口を捻ればよく、威力の調節も多少は大雑把にやっても良かったのでしょう。

 けれど今の装備では、今までなら威力に殆ど影響のなかった程度に蛇口を捻っても威力が大きく上下してしまう。

 狙った相手だけを攻撃することを目的とした場合、確かにこれでは困るかもしれないですね。

 主に味方を巻き込むという意味で。

 となると……


「どうします?茉波さんに相談してみましょうか?」

「そうですわね……今までと同じ感覚で扱えるように制限を掛けた状態と、制限を外した状態、その両方を使用者の意思で切り替えられるようにした方が良いかもしれませんわね。勿論最良はそんな外付けの機構が無くても使用者自身が自由自在に制御できるようになる事なのでしょうが」

 やはりと言うべきか慣れるまでは調節や特殊な制御が必要なようですね。

 ディフェンダーやエンハンサーはともかく、威力が高すぎてもシューターの様に敵に対して何かしらの行為を行う者にとっては問題になる。

 全く持って頭の痛い問題ですね。

 と言いますか、これだけ制御が難しいと全開状態の試し撃ちはスサノオ様の結界がある此処でしかできない気もしますね。


「ひゃああぁぁ!?」

「風見さん!?」

「やはりと言うべきか風見さんも苦戦していますわね」

「素直に茉波さんに頼みましょうか」

「ですわね」

 そして私たちがそうやって話している間にも風見さんが自分で制御しきれない猛烈な突風を生み出してしまい、その反動で海の中に転落してしまった所を布縫さんに引き上げられていました。

 これはもう素直に茉波さんに頭を下げて制御機構を付け加えてもらうしかないですね。

 あまりにも危険すぎます。

 勿論、穂乃さんなら全開状態の制御の練習を今後も続けるでしょうが。


「それで、トキさんとソラさんの方はどうですの?ソラさんに至ってはそもそも此処に居ませんし」

 と、ここで穂乃さんが私と此処には居ないソラについて話を振ってきます。


「私の方は例の能力について我流で検証と訓練を重ねているところですね。どうにも力を授けている神様がジャポテラスに所属する神様で無いらしく、そのせいで前例が見つからないそうですから」

「例の……ああ、一瞬先の予知でしたか。確かに遠い未来ならともかく一瞬先の未来と言うのはあまり聞かない力ですわよね」

 実際のところ、あの能力は私の体にかかる負荷も大きいですし、何処の神様の力なのか分からないというのは色々と不安にさせてくれます。

 それでも頼らざるを得ないのが現状なわけですか。


「それでソラさんについては?」

「ソラについては……例のサーベイラオリと言う神様の力を索敵だけでなく、攻撃にも生かすための特訓をしてくると本人は言っていました。傍目にはただハンマーをその場で振っているようにしか見えませんでしたが」

「何と言いますか、本当に修行を積んでいるのか不安になる光景ですわね……」

「たぶん……大丈夫でしょう。ソラはアキラさんの件で一番落ち込んでいた一人ですし」

「それはまあ……そうですが」

 私も穂乃さんも若干の不安を覚えながらも、ソラの普段から考えて流石にこの場で一人修行をサボるようなことは無いと判断して話を続けます。

 と言いますか、もしサボってたら特務班から叩き出されるぐらいは覚悟してもらいますけど。


「それにしてもアキラ様はいつ帰ってくるのでしょうね……」

「そこはスサノオ様たちを信じて待つしかありません」

「はあ、この件に関しては待つ事しか出来ないというのが本当にツラいですわ……」

 そして本日二度目の巨大な水柱が立ち上がるのを見届けながら、私たちは訓練に戻りました。

 アキラさん、早く帰って来てくださいね。

今まで半捻りで出てきた量が、四半分どころか少し動かしただけでも出てきたらそりゃあ感覚が追いつきませんよね。


09/30誤字訂正

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