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第91話「『マリス』対策装備-3」

「さて、大別した場合この資料に書いてあるものは二種類に分けられる」

 私は茉波さんの言葉を耳で受け取りながら、一頁目に記されている表題、文章、図と読んでいきます。


「一つは既存の武器の純粋強化型」

 最初に記されていたのは複雑な文様が剣の腹に描かれた儀礼剣でした。

 茉波さんの言うとおりどうやら既存の儀礼剣を強化したもので、剣として使用した場合と神力を強化するのに使った場合との二通りに関して強度、効率、出力がどれだけ上がるのか、またどうやればこれを作れるのかと言う製造法についても簡単にですが記載されています。

 何と言いますか……これだけなら特に問題は無いのでは?別に表に出してもいいのでは?

 そう私は感じました。

 けれど文章を読み進め、図を精査していく内にこれがどれほど恐ろしいものかを私は理解させられました。


「見て貰えれば分かるように、少々の加工を施すだけで既存の武器の出力や強度を“危険性”と一緒に数倍に……いや、今の俺の技術なら十倍以上に伸ばせるか」

「これは……!?」

 そう。この技術を使った場合、あまりにも強化されすぎる。

 私とカグヅチ様が交わしている契約ですら、この技術を使えば今の穂乃さんと同等かそれ以上の威力を持つ炎を放ち、物を熱することが出来る様になってしまう。


「……」

 私は思わず息を飲みます。

 確かにこの武器を使えば出力は上がるでしょう。

 ですが、それに伴って制御することは難しくなり、茉波さんの言うとおり危険性も跳ね上がるでしょう。

 特に同士討ちが起きてしまった時は今以上に悲惨になる事も目に見えますし、それを防ぐために必要な訓練の時間も膨大なものになるでしょう。

 いえ、これを書いたのは昔の茉波さんです。

 それならば、今の茉波さんなら制御関連はどうにかなるのかもしれません。

 ですが、いえ、制御までしっかりとしていたらここに記載されているものがそのまま世間に出る以上に……世間に与える影響が大きすぎる。

 もしも治安維持機構外の人間に渡ってしまったら、ジャポテラスの外に居る人間に伝わってしまったら……。

 そう考えただけでも十分に恐ろしい事実がそこに書かれていました。


「そっちの気持ちは分かるンだが、そこに記載されているのはまだいい方だ。問題は大別した場合の二種類目だ」

「え?」

「その紙をめくってみると良い」

「は、はい……」

 私は茉波さんに促されるがままに頁をめくって次の頁に目を通します。

 表題は『銃』。

 持ち手の付いた細長い筒が完成形として表記されており、説明文を見る限りでは火薬を用いて金属製の小型弾丸を高速で射出、対象を殺傷する武器のようです。

 確かに新しい武器ではありますが、一見すれば問題は無いように見える……と言うか私の目で見た限りでは特に問題は無いと思いました。

 文章の末尾に書かれているその一文を見るまでは。


「『なお、この武器はあらゆる神の力を必要とせずに製造・運用することが可能であり、その場合でも威力としては低位の契約によって防御能力を強化した程度の人間ならば十分に殺傷可能である』……って、これは!?」

「そこに書いてある通りだ。この資料に書かれている物を二種類に分けた場合の二つ目は、神力を製造・運用するにあたって一切必要とせず、にもかかわらず十分な殺傷能力等を有する装備、兵器群だ」

「それは……」

 私にはそれがどれほど恐ろしいものなのか、その詳細に至るまでは理解できませんでした。

 新しい技術や武器だからではありません。

 先程の強化型儀礼剣など問題にもならない程にこの技術がもたらすであろう混乱と問題が大きすぎるためにです。


「アマテラス様曰く、少なくとも歴史の一つや二つは軽く変わる。だそうだ」

「だと思います……」

 茉波さんが自嘲気味に言った言葉に対して私は弱弱しくそう返す事しか出来ませんでした。

 実際、間違いなく歴史は変わるでしょう。

 攻め方も、守り方も、そして神様と人間の関わり方も。

 必要なくなったものに何時までも執着し、信仰し続ける人間と言うのはそれほど多くないはずなのですから……。


「まあ、実際に表に出す際にはアマテラス様たちと協力して神力を絶対に使わなければ力を発揮しないようにした上で、可能な限り中身の(ブラック)(ボックス)化と所有者以外には使えなくする専用化を進めるがな。それに神力を使わなくても製造は出来るが、神力を使って製造した方が良い物が出来るのも事実としてあるしな」

「そう……ですか。なら少しは安心できますね……」

 私は茉波さんの言葉に胸をほっと撫でおろします。

 これだけの技術を有している茉波さんに加えて、アマテラス様たちが協力してくださるのなら私が危惧するような事態は起きなくて済むでしょう。

 と、ここで一つ気になったのですが……


「そう言えば茉波さんってアマテラス様の声が聞こえているんですか?」

「ン?ああその話か」

 さっきからの話を聞く限りではと言いますか、今までの付き合いを鑑みる限りではどうにも茉波さんとアマテラス様たちの関わりがかなり深い様に感じます。

 なので私は質問を投げかけてみたわけですが、その答えは私の予想以上のものでした。


子供(ガキ)の頃にそこに書かれている銃を思いついてな。それ以来、監視名目でアマテラス様とウカノミタマ様の声は聞こえる様になってンだよ。で、俺が拙いものを作っちまった時は二人から直ぐに証拠が残らないように壊す事を求められる。だから身を守る加護は貰えても、物造りに関係するような力を俺は基本的に貰っていない。まあ、その辺りも色々と隠しておかないと拙いことだらけだから具体的な内容は喋れないがな」

「……」

「ただまあ、俺は今のゆっくりと変わっていくジャポテラスが好きだからな。俺の技術が変化と言う枠で収まらない様な規模で今のジャポテラスを壊すのなら自分の作品を壊すのもやむなしだし、仮に二人の言う事を俺に聞く気が無かったら、今頃は最初から居なかった事にされるぐらいは有ったンじゃないか?」

「……」

「どうした?」

「いえ、ナンデモアリマセン……」

 とりあえず茉波さんに関して一つ確かなのは、考え方によってはアキラさん以上に、そうでなくとも並の神主や巫女程度では相手にならない様な次元で神様から重要視されているという事だと私は思いました。

 その後、私は何とか自分に理解できる範囲の兵器で有用そうなのを見繕って製作を依頼すると、ソラと一緒に対『マリス』用装備の試作品を試して問題点を洗い出した後に開発班本部を後にしました。

ちなみに銃は銃でもマスケット銃のような初期のものでは無く、ライフル銃の様な近代~近未来の銃だったりします。

つまり茉波さんが頑張り過ぎると、この小説のジャンルがファンタジーからSFに変わりかねなかったりします。

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