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第9話「神療院-4」

「この供述調書は間違いないのかね?」

「ええ、一言一句本人の供述通りです」

 治安維持機構の一室。

 そこではアキラに対して行われた事情聴取の内容を記した書類を持って二人の男が話をしていた。

 ただ、男の片方……大多知ユヅルは何でもないと言った顔をしているが、もう片方の偉そうな男性は見るからに悩ましそうにしていた。


「馬鹿を言うのも程々にしろ……これが本当なら騒ぎになるどころではないぞ……」

「そう言われましてもサトリ様の御力で本当のことを言っているのは確かだと分かっていますし、オモイカネ様の御力でこう言う手を取った事に対して意味が有る事も分かっています。加えて言うなら私の耳を介して今回の話を聞きつけたスサノオ様からは、本人が動ける様になったらタカマガハラに連れて来てほしいと言われていますからねぇ……」

「はぁ……最早儂らの手に負える範囲では無さそうだな……」

「それには同意します」

 偉そうな男性の吐いた溜め息にユヅルは思わず同意を示す。

 実際、ユヅルは今回の件は自分たちの手には負えないと思っている。

 なにせ神をまるごと一柱内包した少女(元男)と言う点まではいいが、少女はジャポテラスで『迷宮』に関わる仕事をしているはずの人間でも極一部の人間しか知らず、ましてや会えば必ず死ぬと言われているはずの『迷宮』の主と思しき存在にも出会い生き残ったと言う、聞いたユヅル本人でも俄かには信じがたい存在だからだ。

 しかもこの都市(ジャポテラス)の主神であるアマテラスの弟君であるスサノオが面会を求めていると言うのは彼らの知る限りでは一度も無かったことである。


「いずれにせよだ。スサノオ様が面会を求めていると言うのなら、傷が治り次第適当な護衛を付けて向かわせるべきだな。こちらで準備をしておこう。早ければ明日には選出できているだろう」

「お願いいたします。では、私は別件がありますのでこれにて」

「ああ、そちらの件もよろしく頼む」

 そしてユヅルが一礼をしてから部屋を後にすると、偉そうな男性も溜め息を吐きつつも自らの仕事をこなし始めた。



■■■■■



「にしても俺って丸一日寝てたんだな」

「ええそうよ。正直あれだけの傷だったのにどうしてもうこれだけ動けるのかは理解できないけど」

「そりゃあたぶん契約している(イース)の力だと思いますよ」

 目を覚ました翌日。

 俺は傷の検査を受けたが、傷が綺麗さっぱりに消えていたと言う事で昨日の女医さん……確か桜井とか名乗ってた……の監督下でリハビリを始めていた。

 尤もリハビリと言うよりは新しくなった体に慣れる為の練習と言った方が正しい気もするが。

 ちなみに傷の治りが早いのは本当にイースの力である。

 蜥蜴だけあって再生能力は高いらしく、時間と力さえかければ腕一本ぐらいは普通に再生できるそうだ。現に心臓一歩手前まであったはずの胸の傷も傷跡一つ残さず既に治っている。


「神“様”でしょ。力を授かっているんだから敬意はきちんと払うべきよ」

「……」

 女医さんの言葉を無視して俺は柔軟運動を続ける。

 敬意を払え……ね。イース相手に敬意を払う気は何故だか起きないな。尤もそれ以外の神に対しても信仰を捨てた俺としては敬意を払う気はまるで起きないが。


「それでアキラちゃんはこれからどうするの?同姓同名の子が治安維持機構に居るまでは確認されたらしいけどそれは別人らしいし、行く当てとかあるの?」

「それがお……いや、何でも無いです。行く当てはないですけどやるべき事は有りますから何とかしますよ」

 俺は女医さんの言葉に反論しようとするが止めておく。

 いきなり男が女になったと言っても信じられないだろうし。最悪、頭の中を色々と疑われそうだしな。

 やるべき事は分かっている。

 だが、その目標を達成するための準備がまるで整っていない。

 俺の実力もそうだが特に装備面が整っていない。イースの魔眼じゃ、現状動きを止める事しか出来ないしな。

 うーん、治安維持機構の討伐班ってどうやれば入れたっけなぁ……確か書類とか選抜試験とか色々と面倒な事が有るんだよなぁ……まあ、最悪フリーの傭兵のようにでもなって、独力でどうにかする方法も考えておくか。


「何とかねぇ……あら?」

「ん?」

 と、こちらに向かって看護士の男性が近づいてくる。


「すみません。失礼します。実は桜井医師にお話が有りまして……」

「何かしら?あっ、向こうで聞いた方が」

「いえ、そこの患者さんにも関係が有る事なので一緒に聞いてもらった方がよろしいかと」

「ん?」

 どうやら俺と女医さん両方に関わる話が有るらしい。

 と言うわけで俺は柔軟を止めて男性の方を向く。

 すると男性が一度慌てた様子で顔を逸らし、桜井医師が一度咳払いをするとこちらに意識を向けないようにしているのが見え見えな様子で話を始める。


「話と言いますのは、彼女の傷が治った後になりますがスサノオ様から彼女をタカマガハラに連れて来てほしいと言う通達でして、既に治安維持機構の方では護衛用の人員を選出する作業が終わっているそうです。つきましては……」

「彼女を外に出して良いかの判断を私に聞きに来たと言う訳ね」

「そう言うことになります。あ、こちらはその件に関する書類です」

 ……。スサノオ様って……あのスサノオ様か?いやいやまさかな。流石にこれは有り得ない。

 治安維持機構のトップどころか、ジャポテラスで最も偉い神様の一人だぞ。そんな存在が俺なんかに用が有るとはとてもじゃないが思えない。


「ふーん……」

『我としては本物のスサノオ殿なら是非ともお会いしたい所ではあるな』

 が、女医さんはとても真剣な表情で書類を読み、イースは分かり易いぐらい乗り気になっている。

 ……マジなのか?これマジなのか!?いや、待て絶対におかしいだろ!タカマガハラとか高位の貴族でも滅多に立ち入れる場所じゃねえだろうが!?ジャポテラスに所属する神々が集う神聖な場だぞ!そんなところに信仰を捨てた人間を呼ぶとか絶対に間違っているだろうが!?

 あーでも、仮に本当ならイースの為にも行かざるを得ないのかもしれない。うう、何だか緊張で胃が痛くなってきた……。


「分かったわ。そう言う事なら明日の午後にでもいいわよ。今日は流石に精密検査が有るから駄目だけど、身体の傷自体はとっくに治っているし、精神面も問題なさそうだから」

「!?」

「分かりました。そう言う事ならそう言う方向で対応させていただきますね」

『おお会えるのか!これで我の荷が一つ降りるな!よし行くぞ!絶対に行くぞ!』

「ええ、よろしくね。彼女の服はこっちで適当に見繕っておくから。良いわよねアキラちゃん」

「…………はい」

 で、俺が何かを言う前に許可は下りてしまい、イースの求めも有って俺は行かざるを得ない状況に陥る事になった。

 とりあえず女物の服だけは何としてでも拒否しておこう。流石にまだそういうのを着る気にはなれない……。

根が小市民なので、信仰を捨てても思わず敬ってしまう相手は敬ってしまうのがアキラです。

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