第86話「対『マリス』対策会議-2」
「結局こうなりましたか」
「まあ、当然と言えば当然の帰結ですわね」
「はっきり言ってまだ情報が少なすぎるってのもあるけどね」
窓の外で日が沈みかけた頃、『マリス』対策を話し合っていた私たちは一応の結論に達していました。
「じゃあ、一つ一つ再確認していくっすよ」
「お願いしますわ」
「よろしく頼みます」
と言うわけで、諜報班としてこの手の仕事の経験もあったのかいつの間にか書記のような立場に収まっていた三理君が音頭を取る形で、出た結論を改めて確認していきます。
「まず現在集まっている資料を読む限りでは『マリス』は『迷宮』の主の上位個体として認識するべき実力を持っていて、その核は通常のモンスターと違って紫色をしているっす」
「で、人間との身体能力の差は明らかで、知性を有し、おまけに個体ごとに個別の特殊能力を有している……か。となればだ」
「そうっすね。まず汎用の対策としてはこちらの身体能力の強化と、相手が人間大であることを鑑みて一撃の威力を重視した通常のモンスター向けの大型武器では無く、小回りが利くような武器……それこそ討伐班では無く治安班が使っているような人間を相手にする武器の方が大きさ的には良いっす」
「尤も、相手が相手ですから小型化はしても威力をそこまで下げるわけにはいかないのも事実ですわね」
「そこは茉波さんの技術力と、アタシたち自身が修行を積んでより多くの力を貸し与えてもらえるようになるしかないでしょ」
まず対『マリス』への汎用的な対策としては、私たち自身の強化と適した装備品の開発と言う事が考えられました。
具体的に言うなら、私の場合は盾のサイズを小さくすると同時に、例の神様の力を長時間使えるようになると言ったところでしょうか。
ソラの場合ならハンマーの大きさを小さくし、代わりに打撃面の先を尖らせるとかですね。
「後は相手が人の形をしているってことは、人体の構造上弱点になっている場所は『マリス』にとっても攻撃されたくない部位である可能性は高いよね。目は見た感じ頭にしかないし」
「実際、多少壊れていると自己申告してたっすけど、中身が元人間である事を考えるとあまりにも生前と離れ過ぎた体は扱えないと思うっすからねぇ。目や耳、腰や関節なんかへの攻撃は十分に有効だと考えられるっす」
「ただあくまでも“考えられる”程度ですから、拘泥はしない方がいいですわね」
「むしろ人間としての知性を有しているなら、それを逆手にとった罠なんかも有効と考えても良いですわよね」
次に『マリス』は人間の姿と知性を有している。
と言う点から人間に対して有効な攻撃手段のいくつかは『マリス』にも有効であると私たちは考えました。
尤も、内臓や血液、それどころか骨を有しているかも怪しい部分があるので、人間に近い部分を利用して攻める場合はそれぞれの個体に合わせて罠を仕掛ける方がいいのかもしれませんが。
「となるとそこは生前の二人を調べて仕掛ける罠とかを決めた方が良いっすから、あっしの仕事っすね」
「そこはよろしくお願いします。どの程度かは分からないですけど、資料を見る限りでは結構生前に影響されている部分もあるようですし」
「こっちのベイタって言うのはアキラお姉様を見かけたら即突っ込んできそうな感じだけどね」
「あー、それは否定しないっす。ホワイトアイスさん以外は目に入ってない感じだったでやんすから」
と言うわけで、仕掛ける罠については諜報班の調査結果を待ってからと言う事になります。
真旗さんに関しては簡単に調べられるでしょうが、こっちのベイタと言う男についてはアキラさんの元相棒と名乗っていたことから考ると元は恐らくグレイシアンの人間でしょうし、調べるのに時間がかかりそうですね。
「後はそうだな……罠を仕掛けるンだったら、それと同時にコイツらの特殊能力に合わせた専用装備も必要になるだろうな」
「と、言われましてもそっちに関しては本当に資料が少なくてまるで正体が掴めませんわよ」
対策の三つ目としては、各『マリス』ごとに専用の装備を作って対応する事。
これは『迷宮』の主を相手にする時にもよく取られる手法ですね。
ただ、これに関しては対象に関して一通りの情報が出揃っている事が前提であり、現状ではこの二体の『マリス』の情報が全て出揃っているとはとてもではありませんが考えられません。
人間並みの知性を有しているなら手加減や、自身の情報の隠蔽を計るぐらいの能力は持っていると見るべきでしょう。
「それに関しては一人知っている可能性が高いのが居るだろうが。なにせあそこまでボロボロになるまで戦ったンだからな。何かしらの情報は手に入れているはずだ」
茉波さんがそこまで言った時点で、私も他の皆も『マリス』の能力について現状で一番詳しい人間の正体に行き付きます。
「そうですわね。この件に関してはアキラさんが帰って来れば一気に解決しますわね」
「確かにアキラお姉様が何も出来ないまま追い詰められるとは考えられないよね」
「そう言う事だな。後はまあ、俺の方で幾つか設計図を書いただけの兵器もあるからその中で使えそうなのが有ればそれを出してもいい。後で御姫様の代理に渡しておく」
「よろしくお願いします」
そう。この話に関してはアキラさんが帰ってきて話してくれれば直ぐにでも分かる事です。
懸念としてはアキラさんがいつ戻ってくるか分からない所ですが、スサノオ様たちが関わって居るのですから、そこまで時間がかかる事は無いでしょう。
加えて茉波さんの兵器。これは……まあ、後で落ち着いて精査するしかないですね。
わざわざ武器では無く兵器と言ったからにはそれ相応の物が出てくると思いますが。
「それでは、今回の話し合いはこれぐらいにしておいて、一先ず私やソラたちは修行と新装された武器の扱いの習熟を、茉波さんは武器の開発、三理君は情報収集をお願いします。敵が何時来るのか、それともこちらから攻めかかるのかはまだ分かりませんが、全員全力を尽くしましょう。では解散!」
「「「了解!」」」
そして私たちは席を立ってそれぞれの行動を始めました。
待っていてくださいアキラさん。
貴女が帰ってくるまでの間に私たちはもっと強くなっていますから。
とりあえずの対策会議でございました。
09/22誤字訂正