第85話「対『マリス』対策会議-1」
「つまり私たちが元の世界で金本バンドと相対していた時、別働隊として突入していた討伐班や治安班は『マリス』真旗カッコウにベイタとか言う男性型の『マリス』に襲われていたと言う事ですか」
「こっぴどくやられたようでやんすよ。殆ど不意討ちだったとは言え、遭遇した班員の大半は殺され、五体無事な班員の方が少ないって話でやんすから」
「アキラお姉様にあれだけの手傷を負わせる相手ですから当然と言えば当然な気もしますけど」
「普通のモンスターと単純な比較をするのは愚策ですけど、今までのモンスターに比べたら間違いなく破格の実力を有しているのは確かですわね」
私が穂乃さんに発破をかけ、サーベイラオリ様がソラを立ち直らせた翌日。
私こと田鹿トキ、妹の田鹿ソラ、穂乃オオリさん、布縫ユイさん、風見ツツジさん、そして諜報班の三理マコト君に開発班の茉波ヤツメさん、それから何故か以前『迷宮』で助けた鏡石専門部隊の伊達スバルさんも加えた8人が治安維持機構の一室に集まり、円卓を囲んでいました。
目的は言うまでも無く『マリス』対策を話し合うためです。
「資料を見る限りだとこっちのベイタって奴の方は人間大のサイズで、タヂカラオ様の神主以上の腕力……いや、筋力を有しているようだな」
「あ、あの……」
「真旗さんの方は人間だった頃は水使いだったはずですけど、今は水銀に近い物体を使っているみたいですね」
「えーと……」
「そして三理君の報告通りなら二人で協力した際には前衛をベイタが、後衛を真旗さんが務めて来るようですわね」
「その……」
「前衛後衛の完全分業……非常に厄介ですわね。単純であるが故に練度が高いこれを打ち崩す手段はあまり多くありませんわよ」
「「「うーん……?」」」
ただ資料を読み込んでいて思うのは、やはりと言うべきか『迷宮』の主よりも更に強大な実力を有していると言ういっそ絶望的と言ってもいい事実でした。
と言いますか、その身体性能や特殊能力の件を差し引いても、人間並みの高度な知性を有していると言う一点だけでも相当に厄介なんですよね……。
「私を無視しないでください!と言うか何で私は此処に呼ばれたんですか!確かに特務班との面識は有りますけど、私は鏡石専門部隊の人間なんですよ!!」
と、私たちが悩んでいると突然伊達さんが円卓を叩きつつ大きな声を上げます。
「言われてみれば確かにそうですわね。彼女を呼んだのは誰ですの?」
「ああ、俺が呼ンだンだ。何か治安維持機構の方に用件があったのかは知らないが、暇そうにしていたからな」
「暇そうって……」
「ううっ……一応、部隊長の付き添いで私は来たんですけど……」
茉波さん……それで部外者を呼び込むのは止めて欲しいんですけど……。
しかし、そんな私の思いも気にせずに茉波さんは彼女を招いた理由を話し続けます。
「実際の所この『マリス』って言うのは今までのモンスターと違い過ぎンだ。おまけに対モンスターばかりを考えて訓練を積ンできたこの面子だと、どうしたって考え方に偏りが出来ちまう。全く未知の新しい何かを考える時にその手の偏りは絶対厳禁だからな。そう言ったわけでそこの嬢ちゃンを招いたンだ」
「「「……」」」
その言葉は的を的確に射ていると思いました。
実際の所、茉波さんと伊達さん以外の六人は全員討伐班畑の人間であり、しかも同期です。
となれば確かに考え方の偏りは生じてしまうかもしれません。
それを防げるのなら伊達さんには申し訳ないですが、確かに彼女には居て貰った方が……
と、そこまで私の思考が及んだところで茉波さんが、
「と言うもっともらしい理由を今考えてみた」
全てを台無しにしてくれるような一言を告げてくれました。
「どうしてそこでそんな事を言っちゃうでやんすか!」
「言わなければ素直に話がまとまっていましたのに……」
「「これが開発班の奇人……!?」」
「ハッハッハ、だが実際の所この手の話をする時に専門でない人間を入れておくのは普通にありだぞ」
「「「……」」」
私たちは先程とは別の意味で沈黙します。
でも考えてみれば茉波さんは開発班の中ですら奇人とか呼ばれるような方なわけですし、それを考えたらこれぐらいは当然なのかもしれません……。
「はぁ、すみません伊達さん。ああは言ってしまいましたが、確かに意見役は必要なので、問題が無い限り居てもらっても良いですか?」
「分かり……ました。ただ後でも良いですから、ウチの部隊長に許可を貰ってくださいね。タダ働きだとお互い拙いと思うんで」
「それは……特務班総班長代理として何とかしてみます」
と言うわけで今更ながらですが、伊達さんにこの話し合いへの参加を求め、了承してもらいます。
他の皆が生暖かい目でこちらを見る中、茉波さんだけ笑顔なのが気になりますが、問い詰めて藪蛇にしかならない気がするので置いておきます。
「じゃ、そっちの話もまとまったところで、この集まりの目的に沿って悲観的な意見では無く、建設的な意見を持って話し合いを進めようじゃないか」
「そうですね。折角集まったからには前向きに行きましょうか」
そして私たちは手元にある資料から、少しでも『マリス』に対して有効な策や武器を考え始めました。