前へ次へ
80/245

第80話「氷柩」

「トキさんこれは……」

「どうやら『迷宮』が崩壊して、元の空間に戻ったようですね」

 私たちがモンスターを倒し、『迷宮』の歪みが治まるとそこは先程まで居た『迷宮』によく似た場所に移動していました。

 どうやらあの『迷宮』に飛ばされる前に居た金本バンドの屋敷の広間に戻されたようです。


「と……!?」

「大丈夫でやんすか?」

「すみません。でも大丈夫です」

 私はあのモンスターを倒すのに使った力の反動なのか軽く立ちくらみを起こし、三理君が慌てて私の背中を支えてくれます。

 やはりと言うべきかあの力は多用するべきではないようですね。


「っつ!?トキ姉ちゃん!」

「ソラどうした……!?」

 と、ここで突然ソラが叫ぶような声で私に呼びかけ、私はその声に応じてソラの方を振り返り、そして目の前に広がったその光景に私も驚きます。


「なっ……」

「これは一体……」

「氷……何でしょうか……」

 そこに広がっていたのは大量の氷が水晶の様に群れを成して床から天井に至るまで生えている光景。

 それは何処か現実味が無く、まるでお伽噺の中に出てくる様な幻想的な光景でしたが、その氷からゆっくりと漂い始めた冷気を肌が感じた事によってこの氷が幻では無く、現実のものであるのを私は理解させられます。


「待ってて下さい!」

「っつ!?アレはまさか!?」

「二人とも!?」

 私が目の前の光景に圧倒されている中でソラと穂乃さんが私たちの目の前にある氷に向かって駆け出します。

 私は二人に声を掛けますが、二人とも至極焦っている様子で私の言葉に聞く耳持たずと言った様子です。

 そして私は二人が向かって行った先に居た影を見てどうして二人がそんなに焦っていたのかを理解し、二人の事を言えない様な速さで疲れ切っている体を酷使している事を理解しつつも思わず駆け出します。


「アキラさん!」

「アキラお姉様!穂乃さん火は!?」

「もうやっていますわ!くっ!?一体この氷はどうなっていますの!?」

 その影は無数の氷の中心部に在りました。

 その影は腕の片方が欠けていましたが人の形をしていました。

 その影に近づけば、それが逆光で影になっていただけで、人間であることが分かりました。

 氷の中心部に居たのは……アキラさんでした。


「どうして!何で!何でこの氷は融けませんの!!」

「くっ……なんて硬いの……このままじゃアキラお姉様が……」

 穂乃さんは儀礼剣の剣先から炎を発してアキラさんを包んでいる氷に放ちますが、炎はまるで壁や床を這う様に氷に弾かれていきます。

 ソラは手に持ったハンマーを何度も何度も振り降ろして氷を砕こうとしますが、氷にはヒビ一つ入ることなく、それどころか氷を揺るがす事も出来ません。

 この氷はまるで結界でした。

 それも人間が張るような簡単な結界では無く、神様やそれに準ずるような存在が張る人間には決して破れない様な結界でした。

 ですが、そんな結界が相手でも私はアキラさんを守る者としてアキラさんを助けるためには諦めるわけにはいきませんでした。


「(この場を見ている神様が居るのなら教えてください!どうすればこの氷を融かして中に居るアキラさんを助け出せるのかを教えてください!)」

 だから私はあの正体不明の神の力を借り、この場を見ている神様が居ることを信じて問いかけます。

 そして帰って来た返答は……


『田鹿トキか。俺だ。スサノオだ』

「(スサノオ様!?)」

『今そちらに医療班を向かわせているからお前ら六人はまず治療を受けろ。アキラについては……こちらで何とかする』

 スサノオ様の一瞬間が開いた返答でした。

 見れば、視界の端で三理君が何処かに向かって手を振り、それに応じる様に医療班の人間がこちらに駆け込んでくるのが見えました。

 スサノオ様の言葉は暗に私たち人間に出来る事は無い。そう言う言葉でした。

 ただ、このまま引き下がるわけにはいきません。

 ソラの為にも、穂乃さんの為にも、そして私自身の為にも聞いておかなければならない事があります。


「(スサノオ様。アキラさんは今一体どのような状況に在るのですか?せめてそれだけでも教えてください)」

『……。詳しくは分からない。こっちから見ている限りで分かっている事だとアキラ自身が封印に関係する力を使っている事と、今現在アキラの肉体の時間が止まっている事。それにどうにも何モノかがアキラの精神か魂に干渉をして封印の解除を行えなくしているようだな』

「(時間が……止まっている?それに精神や魂への干渉とはは一体……)」

『時間停止についてはボロボロの体だが、とりあえず失血死やショック死はしないと言う事だ。そしてこの封印の解除さえされればイースの自己再生能力から考えて無くなっている腕も含めて回復は問題なく出来るだろう。干渉については……』

 そこでスサノオ様は何故か言い淀みます。

 まるで私たちにこの先は聞かせづらいと言わんばかりに。

 すみません。スサノオ様。アキラさんの無事を確認するためにはそこについても私は知らなければいけないんです。だからどうか教えてください。


『……。この先については他言無用だと言っておく。この話は必ずお前の胸にだけ収めておけ』

 すると私の願いが通じたのか、スサノオ様はゆっくりと話を進め始めます。


『アキラに今干渉を行っている神は少なくとも俺や姉貴よりも格上の存在だ』

「!?」

「トキ姉ちゃん?」

『だが、アキラに干渉をする理由が俺には分からない。今分かっているのはその何モノかが封印術にも干渉して封印を解けないようにしている事ぐらいだ。だから、この後すぐにでもその封印の氷で引き離せる部分は引き離してアキラをタカマガハラに運んでから色々とやってみる』

 スサノオ様は何処か不安と言うか、迷いの様な感情を僅かではありますが声に混ぜながらそう言います。

 実際のところ、スサノオ様より上の神様だなんて私には想像もつきませんがスサノオ様の声の感じからして相当恐ろしい神様なのでしょう。

 そうなると……。


「(……。その間私たちはどうすればよろしいですか……?)」

『好きにしていろ。が、二度とこんな事態を引き起こしたくないなら自分の力を鍛えることを考えた方がいいだろうな』

「田鹿トキさんですね。治療の為にジャポテラス神療院に移送いたしますので、こちらに来てください」

「分かり……ました」

『ま、やれるだけのことはやってみせるさ』

「アキラお姉様あああぁぁぁ!」

「アキラ様あああぁぁぁ!」

 そして私は未だに暴れ続けているソラと穂乃さんを落ち着かせると医療班の人に付いて行く形で神療院に向かいました。

 これからやるべき事……まずはそうですね。

戻ってきました。

が、アキラちゃんしばらく離脱です。


09/17誤字訂正

前へ次へ目次