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第8話「神療院-3」

「づがれた……」

 羞恥心に塗れながら包帯と衣服を交換させられた俺はベッドの上で疲れ果てていた。

 特に何が疲れたって看護士さんの片方が包帯を巻く時に何故か執拗に俺の胸を揉んできたりとか、鼻息が荒かったとかで微妙に貞操の危機を覚えたから何だけどな……。

 とりあえず夕飯まではこうして寝ていたい。


「まあ、おかげでこの身体について把握している事も増えたんだけどな……」

 俺は着替えさせられた時に鏡で見せられた自分の姿を思い出す。

 まず肌の色は『迷宮』の中で確認した時と同じで、一般的なジャポテラスの人間よりもだいぶ白く、まるで雪のようだった。

 肉付きについてはしっかりとしているが、胸の部分を除けばあまり脂肪は付いていない感じだった。その癖触ってみると妙に柔らかい辺りにイースの力が働いているのを感じる。

 ついでに身長に関しても前の俺は160cmぐらいだったが、今は175cmは確実にあると思う。何で胸が膨らんだのに身長も伸びているんだろうな……絶対におかしいだろうに。

 で、続けてだが髪の毛については腰の下ぐらいまで長さが有り、こちらもジャポテラスの人間なら普通は黒い髪なのだが、俺の髪は一点のくすみも無い綺麗な白髪である。

 顔については……右目が銀色で左目が水色のオッドアイであり、それ以外のパーツも綺麗に並んでいる。たぶん、俺の顔をすれ違いざまに他人が見れば百人中九十九人は振り返るレベルだと思う。

 とりあえず総合的に見れば人間レベルの美女では収まらないのは確かだな。

 神々の中なら今の俺よりも見た目が良い神は山ほどいるだろうが。


「あー、今の内に聞いておくか……そこに居るよな。イース」

『何だ……我はまだ微妙に気分が悪いのだが……』

 確認も終わったところで俺はイースに声を掛け、俺の声を聴いたイースが至極面倒そうに顔を上げてこちらを向く。

 ただまあ、面倒ではあってもこの話は聞かないとな。


「結局のところどうして俺は女の姿になったんだ……」

『ああ、その話か……簡単に言えば我とアキラの姿……と言うか身体的特徴を近づけることによって我の力をアキラに注ぎ込む際に発生する負荷を減らし、受け入れやすくしているのだ。尤も中には我の力を受け入れた結果として後から変化した部分もあるだろうから、何処から何処までが我が変化させようと思って変化させた部分で、何処から何処までが勝手に変化した部分なのかと言う判断は難しいが』

「理屈は分かったけど、どうして女性化したのかについては言って無い気がするんだが……と言うか男のままじゃ無理だったのか?」

『男女の差と言うのは分かり易く明確な差だぞ。と言うかアキラは我の性別をどちらだと思っているのだ?』

「ん?イースってオスじゃないのか?」

 俺の言葉に対してイースの頭の辺りからブチと言う音が聞こえてきた気がする。

 あれ?もしかしなくてもイースって……。


『我は雌だボケェ!』

「アイタァ!?」

 俺が頭の中で答えに至ったところでイースが答えを叫びながら自らの尻尾を俺の眉間に叩きつけてくる。

 物理的実体が無いから肉体へのダメージは無いが、代わりに直接精神が揺さぶられる感じがして地味に痛い……。

 ただちょっと待ってほしい。


「我我言ってて、しかもその口調。むしろ雌だって判別できる要素が無いだろうが……」

『何だと!?我の身体をよく見てみろ!尻尾の付け根の辺りがまるで違うだろうが!まったくこれだから人間は……』

「いや、そんなこと言われてもな……」

 実際、蜥蜴の雌雄の見分け方とか分かる人の方が珍しい気がする。

 と言うか尻尾の付け根が違うって言われたけど、どう違うのかまるで分らないから。


「ところで、仮に性別を変えなかった場合はどうなるんだ?」

 で、ちょっと気になったので、イースから仮に男のまま受け入れようとした場合の話を聞いてみようとしたのだが……。


『……。仮にアキラの性別が男のままで我を受け入れられるようにするとなれば……そうだな。ほぼ我を相似拡大したような六本腕の二足歩行する蜥蜴男と言った感じになるだろうな。尤もこれでも我の力を内包しきれるかは怪しいし、受け入れられなければ良くて発狂、悪ければ力に耐え切れず全身の血管が弾け飛んで死ぬんじゃないか?』

「なにそれこわい……」

『分かって貰えて何よりだ』

 予想以上に酷かった。

 六本腕の蜥蜴男も酷いが、発狂とか、血管が弾け飛ぶとか……ああうん。アレだな。性別が変わる程度で済んで良かったと思うべきだ。これは。

 男性辞めますか?人間辞めますか?人生辞めますか?なら最初の方がまだマシだ。

 ところでこうして身体が変わった理由を聞いていて思ったんだが……


「ところで女性化の理由とか、目や髪の変化については分かったけどこの胸は何なんだ?今回はこれで助かったらしいからいいけど、戦いにこのサイズは邪魔だし、イースと繋がる要素にもなってないだろ」

 俺は両手で胸を持ち上げながらイースに問いかける。

 こうして改めて持ってみると分かるが、重いし揺れるしで戦いには絶対に不要だよな。

 モンスター相手に人間の色気が通用するはずないし、今言ったようにイースとの外見的特徴はこの胸のせいでむしろ開いている気がする。


『そこは知らん。アキラの中にそうなる何かしらの要素が元々有ったんじゃないか?』

「元々って……」

 別に俺は胸の大きい方が好きってわけでも無いんだけどな……と言うか、巨乳好きの人間だって自分の胸を大きくしたいとは限らない気が……。


『まあ、我とアキラの契約は奴らを根絶やしにするまでだからな。契約が完遂されれば元の姿に戻れるんじゃないか?』

「え?その話本当なのか?」

『あくまでも予測だがな』

 と、ここでイースから思いもよらない情報がもたらされ、俺は思わず聞き返すが事実らしい。

 何と言うか希望の芽が見えてきた気が……しないな。

 考えてみれば奴らを根絶やしにってことは……。


「つまり『迷宮』内で会ったあの女を倒せって事だよな」

『そう言う事になるな。と言うより奴を倒さなければ『迷宮』もモンスターもいくらでも湧いてくるだろう。奴に関して我はさほど詳しく無いが、元凶である事だけは聞いている』

 あの女……俺を生死の境にまで追い込んだ女……全ての元凶……。


『大丈夫か?』

「大丈夫じゃないが、乗り越える。アレが全ての元凶だって言うんなら、イースとの契約を果たすためにも、治安維持機構の隊員としても、身内をモンスターに殺された人間としても、俺個人としても奴は倒さなくちゃいけない」

 あの時の恐怖と絶対的な力の差を思い出して俺の手足が震えだす。

 けれどこの恐怖に震える手足をいつかは武者震いで震える手足にしなければならない。


 目標は定まった。いつか必ず奴を倒す。


 で、そうして真剣な空気になっていたところで……


『ところでアキラ?』

「何だ?」

『腹が減ったから夕飯の際に我にも少し飯を分けてくれ』

「……」

 イースと俺の腹で腹の虫が大きな音を上げて鳴いた。

 なんかもう色々と台無しである。

と言うわけでTSの理由説明でした。

デッド オア リザード オア ガールでは流石に……ねぇ

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