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第79話「模倣の迷宮-10」

注意:今話もまた拙いと感じられたらブラウザバック推奨な表現がございます。お気を付けくださいませ。

「『うこづおぃふ うさせうるひさこ おもわむうらがたむ いらちいにしく えちろだとわびあいしるくつじく あへろす』」

「おらぁ!」

 ベイタが凄まじい速さで俺に接近して拳を振るい、俺は歩法とツツタクトの音を意識しつつそれを避け、同時にイースの言葉に重ねる様に詠唱を進めていく。


「『いたちかう あぎぐちほにろおきにとのす いこつくちみちあだ あぎつこだがう』」

「どうしたぁ!逃げているだけか!もっと俺にお前を感じさせろ!」

 ベイタは攻撃をせず避け続けてばかりの俺に多少のいら立ちを見せながらも、状況を変えようとして俺に挑発を仕掛けてくる。

 が、勿論俺はそれに応じず詠唱を続ける。


「『うごそしるふ あがなひこりしろいんえと いこつれらかみぬうくんえと あぎつこだがう』」

「カッコウさんの攻撃はどうかなー?」

「うおっ!?」

 と、ここで真旗カッコウも銀色の液体を様々な形状に変形、固定するとそれ等をベイタも巻き込むような軌道で降らし始める。


「『いらぬおっせこぬういすくふ うらぬてちえる うかなへづんぬふらうてなへろす おでらす いらきあほぬさわら あぎつこだがう』」

「むう……すばしっこい」

 その攻撃にベイタは慌てて俺から距離を取って攻撃を回避するが、真旗カッコウに目標として狙われている俺は肌に多少の擦り傷を作りつつも紙一重で避けていく。


「じゃあこうしよっか!」

「行くぜぇ!」

「っつ!『あらになわら おいぃえすんにさがう あぁす』」

 俺の前に落ちてきた直方体状の銀色の液体に筋肉を張り上げ、拳を振りかぶるベイタの姿が映り込み、俺は多少歩法を乱しつつも後ろに飛び退こうとする。


「残念後ろだぜぇ!アキラ!」

「ぐっ……」

 だが、その直後に俺は背後から強い衝撃と痛みを受けて前に吹き飛ばされる。

 何があったのかを考える必要もない。

 ベイタの攻撃の直前に真旗カッコウが俺が跳んだ先に出口を変え、俺の跳躍によって相対的に速度を増したベイタの拳が俺の背中に炸裂した。

 ただそれだけの話だ。


「『えむじしんねぎえひこりす おうおいほびかののむれぬさつ あひくぶひきせがふ』!」

 打撃と熱の痛みが合わさって意識が飛びそうになる。

 だがここで意識が飛べば持っているのは“死”だけだ。

 だから俺は吹き飛ばされていく中でも必死になって意識を繋ぎ、言葉を紡ぎ続ける。


「『いすずこうぃそつろこひえんなふ あはりさほのみす うれいぼしらうぃと』」

「はっ!イイねぇ!最高だ!流石はアキラだ!こんな状況でもまだ諦めていねぇ!」

 壁に衝突する直前で身を捻り、出来る限り衝撃を殺して着地するとベイタと真旗カッコウ、そして銀色の液体の位置を確認しつつツツタクトを振って自身の力を高めていく。


「ゲホッ……『うれらそろ あぐおいとんおどのりそとるく いにあけしかなののむれき えたがい』」

「ふうん。再生する余裕も無いぐらいその詠唱に力を回しているみたいだねー……ベイタ!早い所殺すよ!カッコウちゃんの勘が言ってるの、この女かなりヤバい術式を発動しようとしてるってね!!」

「ああん?そうなのか?まあ確かに今アキラが使おうとしている力はヤバそうだしな。そろそろ終わらせるとするか」

 どうやら先程の攻撃で内臓の何処かを痛めたらしく、口から血が混じった咳が出る。

 おまけに真旗カッコウはこれだけの詠唱をしているのに未だに何の現象も俺が起こしていない事から俺が今からやろうとしている事のヤバさを感じ取ったらしく、ベイタに早い所俺を始末することを提案し、ベイタもそれに乗ってくる。

 拙いな……このままだとどう考えても間に合わない。

 だが今更助けが来るなんて言う考えは甘いにも程がある。


「『うかなひらたごのむ うかなふかいくんあく うかなふおいじけぐ うかなはいすおす うかなはじぇねいのこす』」

 だから、俺に出来るのはただ少しでも早く詠唱を終わらせることだけだと考え、俺はそれまでよりも噛まない程度に早口になって詠唱を続ける。

 けれどそんな俺の思いとは関係なくベイタは駆け出し、真旗カッコウは銀色の液体を刃状にしてあらゆる方向から俺に向かって飛ばし始める。


『ん?』

「えららせるさわほ……かく」

 俺は真旗カッコウの造りだした刃を避けようとするが、どうしても躱しきれずに何本もの刃が俺の体に突き刺さっていく。

 今のところ致命傷や詠唱の阻害になる部位には受けていないが、このままではそれも時間の問題だろう。

 だから俺は考え方を変えた。


『アキラ!?』

「いらもたはみ!」

「なっ!?そんなの有り!?」

 俺は左腕を前に突き出して迫ってくる刃を全て左腕で受け止めていく。

 当然の様に何本、何十本と突き刺さっていくうちに感覚が無くなり、やがて骨も肉も皮も断たれた左腕は当然の様にその手に握られていた羽衣の一部と共に本来あるべき場所から脱落し、血を噴き上げ、周囲一帯に鉄の匂いが充満し始める。

 だがこれでいい、真旗カッコウの攻撃はこれで止まったし、血も十分に撒けた。


『おい待て!何故我が……』

「えらさぞたひありむ!」

「ヒヒャヒャヒャ!いい感じにお前もトチ狂ってんなぁ!アキラァ!てか、ある意味じゃ俺以上に狂っちまってんじゃねえかぁ!!」

 その中でベイタは俺の血を浴びることに躊躇いどころか快感すら覚えた表情で俺に向かって突進し、俺の頭を粉砕するつもりなのか今まで見た中で一番大きく筋肉を膨らませた状態で腕を振りかぶる。

 このまま詠唱を続けていても間に合わないのは確実だった。

 けれど後少しで詠唱は完成する。

 だから俺は……まるで世界の時を止めるかのように俺が感じている時を縮め、まるで一秒を一分に、一分を一時間にしたかのような世界で残りの言葉を一気に紡ぎ出す。


『おし……』

「ーーーーー!!」

「うれららたく えてられまぐゆきさだたほかく えちおいにあけそにかさくらふ えたがい」

 イースの声が遠のき、ベイタの声が最早音として聞き取れなくなった中でベイタの拳が俺の顔面に迫り、拳が放つ熱を俺の顔が感じ始める。


『え……』

「おつらえどんなっちおぬこぎじ あごそけろく」

 だが、ベイタの拳が俺の鼻先に到達するその直前に俺の詠唱は完成し、


「コンプレックス基準(スタンダード)第三級(ステートクラス)氷結系(フリーズ)封印(シール)術式(スペル)停まる(フェルマ)世界(フロスト)

 残った右手でツツタクトを振り下ろすと同時に俺はその名を告げ、それと共に俺の感じる時の流れは元へ戻る。


「な、何だこれは……!?」

「ヒヤアアアァァァ!?」

 次の瞬間には周囲一帯に存在する俺の血を始点としてベイタも、銀色の液体も、『迷宮』の床も、それどころか空気も魂も含めたこの世にある物全てが有形無形、実体非実体問わずに凍りついていく。

 そこから逃げられる者は誰も居ない。

 俺も含めた全てのものがその意思も生きているかどうかも関係なく氷の棺に納められ、覚めない眠りへと落とされていく。


「ゆっくり眠れ……よ……」

 やがて、微かに視界が歪み、目の前の氷が動いたような感覚を俺が覚えると同時に俺の意識は闇へと静かに埋没していった。

第77話から引き続きまして、今話は全編使っての詠唱でございます。

と言うわけで第77話からの分も含めて、回答をいつも通りにおいておきます。


……。

正直暴走した感が否めない分量なんだぜ……。







「我が血に宿りし神性よ」

「それは傷作りし刃を辿りて騎士に至り、跨る馬をも侵し震えさす氷毒」

「我が毒血が大地に着く時、その地に氷の棺が湧き立ち」

「我が毒血が天空に撒かれる時、天より白き花が降り注ぐ」

「我が毒血が表すのは怒り、されどそれは熱ある憤怒では無く、冷徹なる復讐の結晶なり」

「我が敵たる騎士と馬は凍え倒れ、氷の棺へとその亡骸は収められ、白き花が捧げられる」

「さあ、我が神性よ露わになれ」

「激しき吹雪は訪ねる者無き墓標を白き平原に沈め」

「地割り聳える霜の柱は繁栄誇る都市を崩し」

「やがて生ける者無き世界に黒と白の緞帳が降ろされる」

「そこに演者はなく、奏者はなく、劇場はなく、観客はなく、物語は無く」

「過去は忘れ去られ」

「今は停まり」

「未来は閉ざされ」

「やがて遥か先の世界において過去は正しく歪められて語られる」

「これこそが地獄の一端であると」

「コンプレックス基準(スタンダード)第三級(ステートクラス)氷結系(フリーズ)封印(シール)術式(スペル)停まる(フェルマ)世界(フロスト)



09/15 誤字訂正・文章校正

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