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第78話「模倣の迷宮-9」

「昔の……男……?」

「そ、そうっす!えと、元相棒とか名乗っていて、ホワイトアイスさんはその男の事をベイタって言ってたっす!」

 三理君の言葉にこの場に居る私たち五人は思わず固まります。

 その言葉の意味があまりにも受け入れがたく、認識したくないものであったがために。

 ですが、そんな私たちを置いてけぼりにして三理君はアキラさんと一緒に遭遇した真旗カッコウとベイタと言う男について語ります。

 語った内容としてはその正体に戦闘能力の一端、そして性格について。


「ふふ……ふふふふふ……」

 そして語り終った結果として三理君の言葉にソラは不穏な笑みを浮かべ、


「男……おとこ……オトコ……」

 穂乃さんはブツブツとうわ言の様に同じ言葉を繰り返し、


「「…………」」

 風見さんと布縫さんは呆然とし、


「……」

 で、私と言えば何故かは自分自身よく分かりませんでしたが非常に苛立っていました。


「あ、あれ?どうしたっすか?」

 私たちの反応に三理君はオロオロとしています。

 とりあえずこれはアレですね。

 少なくともアキラさんが危険に晒されており、しかも実力的に考えて独力で切り抜けるのは厳しい。

 となればアキラさんに詳しい話を伺うためにも……


「総員……」

「「「!?」」」

 私は手に持った盾を地面に叩きつけて大きな音を鳴らし、その音で全員の気を現実に戻した後に全員のやる気を呼び起こすための言葉を紡ぎ始めます。


「あのモンスターを早急に倒してアキラさんの元に向かいますよ!事実を確認するのです!」

「「「りょ、了解です!」」」

「捧ゲヨオオオォォォ!」

 そして私の言葉と共に全員が現実を認識し直し、それに合わせてなのかは分からないですが、平静を取り戻したモンスターがこちらに向けて攻撃を仕掛けてきます。

 それは明らかに今までよりも強い力が込められた一撃、これを防ぐためにはそれだけ強い力を以て盾と私自身を強化する必要があるでしょう。


「タヂカラオ様、アメノマ様、カグヅチ様。そして……」

 だから私は頭の中で今までよりも強く呼びかけます。

 それは筋力を高めるタヂカラオ様だけでなく、盾を強くするアメノマ様だけでなく、盾を熱して反撃するカグヅチ様だけでなく……少しでも多くの力を得るために私に契約していない神の声も聞こえるようにした正体不明の神に対してまで呼びかけます。


『ふうん。私にまで呼びかけるだなんてだいぶ切羽詰っているみたいだねー』

「これは……」

 やがて私の願いが届いたのか、聞き覚えの無い明るく軽い声が聞こえると共に私の前に衝撃的な光景が広がりました。

 そう。全ての……モンスターの動きも、穂乃さんたちの動きも、そして私自身の動きも止まっていたのです。


『ちょっと体感時間を弄ってるだけだから心配しなくていいよ。それで用件は?』

「え?あ?」

『ふむふむ、目の前のモンスターを倒せるだけの力が欲しいと。まあそう言う事ならちょっとだけ力を貸してあげるねー』

 私がそのことに驚いている間に、正体不明の神はまるで私が何を望んでいるのかを予め知っていたかのように勝手に話を進めていってしまいます。


「あ、あの貴方の名前は……」

『名前は色々と訳有って明かせないかな。それに直接的に相手を傷つける能力を貸し与えるのも色々と面倒な事情があるから駄目だね。まあ、元々貴女と私の相性だとそんなレベルの力を分け与えるのは危険だからやらないけどね。と言うわけで私が貴女に貸し与えるのは貴女が自身の力を最大限発揮するための補助的な能力。ま、どういうものなのかは多分すぐに理解できるから安心して』

 このままではいけないと私は思い、きちんとした祈りを今後捧げるためにもせめて名前だけは聞いておこうと思って伺いますが、そんな私の言葉などまるで気にせず話を進めてしまい、話が進むにつれて私の頭の中に何か言葉では表しきれないものが流れ込んできます。

 それはきっとこの力の使い方。

 けれど使い方が流れ込んでくると同時にこの力の危険性も同時に伝わってきました。

 この力は危険な力です。

 使い方を誤れば、私の心も魂も決して治せないようになるまで砕け散るでしょう。


「…………」

『と言うわけで時間を戻すけど、負荷がかなりかかるから使い過ぎないように気を付けてねー』

「分かり……ました」

 やがてゆっくりと世界の動きが戻り始め、それに伴ってモンスターも私たちも動き始めます。


「穂乃さん!私が隙を作りますから、胸の核は任せます!」

「わ、分かりましたわ!」

「オオオォォォ!」

 そして完全に動きが戻ってきたところで私は正体不明の神様から授かった力を早速使い始め、力を発動すると同時に私の視界がぶれ始め、モンスターの身体の各部が今と一瞬先にどこに在って、どう動いているのかが手に取るように分かるようになります。

 恐らくあの正体不明の神様が私に与えた力は確度が異常に高い一瞬先の未来予知能力なのでしょう。

 そうと分かれば後は簡単です。


「ふっ!」

「オアッ!?」

 モンスターの腕が盾に触れる一瞬を見極めて自身への強化を今までの限界を超えて施し、僅かに盾を傾けて攻撃を逸らし、摩擦とカグヅチ様の熱を以てモンスターの腕を焼き焦がします。

 そうして生じた隙を縫って私はモンスターの懐に向かい、その途中で向けられる攻撃は腕を使った直接的な攻撃も、身体に生えた刃を飛ばす攻撃も先程同じようにある物は逸らし、またある物は叩き潰します。

 一瞬だけの強化なら持続性を求めてその効力を落とす必要は有りません。

 どうすれば最も効率よく攻撃を凌げるかも、予め攻撃が何処にどのように来るかが分かれば余裕をもって対応することが出来ます。


「穂乃さんっ!」

「分かっていますわ!」

「馬鹿ナ……!?」

『ソウイウ コトカコ レハマタ メンドウ』

 やがて私はモンスターの懐に辿り着き、周囲から殺到するモンスターの攻撃を幾つも弾くことによって隙を作りだします。

 そして私の求めに応じて穂乃さんが風見さんと協力してモンスターの胸にある核に向けて巨大な火球を撃ち出します。

 このモンスターにこの攻撃を避ける余裕はありません。

 なので確実に核の一つは潰せます。


「だからこそ……」

「トキ姉ちゃん!?」

「トキさん!?」

 私はその場で盾の端を掴んで回り始め、モンスターの腕に付いている核を模した赤い結晶に狙いを付けます。

 すると大半の赤い結晶に狙いを付けた先に見えてくる光景は同じでしたが、一つだけ違う光景が見えた赤い結晶があり、私はその結晶に向けて盾を投げつけます。


「これでお終いです!」

「馬鹿ナアアァァァ!?」

『シヨセン ハステピ イスダナ マアイイ』

 そして穂乃さんの火球が胸の核を破壊するのと同時に私の投げた盾が核の模造品の中に混ざっていた本物の赤い結晶に直撃し、破壊してモンスターは絶叫します。


「ふぅ」

 やがて核が破壊されたためにモンスターはその身体を大量の土くれに変え、それに合わせて穂乃さんたちが私に向かって駆け寄ってくる中で『迷宮』を構築する壁や床も歪んでいきました。

トキさん覚醒。未来視の能力を得ました。

正確にはイヴ姉さまの予知能力の簡易版なんですけどね。


09/14誤字訂正

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