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第75話「模倣の迷宮-6」

「はぁはぁ……まるで終わりが見えませんわね」

「もう何体倒したかも分かりませんね……」

 『迷宮』の探索を始めてからしばらく経った後、私と布縫さんはソラたち三人と合流を済ませていた。

 これだけ早く合流できたのは私、ソラ、風見さんと三人のサーチャーとしての能力を持つ人間がお互いに探し合っていたからと言えるだろう。

 ただ、人数が増えた事による弊害ももちろんあった。


「おまけに殆ど全て不意討ちで、私はそろそろキツくなってきました……」

「ゴメン布縫さん。アタシと風見さんの能力だとどうにもここのモンスターとは相性が悪いみたいでさ……」

 それはモンスターたちに見つかり易くなったこと。

 合流して戦闘能力も増したけれど、それ以上にモンスターに見つかる頻度も増えたため、私を含めた五人全員が消耗を強いられており、特にほぼ常時私たちの周囲に防御用の結界を張っている布縫さんの消耗は激しいようだった。

 尤も、ここまで消耗を強いられたのはこの『迷宮』に存在するモンスターの大半が私たちが背を向けるまでは絵画や家具などに化けて微動だにせず、その後に突如として襲い掛かってくると言う性質を有しているためでもあるし、


「ですが、今の状況で休んでいる暇はありません。全員頑張ってください」

「そうですわね。膝を着いたら殺されるだけです」

「だね……アキラお姉様のありがたみを今更感じているけど、アタシたちだけで切り抜けるしかないよね」

「「「ミミクアアァァ……」」」

 今私たちが遭遇しているように、広いホールの真ん中で四方八方をモンスターに囲まれている状況にもあるだろうけど。


「ミミクウ!」

「くっ……カグヅチ様!」

「ガァ!?」

 私は焦れて襲い掛かって来たモンスターの攻撃を盾で防ぐと同時に、カグヅチ様の力を使って盾を加熱、仕掛けてきたモンスターに対して逆に手傷を負わせます。

 まったく、ソラが言っていたようにこんな時にアキラさんが居れば簡単に一掃してもらえるのですが……恐らくはこの状況こそが敵が望み、仕掛けた策略の一つなのでしょうね。

 無い物ねだりをしてもしょうがないですから、手持ちの札を上手く組み合わせて切り抜けるしかありませんけど。


「はっ!……っつ!?アタシたちの居る場所に向けて人型の何者かが接近して来ています!」

 と、ここで手近なモンスターの一体を叩き潰したソラが何かを見つけたらしく叫び声を上げ、その内容に私は嫌な感覚を覚えます。


「アキラ様ですか!?」

「いえ、私の方でも空気の振動は確認しましたが、呼吸はしていません」

「それってつまりは……」

「ぐひじょきぅ……見いぃつけたぞぉ……男を馬鹿にするな雌犬共がぁ……」

「金本……バンド」

 そしてホールから伸びている通路の一本から汚らしい笑い声を上げながら現れたのは、この『迷宮』に飛ばされる直前にまで戦っていた姿ではなく、人間の姿に戻ってボロボロの衣服をまとい、両手の掌から金属製の刃を生やした金本バンドでした。


「どけぇ、クソの役にも立たねぇ雑魚モンスター共……そこに居る雌犬共はこの俺、金本バンド=ミミック様がたっぷりじっくり全身を嬲ってしゃぶって穴だらけにして、私に逆らったことを、生きている事を後悔させ尽くしてからも散々弄んだ後に食い殺してやるんだぁからなぁ……ぎひゃぐひゃげぴゃ……」

「相変わらず気色悪い男ですわね……」

 金本バンドが吐き気を催したくなるような言葉を発しながらホールに入ってくるとともに、ホールの中に居たモンスターたちは金本バンドが居る方とは逆の方向に集まっていきます。

 それに対して私たちは風見さんと布縫さんの二人に背後のモンスターへの対応を任せると、私、ソラ、穂乃さんの三人で金本バンドと正対します。


「さぁって……あの白髪女はぁ居ないようだがぁ……それはそれで別にいぃ……むしろお前ら五人を俺様の体に貼り付けてあの女に見せつけたらどんな顔をすぅるのか今から楽しみなぐらいだなああぁぁ!!」

 金本バンドの身体が『迷宮』の外で見たように膨らんでいき、肌が灰色に染まっていくと同時に全身から針の様に細長い金属製の刃が生え揃っていきます。


「これは……」

「先程とは微妙に違うようですわね……」

「核は胸と頭部に確認。股間に在ったのは砕けたままだよ」

 ただ、その姿は『迷宮』の外で見た時とはまた微妙に違いました。

 具体的に言えば手足は八本あり、その全てが腕のようになって手近な場所に在った壁に身体から生やした刃をスパイクの様に突き刺してその身体を保持していました。


「ひーひひゅぅひふはっ……私は進化する。これは革命だ。人の領域を超えて私は神たちの世界を食い荒らす!それこそがわた……ワレラガ主ノ求……モト、元モトもと下基もモトと許元々素モト本故モト喪とmotoモト……」

「…………」

「一体なんですの……?」

「さあね……ただ確かなのは……」

 そして体が完全に変化しきったところで金本バンドはまるで自らが至高の存在であるような言葉を口走ろうとしますが、途中から頭を小刻みに震わせながら大きく動かし始め、それと同時に無表情で壊れた機械のように同じ言葉を連呼し始めます。


「コイツは何もかもがおかしくなってる」

 私はこの金本バンドをモンスターが擬態していただけの存在と捉えていましたが、どうやら事はそう単純な話では無かったようですね。


「ト……」

「止まった……」

「いつの間にかモンスターたちも全て逃げ出していますわね……」

 やがて金本バンドの動きが止まり、糸が切れた人形のように頭を垂らします。


『キサマゴ トキニフ イーリン グハムダ』

「っつ!?」

「トキ姉ちゃん?」

 そして突如として耳元で囁かれたかのように意味の理解できない声が私の耳に聞こえてきました。

 ですが、ソラたちにはこの声が聞こえていない事からして、声の主は現世の存在ではないようです。


「何でも有りません……それよりも二人ともしっかりと構えておいて」

「えっ、ああ、うん」

「言われなくても」

『コマハピ イストシ テワガエ ネミーヲ キルスコ トニノミ コンセン トレイシ ョンセヨ』

「モトメルハ……」

 それどころか、金本バンドとして僅かに残っていた頭部まで膨れ上がって鋭い刃が生え始めた事から察するにこの声の主こそが今回の件どころか、『迷宮』とモンスターに関係する全ての元凶なのかもしれません。


『サアイケ ワガステ ピースノ ヒトツヨ ヒトツノ メイズノ アルジト シテテキ ヲクラエ』

「っつ……来ますわよ!」

「トキ姉ちゃん!」

「分かってる!」

「求メルハ汝等ガ血肉ナリイィ!!」

 そして完全に金本バンドでは無くなった一体のモンスターはカタコトで奇声を上げながら私たちに襲い掛かってきました。

久しぶりの『軍』様でございます。

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