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第73話「模倣の迷宮-4」

注意:本話は人によっては著しく不快に感じられる可能性がありますので、拙いと感じたらその時点で即座にブラウザバックをすることをオススメします。

「知り合いでやんすか?」

「死んだはずの男だよ」

 俺と三理マコトは背中合わせになってお互いの正面に居る相手を警戒しながら言葉を交わす。

 真旗カッコウはその場から動かない。

 ベイタはゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。


「ああそうだな。確かに俺は死んだ。それは間違いない」

「…………」

 だがベイタはそのまま俺の横を通り過ぎて真旗カッコウの横に並び、俺と三理マコトもそれに合わせる様に横一列に並ぶ。


「だが、ついさっきカッコウが言っただろう?俺たちは人間を転写して造られたモンスターだと」

 ベイタがフードを脱ぎ捨てるとその下には『軍』が着ていたのと同じような服があり、ベイタはその服の襟を掴むと服の下の左胸を俺に見せる。


「っつ!?それは……」

 そこに有ったのは紫色に怪しく輝く、モンスターの核である赤い結晶によく似た何か。

 そんな物が胸元にあると言う事はやはりベイタは人間では無く、モンスター側の存在と言う事になるのだろう。

 だが、そんな俺の思いも気にせずベイタは話を続ける。


「お前ら人間がモンスターと呼ぶ『軍』様の配下の核であるマゼンタマテリアルと、『軍』様の娘が手切れ金と言う事で渡した青い結晶を組み合わせて作られた新型の核で、死んだ人間の頭部に挿し込む事でその人間の生前の姿と精神性、能力をほぼ完全に模したモンスターを作り出すそうだ」

「青い結晶……そう言う事だったんすか……」

 ベイタの言葉に三理マコトが苦々しい顔をする。

 だがそれも当然の事だろう。

 ベイタの言葉が確かなら、角取キオはその手切れ金になった青い結晶とやらの為に化け物に変えられ、それによって赤唐ジローは命を落とし、自身は立ち直る事こそ出来たが、心に傷を負ったのだから。


「尤も、カッコウちゃんを見て貰えば分かるように死んでからだいぶ時間が経った死体を元にしちゃうとカッコウさんみたいに微妙に壊れちゃいますけどねー」

「お前の壊れ方は微妙じゃない気もするけどな。ただまあ、壊れているって意味なら俺も幾らかは壊れているな。『軍』様がもうちょっと保存に気を使ってくれていれば多少はマトモな人格で復活出来ただろうさ」

「壊れている?」

 ただ、角取キオの件が起きたのはベイタが死んでから一月は後の事で、真旗カッコウが死んだのはベイタよりももっと前の事だったからだろう。

 二人とも自身の事を微妙に壊れていると言っている。

 故に俺は思わずその詳細を尋ねてしまう。


「ああそうさ。カッコウはどうにも自己が安定しないし、俺はこの身体になってからずっと一つの事柄に対して執着を抱くようになっちまった。尤も、金本バンドを見て貰えば分かるように、元の人間がある程度強固な意志を持つ人間でないと、多少強力なだけのミミック系統のモンスターになっちまうだけなもんで、『軍』様曰く今の所成功作と言えるのは俺とカッコウだけだそうだ」

「ご丁寧なご説明どうも」

「良いっての。元相棒だろう?それにだ……」

 ペラペラと俺が尋ねていない事まで話すベイタに対しては俺は皮肉を込めた感じに礼を言うが、俺の礼を聞いたベイタはかつて俺と一緒に見回り班として活動していた時の様な表情と仕草で返す。

 ああくそ、今の行動からしてどうやら本当にベイタが元になっているみたいだな。

 糞が!死者を弄びやがって……何時か絶対にぶちのめしてやる。

 だが、『軍』の行為に対して俺が新たな怒りを覚えている間にベイタはとんでもない爆弾を投下してくれた。


「言っただろう?俺はもうお前……アキラ以外の事は割とどうでもいいんだよ。アキラが俺の言葉に対して何かしらの反応を示してくれるだけで俺としては大々満足なわけだ。それに以前のお前は小さくてアレはアレで守りがいがあってよかったが、今の綺麗になったお前もまた良い。それこそ組み敷いて色んな声で啼かせたくなるほどに……な」

「ヒッ……!?」

『なるほど確かにこれは壊れているな……』

「キャー!大胆な告白ぅ!流石はベイたん!カッコウ様の現相棒なだけあるねー」

「モテモテでよかったすねー」

 ベイタの言葉が告げられた瞬間、俺は全身に鳥肌がを立てて寒気と同時に脂汗なのか冷や汗なのかは分からないがとにかく気色悪いものを感じ取り、イースは頬を引き攣らせて苦笑いをし、真旗カッコウはいつの間にか杖に付けられている旗の内容を『ベイたんの恋を応援する会』と言う怪しげな物に変えて振り回し、三理マコトは誰が聞いても棒読みだと分かるような声で呟く。

 今になって俺は理解した。

 頭じゃなくて心で理解した。

 アレはやっぱりベイタじゃない。

 ベイタの皮を被ったモンスターだ。

 だってそうだろう……。


「ふっざけてんじゃねえぞ!テメエは!イースと契約する前の俺本来のせ……立場を!知ってんだろうが!!」

「ハッハッハ、知っているがそれがどうした?昔の事なんて大した問題じゃないだろ」

「この……」

 俺の本気の抗議をベイタは何でもないかのように受け流す。

 この調子だと本当に俺からやられた事なら大抵の事は喜びかねねえな……ああくそっ、本当に気持ち悪くなってきた。

 とっとともう一回眠らせてやる!

 んで、二度と出てこないように粉々になるまで砕いてやる!


「大問題だボケェ!!」

「おっと」

『左だアキラ!』

「なっ!?ぐっ……!?」

「がっ!?」

 故に俺は右目の力をベイタに向かって放つが、その瞬間ベイタの姿が俺の視界から掻き消え、イースの声に従って咄嗟に左腕を上げて構える。

 そしてその次の瞬間、左腕にとても強い衝撃が走って俺の左腕の骨が折れる感覚がすると同時に俺は近くの壁にまで三理マコトを巻き込む形で吹き飛ばされる。


「何が……」

「悪い悪い。でもよぉ、俺としては啼かされるよりも啼かす方が好きなんだわ。ああ、今の骨が折れる音に、肉を叩く感触は素晴らしいものだったなぁ……」

 俺は先程まで俺が立っていた場所を見る。

 そこには腕をぐるぐると回して肩慣らしをするベイタの姿が有った。

 どうやら、あの一瞬で俺の横にまで移動して俺の事を殴って来たらしい。

 ったく……動体視力の強化をしていなかったとはいえ、正しく目にも留まらぬ速さで俺の元にまで踏み込んでくるとはな……。


「さあアキラ。立てよ。立って俺に抗え!そして俺にお前の生を!死を!全てを感じさせてくれ!!」

「ぐっ……味方を呼んでくるでやんす」

「頼んだ……いいぜ。かかってきな!ベイタ!お前を改めて墓場に叩き込んでやる!」

「むふふふー、どうなるかなー」

 そして俺は三理マコトが傷を庇いながらも俺たちの直ぐ後ろに伸びる通路に飛び込んで姿を消すのを確認すると同時に立ち上がると、相変わらず気持ち悪いことを言っているベイタに向けて意気揚々と戦いの意思を告げた。

 さて、二対一か……上手くやらないとな。

一応言っておきますが、ベイタがこんなキャラになっているのはベイタの意思も『軍』の意図も絡んでいませんからね。

単純にアキラに関する記憶しか残っていないせいで、全ての感情がアキラに向かっているだけですからね。

誰も腐ってはいないのです。

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