第72話「模倣の迷宮-3」
「つまりだ。話を纏めるとその真旗カッコウと言う女は元々トキさんたちと組んでいた人間で、その実力は非常に高かった。が、ある日突然いなくなり、今になってモンスターの味方をする形で現れたという話だよな」
「そっけなく事実を纏めてしまうならそう言う事になるでやんす」
俺と三理マコトは周囲を警戒しながら、金本バンドの屋敷の通路によく似た『迷宮』の通路を三理マコトの先導で歩いていく。
まあ、三理マコトの能力だと目的地までの危険性の高さと辿り着く時間の短さの両方を鑑みて総合的に一番いい道順を選び出せるだけで、モンスターや罠の有無までは分からないから警戒するのは当然の話だな。
「それなら偽物だと考えた方が順当だし、心持としても楽だよな」
『アキラ、後ろの絵画だ』
「(了解)」
俺はイースの声に従って体と首を傾けると、壁に掛けられていた絵画から音も無く飛出し、俺たちに背後から襲い掛かろうとしていたモンスターを右目で睨み付けて氷に変え、氷に変わったモンスターは自重に耐え切れず崩れ落ちる。
「まるであの女が本物の真旗カッコウであると考えているような口ぶりでやんすね。それから、後ろに目があるような察しの良さでやんすねぇ」
「後ろに目があることは否定しないさ」
『まあ、アキラの代わりに実際に我が見ているからな』
俺は俺に代わって背後を見ているイースの頭を撫でながら、真旗カッコウの姿をしたあの女の事を考える。
あの女が本物の真旗カッコウであるか否か。
正直に言ってどちらであっても別段問題は無い。
モンスターに味方をする以上は俺とイースの敵であり、倒すべき相手であることに変わりは無いからだ。
ただしかしだ。
「覚悟はしておいた方がいい。仮にあの女が……そう、例えばの話だが真旗カッコウを元に作り上げられたモンスターだっていう可能性も存在しないわけじゃないんだしな」
「角取キオの様に……でやんすか」
「アレも確かにそうかもな」
金本バンド=ミミックの変貌の仕方やその姿、動き、考え方まで考えたのなら『軍』が人間を元にモンスターを作り出す力を持っている可能性程度は考えるべきだろう。
そしてそれは三理マコトとかつてグループを組んでいた角取キオの変貌とも核と思しきものに赤い結晶と青い結晶と言う差こそあれ繋がる可能性は高い。
「ただ、出来ることなら当たってほしくない想像の一つだがな」
「確かにモンスターの元が人間だなんて言う想像は当たってほしくない想像ではあるでやんすね」
俺の言葉に三理マコトもやれやれと言った表情を浮かべる。
実際、モンスターの原料が人間だなんて言う話は戦意を高揚させるか失墜させるかの二択になりそうな話であり、迂闊には漏らす事も出来ないだろうな。
「と、こっちとそっちの道はヤバいでやんすね」
「了解っと」
と、十字路に差し掛かったところで三理マコトが二つの道は危険だと判断して一番安全な道を選びだす。
今までの傾向として一応は同じ方向を目指しているようだが、どうやら目的地になっている誰かも移動しているせいで細かく進路変更をする事になっているらしい。
そしてしばらくの間歩いていると、やがて通路が終わってホールのような場所に出る。
「いらっしゃーい」
真旗カッコウの姿をしたモンスターが佇むホールへと。
「嵌められたな」
『間違いなく誘い込まれたな』
「あー、あっしの能力を逆手に取られたでやんすね……」
「流石に三人とも頭の回りが早いねぇ。カッコウは感心しました」
真旗カッコウは右手に持った旗付きの杖を軽く回しながら、口元に笑みを浮かべた状態でこちらを見る。
「まあアレだよね。危険性と掛かる時間の総合で判断するなら、他のルートにぎっしりとモンスターを詰め込んでおけば三理だと危険な道だって判断しちゃうよねー」
「その通りでやんすよ。で、結局アンタは何者でやんすか?」
三理マコトは自分の能力を逆手に取られた事に対してイラつきを見せつつも、目の前の女の正体を見極めるべく言葉を投げかける。
勿論、俺も三理マコトも相手がマトモにこの質問に答えるとは思っていなかった。
「カッコウちゃんは真旗カッコウと言う人間の頭に特別な処理を施し、考え方や力を『軍』様が特別にこしらえたモンスターに転写して造られたモンスターですよ。しかも……」
「多少の改変は加えられているが、あの不細工で下種な化け物と化した金本バンドと違って人間だった頃の知識や能力もそのまま維持している。はっきり言って元の人間を生き返らせたと言った方が正しいだろうな」
「新手っすか!?」
だが真旗カッコウは何でもないように答えを告げ、更に俺たちの背後から新たな声が聞こえてきて三理マコトはそれに反応する。
「…………」
『アキラ?』
だがしかし、だがしかしだ。俺には新手の敵が出てきたと言う認識は出来なかった。
「なんで……」
何故なら俺の耳に入ってきたその声は俺にとってなじみの深い声だったからだ。
「何でお前が……」
俺はゆっくりと振り返り、俺たちの後ろに居たフードの男に向かって声を投げかけようとし、フードの男もそれに応えるように目深に被ったそれをナックルを付けた手で外そうとする。
「何でお前がそこに居る!」
「よう。久しぶりだなぁ……」
そして現れた顔は俺の想像通りの顔。
つまりは……
「ベイタ!」
「アキラ」
あの『迷宮』で死んだはずの男。
黒土ベイタだった。
死んだはずのベイタ登場!
……。
ちゃんとフラグを張っていたからなのか一部の方には先読みされていた模様です。