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第7話「神療院-2」

「……」

 時間が異様なまでに遅く流れているのを俺は感じる。

 ああいや、時間の流れは一定だったな。

 ただ単に俺が現実を直視し、理解することが出来ていないから頭が考えをまとめる時間を求めてこんな事になっているだけだな。

 ああ、でもアレだ。胸の部分にこんな変化が訪れていても、あっちが無事なら色々と男の尊厳は守られるかもしれない。

 そうすれば俺の精神も落ち着きを取り戻すかもしれない。


「……」

『ん?』

 と言うわけでとりあえず非常に柔らかく、同時にしっかりとした弾力がある立派なサイズの胸を押し縮めて股間の部分を確認。


「……」

『ああ、起きたのか』

 イースの声が聞こえて来ている気もするが、今は無視してしっかりと確認。


「……」

『いやー、何とか我もアキラも助かったらしいな。良かった良かった』

 確認終了。詳しい描写は避けるが、敢えて言うなら白くて殆ど見えない産毛しかなかった。


「……」

『で、どうしてアキラは自身の股間をそんなまじまじと見つめているのだ?』

 結論、大切な物は無い。

 見た事は無いが、女性のあそこと同じになっていると思う。


「いやうん……こんな立派な胸が出てた時点で何となくそんな予感はしていたけどね。でもさ、それでもさ、胸が出てきた以上に男としては在るべきものが無くなった喪失感と言うかさ、男を男たらしめる分かり易いシンボルが消失しているって言うのは……」

『ん?』

「泣きたい。でもそれ以上に……」

『どうしたのだアキラ。折角助かったのだから……』

 イースの声がしていると言う事はイースも起きているのだろう。

 こんな事になっている原因は分かっている。

 と言うか原因になる可能性があり得る物として思い当たるのが他にもう一つあるが、直感的にそれが原因で無いのは理解出来てる。

 まあいずれにしてもとりあえずだ。


『よ……』

「イイイィィィスウウゥゥ……」

『!?』

 俺はイースの気配がする方に痛みをこらえながら手を伸ばし、イースの小さな頭を掴み上げて俺の顔の前にまで持ってくる。


『ちょっと待て!?強制実体化!?どういう力の使い方をしているのだ!?』

「失礼する……」

 イースが何か騒いでおり、部屋の中に誰かが入ってきたようだが俺の知った事ではない。

 今はただ思いのたけをぶつけるのみ。


「テメエェ!これはどういう事だ!どうして俺の身体が男から女になってんだ!?返せ!今すぐ俺の男の象徴を返せ!と言うか契約を破棄させろ!クーリングオフだこのヤローが!!」

『くる……くるし……そんなに……揺さぶら……』

「よ?」

 俺はイースの身体を激しく前後に揺さぶりながら全力で声を張り上げて叫び声をイースにぶつける。


「ちょっ!?君!落ち着きたまえ!」

「やかましいわああぁぁ!!」

『…………(気絶中)』

「メディック!メデイィィック!!」

「貴様が医者だろうがあぁ!」

「あれ?何処に行った?確かに持っていたと思ったんだが……」

 と、ここで部屋に入ってきた白衣を着た医者と思しき人たちによって俺は取り押さえられてベッドに縛り付けられ、俺の身体から引き離された時点でイースの実体化が解けて触れなくなる。

 ガルルルル……覚えていろ……と言うかどうしてこうなったのかの説明を絶対に後でしてもらうからな……。


「やれやれ、寝ている時はまるで眠れる森(スリーピング)の美女(ビューティー)のようだと皆で言い合っていたが、起きたらとんだじゃじゃ馬だったな」

「ああん!?」

 誰がスリーピングビューティーだ!誰が!俺は男……今は肉体的には女かもしれないが、本来は男だっての!!


「はいはい。落ち着いてね。あっ、男どもは彼以外とっとと退散しなさい。邪魔だから」

「起きたばかりで悪いが幾つかの質問に答えてもらえるかな?」

「ん?」

 と、ここで女医さん一人に看護士の女性が二人、治安維持機構の制服を着た壮年の男性一人の計四人を残して他の医者や看護士は部屋の外に出ていく。


「私は治安維持機構の大多知ユヅルと言うが、君の名前は?」

「俺の名前か?俺は白氷アキラって言う名前だけど」

「ふむ……」

 俺の名前を聞いたユヅルさんは何かを考え込むような様子を見せつつ一度肯くと次から次へと俺に向かって質問を投げかけていく。

 質問の内容は俺の名前に始まり、住所、職業、あの日に何が起きたのか、さっき握っていた蜥蜴は何なのか、倒れる直前の事は覚えているか、どこで生まれて育ったのか等々非常に多岐にわたったが、こちらの負担にならないように配慮してくれたのかとても分かり易く質問してくれた上に時折休憩も挟んでくれたおかげで、疲れを感じることも無く素直に答え続けること一時間ほどで事情聴取と思しき質問群は終わりを告げた。


「なるほど良く分かった。長い間質問に付きあわせて悪かったね。では、私はこれで失礼させてもらいます」

「あー、はい」

「そっちはよろしく頼んだわね」

「分かっていますよ」

 そしてすっかりと怒気が抜けた感じにされた俺を置いてユヅルさんは部屋の外に出ていく。

 うーん。と言うか今思ったんだが、今の俺と昔の俺ってどれぐらい外見に差が有るんだ?差の大きさによっては同一人物だと認識されない気もするんだが……ああいや、そもそも性別と言う最も大きくて分かり易い部分が違っているからもしかしなくても同一人物だと認識されずに痛い子扱いされているかもしれない。

 なんか泣けてきた……。


「さてと、それじゃあ目もしっかりと覚めたわけだし」

「ん?」

 と、ここで女医さんが手だけで看護士の二人に指示を出し始め、指示を受けた二人はきびきびと動き始める。

 ……。何だかとても嫌な予感がしてきた。


「少しずつリハビリもしていって貰うわけだけどその前に包帯を変えないとね。傷口はしっかりと塞がってはいるけど、全身12か所に裂傷を負わされた上に一つは心臓間近にまで突き刺さっていたんだから油断は禁物よ」

「……」

 包帯を変えると言う事はそれはつまりその……この場に俺以外は女性しか居ないけど、肝心の俺が男……いや、肉体的には女なんだけど精神的には男な訳でして……。


「じゃ、脱ぎましょうか」

「ち……」

「やっておしまい」

「ちょま……」

「「あらほらさっさー」」

 そして女医さんが一回指パッチンをした瞬間、逃げる暇どころか抵抗する暇も無く二人の看護士さんによって俺の包帯は変えられることとなった。

 恥ずかしさで死ねるのなら俺は死んでいたと思う。と言うかいっそ死なせてもらいたいぐらい恥ずかしかった。

 シクシク……本当にどうしてこうなったんだ……絶対にイースの奴を問い詰めてやる……。

南瓜も終わったので明日からは12時更新になります。

これからもよろしくお願いします。


ちなみに時間の流れは一定ではありません。

速くなればなっただけ時間の流れがゆっくりになるのは既に分かっています。


07/05誤字訂正

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