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第68話「とある貴族の誘い-3」

「キリサキィ!」

「リッパー!」

「ヒキツブシィ!」

「クラクラッシュウゥ!」

「くっ!」

「重い!?」

 四人の人の形をした何かが両手の爪を伸ばして俺たちに襲い掛かり、それをトキさんが布縫さんによる強化が施された盾で受け止め、周囲に金属音を撒き散らす。

 やはりと言うべきか爪の堅さどころかその筋力まで含めて普通の人間ではないらしい。


「行きますわよ!」

「分かっています穂乃お嬢様!」

「「「!?」」」」

 だがしかし、トキさんの盾によって一瞬彼ら……金本バンド曰くマリオネットの動きが止まった隙を狙って穂乃さんと風見さんがそれぞれの得物を取り出し、風見さんが起こした風に乗せる様に穂乃さんが火球を生み出してマリオネットたちを焼き払いながら吹き飛ばす。


「「「ガアアァァ!?」」」

「流石だな」

「ふふん。これでも討伐班では若手のホープと呼ばれていますもの。これぐらいは当然ですわ」

「でもまあ、これぐらいで終わるほど甘くは無いみたいだね」

 全身に火が付いたマリオネットたちは、床に叩きつけられると直ぐにのた打ち回り始め、床を転がる事によって自らに着いた火を消そうとする。

 本音を言えばこれだけで終わらせてしまえれば楽だったのだが、トキさんの言葉が示すようにそんなに甘い存在ではないらしい。


「「「ガギグググ……」」」

「なるほどな。外道ここに極まれりと言ったところか」

「酷い……」

「よくもこんな真似が出来たものですわね……」

「予想はしてたけどね」

「人の所業ではありませんね……」

「こんな事を出来るなんて……」

 マリオネットたちは皮膚が所々焼け落ちた状態ではあるが身体に着いた火を消して立ち上がる。

 そして立ちあがったマリオネットたちの姿を見て俺たちはそれぞれが悪態を吐く。

 マリオネットの皮膚の下に流れるのは赤い血液では無く、泥を溶かし込んだかのような茶色い液体であり、それがまるで血管のように脈打っていた。

 恐らくはあの茶色い液体の正体はモンスター、つまりマリオネットとは血を抜いた死体の血管に血液の代わりとなる液体状のモンスターを注ぎ込み、そのモンスターが中から死体を操って動かすのを基本とするモンスターなのだろう。


「だからこの匂いか」

「それは……ああ、そう言う事ですか」

 それならば、この場に漂う濃すぎる香の香りも理解が出来る。

 恐らくだがマリオネットには死体の腐敗を幾らか抑える事は出来ても完全になくすことは出来ないだろう。

 そう考えた場合、身体を決めてから時間が経ったマリオネットは酷く臭うと考えていい。

 だからその腐敗臭を隠すために、雑多で濃密な香を焚くことで誤魔化していたのだろう。


「問題は何処に核があるかだな」

「ですわね。モンスターならば核を潰さない限りは頭が無くなっても動くでしょうし、核をどうにかして潰すしかありませんわね」

「血液循環と言う意味なら心臓。身体に指令を出すなら頭ですけど、モンスター相手にそんな常識は無意味ですよね」

「風見さん、ソラ、核の位置は分かる?」

「探知方法の関係上、私には分かりませんね」

「同じく。とりあえず体外には出てないみたいです……」

 ただまあ、モンスターだと分かってしまえば後はもう俺たちの得意分野でも有る。

 だから俺たちは、金本バンドが自分の手下がやられているのに浮かべた笑みを見て、俺たちの後ろにある今まではただの扉だったはずのそれが牙を生やして襲い掛かって来ても即座に反応することが出来、


「ミミ……ッ!?」

「ね!」

「なら、全て燃やしてしまえばいいだけの話ですわ」

「なっ!?完璧に不意を討ったはずだぞ!?」

 ソラさんがハンマーを振り上げて浮かした所に穂乃さんが火球を放って扉の姿をしたモンスターが土くれになるまで焼き尽くす。

 その光景に金本バンドは大層驚いた表情をしているが、奴は気づいているのだろうか?マリオネットたちに命令を下す時に自分で仕掛けの“一つ目”だと言ってしまった事を。

 まあ、その言葉が無くても何かしらの仕掛けや伏兵の可能性は招待状を受け取った時点で警戒済みなわけだし、妙な手を打たれて事故が起きる可能性も考慮するとだ。


「で、次はどうするつもりだ?シャンデリアでも落とすか?そこの燭台でも飛ばすか?それともカーペットが動いて俺たちを転ばせるか?言っておくがモンスターの相手は俺たちの十八番だからな。多少の小細工なんてものは全くの無意味だぞ。本命があるならとっとと出せ」

「ぐっ!?」

 金本バンドには冷静さを早々に失ってもらった方がいい。

 と言うわけで、俺は片手でツツタクトを回して余裕を見せつけながら金本バンドを挑発してやる。


「くそくそくそっ!何が確実に仕留められるだ!アイツ等め!俺様相手に嘘を吐きやがって!戻ってきたら男は晒し首で女は娼館にでも売り払ってやる!!もう手順など知った事か!注意など知った事か!全軍……出てこい!!」

 そして俺の目論み通りに金本バンドは挑発に乗り、金本バンドの命令に応じる形でマリオネットたちを含めた部屋中の物がモンスターとしての本性を露わにする。

 おまけにその中には大きな鏡を体に取り付けたモンスター……通称ゲートも居り、次々にモンスターを鏡の部分から呼び出し始めており、何時の間にやらホールは俺たちを取り囲むように大量のモンスターで溢れかえっていた。


「これはまた随分な数ですわね」

「流石にマトモにやっていられる数ではありませんね」

「ヒヒャ、ヒヒャヒャヒャ!そうだ最初からこうしてしまえば良かったんだ!貴様らがどれだけ強かろうが所詮は六人!!この数をどうこう出来るはずが……」

「と言うわけでアキラお姉様お願いします」

「はいはい。任されましたっと。イース!」

『ああ、全力でやってやれ』

 さて、予想していたよりは多少数が多いが、十分許容範囲内だな。

 俺は手元のツツタクトを羽衣も使って大きく速く鳴らし、それと同時に俺以外のメンバーは全員その場にしゃがみ込む。


「な……い……?」

「はい。お終いっと」

「流石です。アキラお姉様」

「流石ですわ。アキラ様」

 そしてツツタクトによる音楽と幾らかの歩法による強化を加えた右目の力をターンに合わせてほぼ無制限に開放、マリオネットたちを含めたホール内に居たモンスターの全てと壁の大半を氷に変える。

 で、ターンが終わるところで一番手近な場所に在った氷像にツツタクトを投げつけてホール内に在ったすべての氷像を同時に粉砕し、柄に付けられた羽衣を引いて手元に呼び戻す。

 いやー、ツツタクトに俺の爪を混ぜて貰っといてよかったわ。

 おかげでわざわざ接近しなくても氷に変えた相手を砕けるようになった。

 ただ気になる事もある。


「さて、金本バンド……いや、金本バンドの皮を被ったモンスターよ。いい加減人間のフリは止めたらどうだ?正体がどんなモンスターなのかは知らないがな」

「な、何を言って……」

 俺は金本バンドも氷に変えるつもりで先程は力を放った。

 にも関わらず金本バンドは氷像になっていない。

 俺の力によって氷に変化しないのは、俺との力量差が殆ど無いのかまたは俺より強いか。それにあまりにも対象のサイズが大き過ぎる場合だ。

 故に金本バンドの場合は論ずる間もなく前者と言う事になるが、ただの人間でそれは有り得ないだろうから金本バンドは人間の姿をしたモンスターと考えた方が自然だろう。

 だが、金本バンドの表情からして本人に自覚は無いらしい。

 完璧に人間になり切るモンスターとは全く厄介な。


「わ、私がモンスターだと!?そんなぶじょ……ぶじょぶじょぶじょくくくくは……」

「「「!?」」」

 と、ここで突然金本バンドが苦しみ始め、口の中から何かの紋章を象ったような金属片が何個もこぼれ出し、やがて胸に現れた赤い光を中心として全身が膨れ上がり始めていくと共に体中から剣先の様な金属が幾つも顔を覗かせ始める。


「ガアアァァ!!」

 そして変化が終わったところでそれは咆哮を上げた。

うん。まあ、バレバレでしたよね。


09/04誤字訂正

09/05ちょっと改稿

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