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第67話「とある貴族の誘い-2」

「これは……」

「アキラお姉様」

「言われなくても分かってる」

「『迷宮』……ですね」

「ですが、完全に『迷宮』になっていると言うわけでもなさそうですわね」

「簡易ですが防御結界を張らせていただきます」

『これは何が来てもおかしくは無いな……』

 屋敷の中に入った瞬間に俺達六人の周囲に漂う空気が普通の空間のそれでは無く、『迷宮』内の物に酷似したものに変化する。

 そして変化した空気を察してそれぞれが心構えを改め、ソラさんと穂乃さんの取り巻きの片方である風見さんが周囲の探索を始め、もう一人の取り巻きである布縫さんが俺たちの周囲に薄い布状の結界を張り巡らせる。


「やはりと言うべきか、『迷宮』と同じ様に探索系の神力が制限されているようです」

「どの程度ですか?」

「だいたい『迷宮』内と普段との中間ぐらいの制限だね。とりあえず周囲に敵影はなし」

「じゃ、不意討ち含めて色々と気を付けて会場まで行くとしますか」

 一先ず周囲に危険がない事を判断した所で、俺たちは屋敷の奥に向かってゆっくりと歩きだす。

 通路の両脇には趣味の悪い絵画や壺などの美術品が飾られており、この屋敷の主人がどういうものを気に入っているのかが良く分かるようになっている。

 正直言って見ているだけでも不快になってくるな。


「これは……」

「何かの曲のようですね」

 やがて奥の方から響き、俺たちの耳に聞こえてくるのは弦楽器系の音楽。

 音楽としての質は良いだろう。

 だがしかし、こちらもやはり弾いている人間の性格を表すように聞いていてどことなく不快になってくる。


「そしてこの匂いか」

『毒では無さそうだが、香としてはこの量を焚くのは論外だな』

 俺たちの鼻に香りが強めの花を基本として最早雑多と表現するべき数の花が混ぜられて作られたと思しき香が届き、イースも含めてその匂いを嗅いだ全員が否定の感情を露わにする。

 まったく……視覚、聴覚、嗅覚の三つで人を不快にさせるとは、ここまで来るとある意味才能だな。これは。


「と、見えてきたか」

「では、私が先頭で開かせていただきます」

「お願いしますわ。トキさん」

 そうして不快感を感じつつも歩き続けた俺たちは、しばらく経ったところで両開きの大きな扉を見つけ、トキさんが扉を開くために手を掛けると共に残りの俺たちは何があっても良いように戦闘の態勢を整えておく。


「開きます!」

「突入!」

 そしてトキさんが扉を開くと同時に俺たちは室内に飛び込んだ。



--------------



「ふふ、ふふふふふ……少々の手違いに招かれざる客が来たり、その対応で観客が居なくなってしまったりと多少の問題は有ったが、よく来てくれたね麗しの子猫ちゃんたち。歓迎させてもらうよ」

「「「…………」」」

 部屋の中は十数人が踊るのに十分なスペースが取られた巨大なホールとなっており、周りより一段高くなった場所では金本バンドが鳥肌が立つような台詞と共に金属製のバイオリンの様な楽器を弾いていた。

 そして、金本バンドの演奏に合わせて踊るのは二組の男女。

 だが、その顔からは生気が感じられず、正しく土気色と言っていい顔色だった。

 聞いていた行方不明者の容姿とも一致するから、恐らくはあの四人が行方不明者たちの体を使って作られた何かだろう。

 これは間違いなく黒だ。だから俺はツツタクトを手元で弄りながら宣言する。


「歓迎してもらう必要はない。金本バンド、お前を殺人や誘拐を始めとした諸々の罪で逮捕させてもらう。手荒い真似をされたくないのなら、素直に両手を上げて降伏しろ」

「降伏……降伏ねぇ……」

 だがしかし俺の宣言を聞いてもなお金本バンドは演奏を止めず、それどころか微かに笑い始め、


「これは実に奇妙な話だ……降伏?この私がか?降伏こうふくコウフク幸福、ヒヒャハハハハハ!馬鹿馬鹿しい!!それはむしろ私の台詞だ!!僕は貴様らに味わされた屈辱を何千倍何万倍にしても返してあげなければいけないのに貴方様たちに捕まったら、手前らの小汚いアソコをかき回す事も下呂吐くまでサンドバッグにする事も、何処まで皮膚を裂いたら死ぬかの実験も、人形のように体を縫い合わせてみる事も、その身体ぁをグチャグチョにしたスープを啜る事も、何もかもが出来なくなってしまううぅじゃないかぁ!!あひ、アフヒャヒャヒャヒャ!!」

「完全に狂っていますわね」

「気持ち悪い」

 訳の分からない妄言を口から泡を吐きつつ撒き散らし始める。

 何と言うかこれはもう気が狂っているなんて次元じゃないな。

 たぶん、もっとヤバい何かに汚染されている。

 そして、俺たちが金本バンドについては捕縛する気では無く殺す気で行った方が良いと判断した所で金本バンドは突如としてバイオリンの演奏を止め、バイオリンの弓を俺たちの方に差し向ける。

 同時に音楽に合わせる様に踊っていた二組の男女も、踊る事を止めて全員がこちらの方に生気がなく口の端から泥のような物をこぼしている顔を向ける。

 当然ながらその瞳には意思の色と言うものは欠片も宿っていない。


「くひっ、くひひひひ、さて奴らが準備してくれた仕掛けの一つ目の披露と行こうか……さあ行けマリオネットたちよ!そこなる娼婦共をバランバランになるまで引き裂いて僕ちんに差し出せえぇ!」

「「「イエスアァマアァムゥ!!」」」

「来るぞ!」

「総員構えなさい!」

 そして金本バンドが命令を下すと同時に、四人の人間の皮を被った何かが俺たちに向かって飛びかかってきた。

完璧にイッています


09/04誤字訂正

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