前へ次へ
66/245

第66話「とある貴族の誘い-1」

「まず初めの事件発生が三週間前で、場所はジャポテラス東街の路地裏。同じ日から東門の警備をする三十代男性が一名行方不明になっている事からこの人物が居なくなったと思われます」

 最低限の物を残して明かりが消された部屋の中に俺を含めた総班長級の人員が何人も座っており、そんな俺たちの視線は最新鋭だと言うモニターの横で今現在説明を行っているユヅルさんに向けられている。


「第二の事件が二週間前、場所はジャポテラス西街南西部の住宅街で、都市の外で農業の手伝いを行っている十代女性が行方不明になっています。また、事件現場の状況から本事件を同一犯によるものだと考え、この時点から死体無き連続殺人事件として扱っています」

 俺たちが今説明を受けているのは、現在ジャポテラスの影で密かに起きている連続殺人事件について。


「第三の事件は一週間前。場所はジャポテラス西街南東部の工場地帯で、工場で働いていた女性の一人が居なくなっています」

 その内容は簡単に言ってしまえば街の中で突然人が行方不明となり、近くには明らかに致死量を超える量の人血が撒き散らされた場所が存在している。と言うものである。


「第四の事件は本日未明。場所はジャポテラス西街中央部の貴族街。まだ確定はしていませんが、毎日同じ時間に見られると言う四十代貴族の男性を見かけなくなっていると言う報告が上がっている事からこの男性が被害者と思われます」

 ただ、この事件で特筆すべき点はもう一つある。

 この事件には死体も無いが、事件に関連した目撃証言も一切存在せず、過去見の力を持った神の力をもってしても事件が起きたと思われる時間だけは見通すことが出来なかったと言う恐るべき特徴が。


「ですが、今回は今までと多少違う点があります。それがこれです」

 ユヅルさんの言葉と共にモニターに映し出される物が数枚の便箋に変化する。

 そしてこれこそが、本来なら治安班と場合によっては見回り班や医療班の人間ぐらいしか集まらなかったはずのこの場に特務班総班長である俺や、言無討伐班総班長、それに二飄長官まで集まる事になった理由だろう。


「この便箋は第四の事件現場に存在した血だまりの傍に置かれており、内容について掻い摘んで話しますと、本日6時より金本バンドの家で舞踏会を開くので、アキラ・ホワイトアイス、穂乃オオリ、布縫(ぬのぬい)ユイ、風見ツツジ、田鹿トキ、田鹿ソラの六名をそれに招くと言う話であり、この話を反故にした場合はそれ相応の報いを受けてもらうとも書いてあります。わざわざ今までの三件の被害者のものと思しき血を便箋の隅に染み込ませた上でです」

「罠じゃな」

「罠でしょう」

「罠以外有り得ないな」

『絶対に罠だな』

「罠だろうねぇ」

「まあ、十中八九そうでしょう」

 で、当然ながらこの場に居る全員がこの便箋の内容について罠だと断じる。

 まあそうだよな。俺たちと金本バンドの間に起きた例の件についてはすでに周知の事実だし、金本バンドが怪しい連中と付き合いがある事も分かってる。

 おまけに今までの事件は自分たちがやった物だと言わんばかりの仕掛けも施している。

 これで事件と何の関係も無かったらそちらの方が驚きだ。


「ただ分からないのが、この便箋で呼ぶ六人中四人は金本バンドとの面識がありますが、田鹿姉妹に関しては金本バンドと面識が無いにも関わらず呼ばれている点です」

「その点については考えてもしょうがないだろうねぇ。今の私たちが論じるべきはこの誘いに乗るか否かだ」

「私は乗るべきではないと思います。既に金本バンドが何かしらの犯罪に手を染めているのは確かですから、実の所令状さえ届けば逮捕はいつでもできますし。金本家の当主も我々に協力的ですから」

「儂は乗るべきじゃと考える。金本バンドの裏に潜んでいるものまで考えれば、これはもはや治安班の仕事では無く討伐班や特務班の仕事じゃろう」

「そうですね。堂々と正面から乗り込んで、黒だと確定した瞬間に合図。治安班と討伐班の合同で捕縛……いや、殲滅に移るぐらいで丁度いいかもしれません」

「その場合は諜報班からも一名連絡役を特務班側に付けましょう。ちょうどいい者が居ますので」

「俺としてはどちらでも。ただ、乗り込むならそのまま『迷宮』に挑むぐらいのつもりで行かせてもらいますよ。探索系の神の力を誤魔化せるだけの何かがあるならそれぐらいは絶対に必要です」

 部屋の中に居る各人がそれぞれ勝手に自分の意見を述べていき、やがて話し合いの方向性が見えてきたところで話を区切るように二飄長官が両手を叩いて大きな音を鳴らす。


「そろそろ結論を出そうか。治安維持機構長官二飄ヒルヒの名において命じる。アキラ・ホワイトアイス並びに先の便箋で名前が出されていた者たちは誘いに応じる形で正面から屋敷の中へ、その後機を見て外部に合図、それに合わせて治安班と討伐班が屋敷内に突入。証拠と金本バンド及びその協力者の確保を行う。諜報班、見回り班は現場周辺の封鎖と逃亡を計られた際の追跡。装備については各班とも各人の最高位の物を出すようにしておく事。場合によってはモンスター相当の何かと戦う可能性も十分あり得る。では、各自行動を開始せよ!」

「「「了解!!」」」

 そして下された二飄長官の命令にこの場に居る全員が立ち上がって敬礼を行い、一斉に行動を始めた。



---------------



「さて、と」

「全員気を付けていきますわよ」

「わざわざ穂乃さんに言われなくても分かってるって」

「鬼が出るか蛇が出るか……」

「いずれにしてもアキラ様と一緒なら頑張らなければ」

『外観に関しては見た限り妙な点は無いな』

「いつでも構いません。アキラさん」

 時刻は午後六時少し前。場所は金本バンドが拠点として用いている屋敷の正面玄関前。

 そこには巫女服に羽衣付きのツツタクト、それにスリング用の弾などを装備した俺に、治安維持機構の制服に身を包んだ穂乃さんたち五人が並んでいた。

 姿こそ見えないが、諜報班から派遣されている人も恐らくこの場に居るだろう。


「じゃあ、全員行くぞ!」

「「「了解!」」」

 そして俺が号令を下すと同時に、俺達六人は屋敷の玄関をくぐった。

どう見ても罠

前へ次へ目次