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第63話「諜報班とのすり合わせ」

 翌日、朝の内に昨夜ツクヨミ様から聞いた情報をトキさんとソラさんの二人に話した俺は諜報班にやって来ていた。

 目的は勿論情報の共有を図るためである。


「ふーむ……明らかに致死量の……これは確かなのか?」

「と、先客が居るのか。入っても良いですかー?」

「ん?ああ、アキラ君か」

 で、諜報班の部屋の中に入ろうとしたがその直前で中からユヅルさんの誰かと話すような声が微かに聞こえてきたのに気づいて俺は扉を叩くと同時に中に向かって声を掛ける。


「少し待ってくれ。では……よし。もういいぞ」

「分かりました。失礼します」

 俺が部屋の中に入ると、以前のように諜報班の総班長と思しき人が自身の机で何かの作業をしており、ユヅルさんが応接用の椅子に座っていた。

 が、ユヅルさんと話していたであろう人物の姿は何故か見当たらない。


「いやすまないね。部下が緊急の報告とやらを持って来たものでね。あ、そっちに座ってくれ」

「いやまあ、それは別に構いませんけど。ん?」

「どうしたかな?」

「何かが通り抜けて行ったような……気のせいか?」

 俺はユヅルさんの誘導で席に着くが、それと同時に俺の横を小さい何かが通り過ぎて行ったような感覚を覚え、そちらの方を見るが誰も居なかった。

 うーん?一体どうなっているんだ?


「まあ、どうでもいいか。とりあえず昨夜の内に金本バンドについてタカマガハラの方に確認を取ったんで、それについて話しても良いですか?」

「ああ、よろしく頼むよ」

 害意や敵意を感じなかったと言う事で俺は先程の感覚について考えるのを止め、今日俺がここに来た理由であるツクヨミ様から得た情報をユヅルさんに対して話し始めた。



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「なるほど……厄介事の匂いしかしないかな」

 そして俺の話を聞き終ったユヅルさんは酷く陰鬱とした表情でそう呟いた。

 まあ、誰が聞いたってあの情報の内容からは厄介な匂いしかしないよなぁ……。

 力を与えている神がいないはずなのに金本バンドは神力と思しき力を用いり、その後ろには全ての『迷宮』の主である『軍』が潜んでいる可能性が高い。

 仮に『軍』が潜んでいなかったとしても、裏に誰も居ないと言うのは有り得ないだろうしな。


「とりあえず、こっちとしてはこれ以上出せる情報は無いんで、俺としては後は諜報班と治安班に任せるしかないと思っているんですけど」

「そうだね。普通の事件や相手なら特務班の出番はないだろう。だがしかしだ」

 そう言うとユヅルさんは何枚かの資料を俺の方に見せる。

 その資料の中には金本バンドが拠点として使っている住居の一つに出入りするフードを被った謎の集団が居る事と、その集団を尾行しようと思っても必ず撒かれてしまう事、この集団と金本バンドとの付き合いが既に一年近い物に及んでいる事が書かれていた。

 もしかしなくてもこれって迂闊に見せたら拙いものなんじゃ……。

 と、そんな俺の考えが顔に出ていたのか、


「心配はいらない。私が必要だと思って見せた物だからね。それに私の勘が言っているんだ。君の情報の中で言われていた金本バンドに力を与えた奴とこいつらには少なからず関わりがあるとね」

「と言う事は……」

「ああ、人の皮を被ってはいるが、コイツらがモンスターの可能性もある。条件さえ満たせばこちらにもモンスターが出てこれるのはグレイシアンの件ではっきりと分かっている事でもあるしね。だから、仮にコイツらの正体がモンスターであると確定するか、かなり高い確率でそうであると言えたなら特務班と討伐班にも協力を要請することになるかもしれない」

「なるほど」

 どうやら状況と真実次第ではこちらにも鉢が回ってくる可能性は十二分にあり得るらしい。

 となると今の内にいくらか準備を整えておく必要もあるかもな……それに金本バンドの側から何かを仕掛けてくる事も考えられるし。

 それに『軍』と戦う事を想定するのなら……うん。今のままじゃダメだな。

 イースに相談してもっと修行を積んでおく必要がありそうだ。


「まあ、いずれにしてもジャポテラスの法上、明確な証拠と罪状が揃わなければ家に踏み込んだり、強権を発動させることは出来ないから、相手から仕掛けてこない限りは私たち諜報班の仕事である事に変わりはない」

「では、俺たちの力が必要になったらその時にでも連絡をください」

「君たちが出張る状況になったら諜報班よりも先に二飄長官から直々に命令が下る可能性の方が高そうではあるがね」

「それはまあ確かに。じゃ、話す事は話したんで、今日の所は失礼させてもらいます」

「ああ、こちらとしても貴重な情報が幾つも手に入ったし、上手くいけば大きく状況を進展させられるかもしれない。協力に感謝するよアキラ君」

「いえ、こちらも世話になっていますので」

 そして俺はユヅルさんと相変わらず黙々と自身の仕事を続ける諜報班の総班長に対して礼を言ってから、諜報班の部屋を後にした。

 さて、確か今日はトキさんのリハビリも兼ねてソラさんが演習室を取っていたはずだから、そこでイースに指示を貰いながら修行と行きますかね。

諜報班は諜報班で動いています

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