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第6話「神療院-1」

 ジャポテラス神療院。

 そこはジャポテラス中の神々と人間の知識と技術の粋を集めて建設されると同時に運営されている病院であり、その医術は死んでさえいなければどうにか出来るとも、死んでいても身体さえ有ればどうにか出来るとも言われている。

 尤も進み過ぎた技術であると同時に、お偉いさん特有の特別扱いを求める声などが原因で利用出来る人間は極々限られた範囲になると共に大半の技術が秘匿される事になってしまっているのが現状であるが。


「間違いないのかね?」

「はい。神格はさほど高くはありませんでしたし、此処ジャポテラスに所属する神でも無いようでしたが間違いはありません」

 そして、そんなジャポテラス神療院の一室で、白衣を着た複数の人間……神療院に務める医者たちが資料を片手に頭を悩ませつつ話し合っていた。


「一人の人間の内に神をまるごと一柱入れる……か」

「俄かには信じがたいな。不可能と言い切っても良い事だぞそれは」

「よほど相性が良いなら……いや、それでも厳しいか」

「だが事実だ。事実である以上は認めるしかない」

「それにあの傷で生きているのだ。これぐらいは不思議でもないかもしれん」

「心臓に到達する一歩手前だったか。確かに普通なら死ぬ傷ではあったな」

「そうね。世間では我々は死んでも身体さえあればどうにか出来るなどと言われているけれど、我々の力でどうこう出来るのは死ぬ前まで。逆に言えば神の力なら死んだ後でもどうにか出来るのが我々の認識ですもの」

「それで身元の方は?」

「治安維持機構の制服を着ていましたので所持品と併せて各方面から身元を確認しました」

「結果は?」

「該当無しです。着ていた制服の持ち主とは似ても似つきませんでしたし。なので、本人に話を聞くしかありません」

「つまり目覚めるのを待つしかない……と」

「やれやれ」

「全く困ったものだ」

「アシテコウ様の御力であらかたの傷は治っていますし、後は待つしかないでしょうなぁ」

 部屋の中に居た人間が一様に困った顔でどうしたものかと悩んでいたところに扉をノックする音が響き、そのノックに対して部屋の中に居る人間の中で代表と思しき人間が入室の許可を出す。


「お、お話し中失礼します」

「どうした?」

「例の患者が目を覚ましました!」

「「「!?」」」

 そして部屋の中に飛び込んできた看護士の言葉を受けて部屋の中に居た人間たちは一斉に立ち上がり、動き始めた。



■■■■■



「ここは……」

 瞼を開けた俺の視界に見知らぬ天井が映り込む。

 俺は身体を動かそうと思うが少し体を動かそうと思っただけで全身に痛みが走った為、痛みが走らないレベルで首から上だけを動かして周囲の状況を確認する。

 まず右に顔を向けると、ジャポテラスの中でも値段や管理の面からごく限られた場所でしか使われていないはずのガラスがはめこまれた窓が見え、窓の先には清潔感の漂う白い外壁の高い建物が何棟も並んでいるのが見えた。

 左に目を向けると此方は温かみのあるベージュ色に近い白の壁と、部屋の外に通じていそうな扉、それに……確か点滴とか言う名前の医療器具を初めとして名前も分からない機器が沢山有り、それらの機器から伸びた線は俺の身体に向かっていた。


「病院……で、いいんだよな?」

 俺は見回せる範囲から得られた情報の結果としてそう結論付ける。


「てことは助かったのか……うっ!?」

 俺は瞼を下げるて一息吐こうとする。

 だが、瞼を下げた瞬間脳裏にあの『迷宮』で会った血まみれの鉈を持ったあの女の姿が浮かび上がり、その時に感じた恐怖を思い出すと共に吐き気を覚える。

 幸いと言うべきか胃の中に何も入っていなかったらしく、口から洩れてきたのは音ぐらいだった。しかし吐こうと思っても吐けないが為に余計に吐き気が募っていく感じがした。


「ゲホッ、ゲホッ……ん?」

 ただ、そうやって吐き気を催して身体を動かしている間に俺は自身の身体に対して妙な違和感を感じる。

 具体的に言うと胸の辺りから。

 より具体的に言うと、せき込む際に左右に揺れる感覚がする。

 ついでに言うと顔を身体の下の方に向けた際に、今までは視線を遮るものは無かったはずだが今は胸の辺りに妙な膨らみが有って視線が遮られている。


「……。いやいや、んなはずはない。深呼吸だ深呼吸。スゥーハァー……」

 俺は嫌な汗が頬を伝い、悪い予感が頭の中で駆け廻っているのを感じつつもそんなはずはないと思って何度か深呼吸をする。

 そして改めて視線を下ろす。当然と言うべきか膨らみは消えていない。


「……。あーあー、あれだ。きっと医療機器の線とかが変な感じに膨らみを作っているんだろう」

 俺はまるで天啓のように頭の中に浮かんだ答えを口に出し、その答えが合っている事を確かめるために身に着けている前が開けるタイプになっている病人服のふちに手を掛ける。

 そう、そんなはずはないのだ。どことなく声がイースと契約する前よりも高くなっている気もするが、いくら神の力と言ってもそんな事が起きるはずがない。あの垣根を越えるような事が早々に起きてしまうなら人間の社会は成り立たないのだ。


「とう!」

 そして決心した俺は勢いよく病人服の前を開き、自らの視線を自身の胸元に向ける。


「……」

 そこに有ったものを見て、俺は先程よりも明らかに多い量の冷や汗が全身に流れ始めるのを感じ取る。


「……」

 一度目を逸らし、再び向ける。

 勿論それはある。


「……」

 再度目を逸らし、一呼吸してからまた向ける。

 やっぱり間違いなくどう見たってそれは俺の身体に繋がる形で、幾らかの包帯を巻かれて医療機器から伸びた線の先に有る円形の物体が張り付けられた状態でそこに有る。


「ナンジャコリャアアアァァ!?」

 俺はこの場が病院と言う事も忘れて思わず叫び声を上げる。


 だがしょうがないだろう。

 俺は男だ。まだ人生を16年間しか生きていないが、それでも間違い無く生まれた時から男だ。

 いや、男だったと言うべきかもしれない。

 何故なら今俺の胸にあるのは女性にしかないはずの物……と言うか女性でもここまでのサイズは珍しい物。

 要するに……


 立派なサイズの乳房だった。

自覚しましたよー


07/05誤字訂正

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