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第59話「とある貴族とは-2」

「で、アキラ様ファンクラブと言う奇妙な団体についてはともかく、その金本バンドと言う男について諜報班は何と?」

「ふふ……アキラお姉様の手を……ふふふふふ……」

 穂乃さんたちと別れた後、俺は治安維持機構本部に在る諜報班の部屋に行ってユヅルさんからあの男についての情報を貰っていた。

 で、その後に今日有った事を話したり、あの男に関しての情報共有をするために今日は女子寮の食堂では無く特務班の寮で俺が夕飯を作ることにし、それらの情報を調理中に話す事にした。

 と言うわけで諜報班から得た情報を二人にも話しておく。


「諜報班から得た情報も穂乃さんたちから貰った情報も大差は無かったな。と言っても穂乃さんたちが把握しているよりも諜報班が把握している内容の方がもっと酷かったけどな」

 俺は素麺を茹でながら付け合せとして出す野菜を水で洗ったり、小麦粉を塗した肉を油で揚げたりしながら諜報班で得た情報の詳細を二人に話していく。

 まあ、あれだ。諜報班の話通りなら穂乃さんの話の数倍はウザくて面倒な男であり、金属関連の神力を使って色々と裏でやっている事と、性格と能力からして確実にその内何かしらの形で仕掛けてくるのは分かった。

 そして俺の話を聞き終わった二人は……


「次に会ったら両手足を叩き折るぐらいはしても良いと思います」

「ブツブツブツ……」

 トキさんは笑顔と言う名の仮面でも隠しきれない量の殺気を放出すると同時に思わず箸を握りつぶし、ソラさんは邪気に近い何かを放出しつつ俯いて何かを早口で呟き続ける。

 とりあえずソラさんが呟いている言葉の中身に関しては触れないでおくのが正解だな。

 ちなみに金本バンドを庇う気は俺にはない。あんなくだらない奴の為に二人が手を汚すのは嫌だから逸った真似はしないようにと言い聞かせておくが。


「それにしても疑問なのですが、何故それだけの事をして金本バンドは家を追われないのですか?それに金本バンドに力を与えている神様は何故力を与えるのを止めないのでしょうか?」

「出来たぞっと。家を追われない事に関しては先代当主である祖父に上手く取り入っているかららしい。そうでなくとも貴族としては可能な限り隠しておきたい醜聞らしいからな。まあ、その辺りの込み入った事情は聞いても良く分からなかったのが俺の本音だけどな。力については……イース?」

『力については我の方からアキラの修行も兼ねつつスサノオ様たちに確認をしてみたいと思っている。もしかしたら既に切られているのを何かしらの方法で誤魔化している可能性もあるしな』

 俺はゆで上がった素麺に各種付け合せをテーブルに持っていき、運び終わったところで席に着くと全員で「いただきます」を言ってから食べ始める。


「ちゅる……と言うわけで確認の為に食事が終わったら修行も兼ねて祭儀場でちょっとした作業をするから、その間に誰かが訪ねてきたりしたら対応よろしく」

「パクッ、この肉揚げ美味しいですね。分かりました。そう言う事なら任せておいてください。と言いますか、そもそも夜に特務班寮に訪ねてくる人間なんて早々居ない気もしますけどね」

「ちゅるちゅるー、例の金屑なら有り得るんじゃない?その場合は治安班に不審者として叩きだした後、治安維持機構の女子全員とアキラ様ファンクラブの皆で協力して二度と天下の往来を歩けないようなるまで合法的に痛めつけるぐらいはするけど」

『そうだな。あの手の害悪は徹底的に叩き潰すぐらいでちょうどいいだろう。っと、ソラには我の声が聞こえていないのだったか』

「何となく身振りと雰囲気でイース様がアタシの意見に賛同してくれてるのは分かるから大丈夫だよー」

 と言うわけで俺が男のままであっても同情をする気にはならないが、金本バンドがもし来たらどうするのかと言う話は俺が多少話の内容に恐怖しつつも着々と進んでいく。

 とりあえず治安維持機構の本部に今金本バンドが踏み込んだら二度と日の目は見れないだろうなぁ……。自業自得だから処分に携わった人たちにお疲れ様です。と、俺は言うだけだが。

 ちなみに後で聞いた所、ソラさんはアキラ様ファンクラブの会員ナンバー101だそうで、本人曰く穂乃さんの策略で結成に気づくのに遅れたとか何とか言いつつ、二桁ナンバーにもキリ番にもなれなかったのを悔しがっていた。

 ついでに言うならトキさんは特別顧問なのでナンバー0らしい。


「「「御馳走様でした」」」

「まあ、いずれにしても何か有った時対応するのは俺たち特務班じゃなくて治安班だよ。相手はモンスターじゃなくて人間なんだから」

「そうですね。『迷宮』が関わっていないのなら特務班も討伐班も居る意味は有りません」

「直接的な手を打ってきたらやり返すけどねー」

 そんなこんなで食事も終わり、俺は洗い物をしながら食事中にした話の結論を下す。

 実際問題、特務班にしろ討伐班にしろその戦闘能力は治安維持機構の中でもモンスターを倒す事に特化しているから人間相手にはあまり向かないんだよね。

 攻撃能力は高すぎて制圧を通り越して殺してしまうだろうし、防御能力は技よりも力で押すモンスター向けのだから微妙に小回りが利かないしで。

 と言うわけで餅は餅屋ではないが、こういう時は人間を相手にするのを専門としている治安班に任せておくのが一番いいのである。


「じゃ、身体を清めてから祭儀場で作業をしてくるわ」

「ええ、お願いします。ソラ、分かっているとは思うけど……」

「いや、流石にこの流れでそれはしないからね。トキ姉ちゃん」

 洗い物も終わったところで俺は風呂場に行って普通に体を洗ってから、数日前に出来上がったグレイシアン様式の巫女服に着替えて清めの儀式を敢行。

 その後、濡れたままの状態で祭儀場に移動する。


「(なんだかんだで今までやった事が無いから指導よろしく)」

『うむ。言われなくても』

 そしてイースの指導の元、祭儀場とタカマガハラの間で情報をやり取りするための儀式を俺は始めることにした。

さりげなく一通りの料理をこなせるのがアキラちゃん

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