第56話「祭りの後」
目を覚ますとそこは新人歓迎女子会をやっていた女子寮の食堂ではなく特務班寮に在る俺の自室で、ベッドの天蓋の内側が目に入った。
俺は体を起こして自分の状態を確かめる。
服は酒臭いが、乱れてはいない。髪も同様。
体調に関しては酔いが残っている感じは無いし、見回り班時代ならあれだけ呑んでいたとなると翌日は絶対に二日酔いになったはずだがそんな感じもしない。
「うーん?」
俺は眠る前の事を思い出そうとするが酒を有り得ないぐらい呑んでいた事しか思い出せず、その記憶に関しても途中からあやふやになって行き、やがてぶつ切りにされる。
とりあえず自分の足で寝床に来た覚えは無いので、酔いつぶれて誰かに運ばれたと考えておいた方が良さそうだな。
「喉が渇いたし、水でも飲みに行くか」
と、ここで俺は喉の渇きを覚えたので、服が酒臭いのを感じつつも部屋の外に出て、扉の前で倒れてるソラさんをまたぎ、上の階に在る台所に向かうと適当な器に水を入れて飲み干す。
うん。酒を大量に飲んだ後だからかは分からないが水が美味い。
「あ、アキラお姉様~おはようございまず~」
「うん?ああ、おはようソラさん……って、大丈夫?」
「うぷっ……流石にちょっと気分が悪いでず」
ソラさんの声を聞いて俺はそちらの方を向くが、そこに居たソラさんは着ている物もヨレヨレなら本人も二日酔いでヨレヨレな感じになっていた。
何と言うか今すぐにでも戻しそうな感じである。
「まあ、あれだけ呑んでればねぇ……はい、水」
「ありがとうございまず……ゴクゴクッ……プハァー」
と言うわけで、この場で万が一にでも戻されて大惨事になっても嫌なので俺はソラさんに水を渡して飲んでもらう。
これで一先ずは大丈夫だろう。
何故かソラさんの頬が微妙に赤くなっているが。
「あ、二人ともおはようございます」
「トキさんおはよう」
「おはようトキ姉ちゃん」
続けてトキさんが起きてきたので俺もソラさんも挨拶をする。
挨拶をされたトキさんの表情は……ソラさんの方を見た時は呆れで、俺の方を見た時は微妙に非難するような感じだった。何故だ?
とりあえず今の服装と状態のままで女子寮の食堂に行くのは拙いと言う事で各自風呂場で一度水を被った上で服を着替え、その間にあんな目をされる心当たりが有るかを思い出そうとするが……結局、酒を呑み過ぎて記憶が朧気な状態で何かをしたかもしれないぐらいしか思いつくのが無かった。
うーん、謝るにしろ、それ以外の行動を取るにしろ、とりあえずトキさんから事情を聞いておくか。
トキさんはお酒を呑んでいなかったはずだから覚えているだろうし。
「トキさんトキさん」
「何ですか?」
「昨日の歓迎会の時何か有ったの?何か怒っているみたいだけ……ど?」
「…………」
と言うわけで女子寮の食堂に向かう道すがらトキさんに昨日の新人女子歓迎会で何が有ったのかを聞いてみようとしたのだが……そしたら凄い目で睨まれた。
……。マジで俺は何をした!?
「アキラさん」
『ん?朝か?』
「な、何でしょうか……?」
と、イースが俺の頭の中で起床したのを感じつつ、トキさんのドスの利いた声に俺は思わず身構えてしまう。
なにこれ滅茶苦茶怖い。
「とりあえず言っておきます。今後アキラさんはお酒を呑まないか、呑むにしても絶対に酔わないと言い切れる程度の量にしておいてください」
「ひゃ、ひゃい!」
「まあ、アレを見たらそう言いたくなるよねー……」
「ソラもアキラさんには酒を勧めないように、必要以上に勧めたらそれ相応の対応をしますから」
「飛び火した!?」
「…………」
「は、はい!絶対に勧めま……うぷっ」
「よろしい」
トキさんの警告……と言うか命令に俺もソラさんも思わず姿勢を正して、遵守することを受け入れさせられる。
こ、ここまでトキさんに言わせるとは……いったい俺は何をしたと言うんだ……と言うか何が有ればここまで酒を呑むなと言われるんだ……。
と、やがて俺たちの前に女子寮の食堂が見えてきたのだが……。
「『本日朝は諸事情により閉鎖します。朝食は各自で摂るように。治安維持機構糧秣班総班長
「…………」
『後始末が間に合わなかったか』
「えーと……」
女子寮の食堂は閉まっており、扉には張り紙が貼られていた。
背中にトキさんの刺す様な視線を感じると共に、イースの言葉から察するに食堂の閉鎖も新人女子歓迎会が原因だと考えるべきだろう。
……。まさかこれも俺が原因だなんてことは無いですよねー……お願いです!無いと言ってください!お願いだから!!
「と、とりあえず朝ごはんどうしようか?」
「そ、そうですねー?」
「……。二人の内のどっちかが作ればいいんじゃないですか?」
ただ、何時までもこうして扉の前で立っていても朝食は得られないと言う事で二人に話題を振るが、トキさんからは私疲れていますし怪我人ですと言うアピールと共に明らかに怒った状態なのに笑顔と言う顔を向けられる。
こ、これは冗談抜きに拙いかもしれない……どうにかして機嫌を直す事を考えなければ……。
「え、えーと、寮の冷蔵庫には何が残ってたっけー」
「色々と有ったと思いますよージャガイモとかトマトとか。ああ、後香辛料も有りましたねー」
『まあ、それだけあれば十分だな』
「よ、よーし頑張って作りますかー」
「お手伝いしまーす」
「楽しみにしてますね」
そして未だに笑顔のトキさんを背後に置いたまま俺とソラさんは特務班寮に戻り、イースの指示の元でお腹に対して優しめなグレイシアン風スープを作って、それと作り置きしておいた幾つかの食品を朝食とするのだった。
とりあえずスープを飲んだ後のトキさんは本当の笑顔に戻っていたので機嫌は直してくれたと思う。
と言うか、直してください。お願いします。もうお酒は呑まないと誓いますから……。
いやまあ、あれだけの惨事の後ですしね
とりあえず意外に女子力の高いアキラちゃんです
08/24誤字訂正