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第51話「荒野の迷宮-7」

「それにしてもデカいですねー」

「不確定名首無し巨人と言ったところでしょうか」

「アレです!私はアレに見つかって、アレが呼んだモンスターに追われたんです!」

「なるほど。やはりアレがここの『迷宮』の主か」

『それでいいだろうな』

 土煙の向こうから現れたのは簡単に言ってしまえば首から上の無い人型のモンスターだった。

 ただし、その大きさは高さにして数十mは間違いなくあり、人型は人型でも巨人と称すべき大きさだった。


「ソラさん。核である赤い結晶の数と位置は?」

「右肩甲骨、首、左胸の三ヶ所に赤い結晶が刺さってますね。それと体表はまるで岩の様になっているみたいです」

「となるとアキラさんのスリングで狙い撃つか、どうにかしてアレを転ばせるしか無さそうですね」

「その、転ばせるのは難しいと思います。殆ど地面と足が一体化していたと思いますし」

「それが事実ならアキラさん頼みですね……」

「事実ならな」

 ソラさんと伊達さんの言葉に俺はスリングの調子を確かめておく。

 うーん、高さにして数十m先の核に十分な威力の攻撃を当てる。流石にやれるかどうかは微妙な所かもな。

 そうでなくとも足元まで接近しないと攻撃が射程圏内に入らないのは確実か。


「ん?」

「あの距離から何を……」

『ムウゥゥ……』

 と、ここで突然巨人が少しだけ屈み、右手を地面に付けると僅かではあるが右手が動いた気がする。

 ……。真っ当な(・・・・)サイズのモンスターと人間の戦いならこの距離はお互いに姿は見えても戦闘になる距離じゃあない。

 そう、真っ当なサイズなら。


「全員、俺の近くに集まれ!」

『アアアァァァ!』

 巨人が何をする気なのか俺が気づいて叫んだ瞬間、巨人の右腕が大きく振られてその手から無数の巨人にとっては小石であり、俺たちにとっては当たれば確実に致命傷になるサイズの岩が放たれて飛んでくる。

 その量と大きさと速さからして『凍雲』に今から戻っても逃げる事は叶わないだろう。

 となればだ……


「凍って……砕けろ!」

「キャッ!?」

 俺は右目の力で飛来する岩を片っ端から氷に変え、両手の爪を伸ばすと飛来した巨大な氷たちに爪で触れて粉砕する。

 砕かれて出来た氷の粒が俺たちに叩きつけられ、この場の影響も有って周囲の気温が一気に下がった上に地面と氷の凄まじい衝突音も重なって伊達さんが悲鳴を上げるが、岩が直撃して挽肉になるよりかはマシだと思ってもらうしかないな。


「すみません。助かりました」

「別にいい。それよりも『凍雲』にトキさんとソラさんの二人は乗って、伊達さんは悪いけど走ってくれる?あのモンスターの群れから逃げられるだけの脚なら俺たちにも追いつけるはずだから」

「その、『凍雲』と言うのが何かは分かりませんけど、に、逃げるんですよね!?」

「いや、こうなった以上はもう倒した方が良い。だからまずは攻撃を当てるためにも接近する」

「ひっ!?」

「別に逃げても良いよ。その場合命の保証はしないけど……さ!」

「う、ううっ……うーーー!」

 巨人の攻撃が止んだところで俺、トキさん、ソラさんの三人は『凍雲』に乗り込み、初動から全速力で巨人に向かって走り出し、伊達さんも悩み顔で数度唸った後に俺たちの追走を始める。


『ムウウウゥゥゥアアアァァァ!』

「このまま突っ込むぞ!」

「「了解!」」

「もう何なのこの人たちー!?」

 再び巨人から石つぶてと言う名の岩の雨が降り注ぐ。

 が、先程と違って今は高速で動いているために大半の岩は俺たちが走る場所のはるか後方に落ち、そうでない岩はハンドルを左右に切る事で対応する。

 伊達さんが何か叫んでいるが……まあ、生きているなら問題ないな。


「地面との融合面見えました!」

「なるほど、こりゃあ普通にやったら転ばせるのは無理そうだ」

 岩の雨を避けて巨人に接近し続ける俺たちの視界にやがて巨人の足も、その足が地面と一体化しているのも見えてくる。

 そしてある程度接近した所で『凍雲』を操った状態でスリングによる攻撃をするのは無理だと判断して『凍雲』を乗り捨て、三人揃って荒野に脚を踏み下ろす。


「まったく……とりあえずハンドルだけでも改良は必要だな」

「生きて帰れたら茉波さんに依頼しておきましょう」

「一応こっちに目を向けているみたいです」

「はぁはぁ……」

『ムウウゥゥアァァ……』

 しばらく経って伊達さんも俺たちの居る場所に到達し、四人揃って巨人の体を見上げる。

 さて、問題は此処からだな。

 あまりにも大きさが違い過ぎてモンスターの目になっている黒子が何処にあるかも分からないし、普通の視界だと巨人が何をする気なのかの判断も難しそうだ。

 ただ何となくだが、今巨人がこっちを見ていると言うのは分かる。


「全員、巨人の攻撃に対しては防御よりも回避を主体にして、どうしても避け切れない時はトキさんよろしく」

「分かってます」

 俺は巨人を前にして全員に指示を出し始める。

 流石にこの大きさの相手に無策で挑んでも傷一つ負わせられないだろうしな。


「ソラさんは攻撃よりも巨人が何をする気なのかを教えて。この大きさ相手にここまで接近すると何をする気なのかも分からない」

「はい。頑張ります」

「伊達さんは……頑張って逃げて」

「えっ!?それだけなんですか!?」

「アキラさんは?」

「言わずともだ。さて、そろそろアチラさんも動き出すようだし全員気合を入れ直しておけよ……」

『ムウウゥゥアアァァ!!』

 そして全員の役割をはっきりさせたところで再び巨人は周囲一帯を揺らすような大きさの咆哮を上げ、俺たちはそれぞれに自分の得物を構えて動き出した。

デカいよ!とにかくデカいよ!

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