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第48話「荒野の迷宮-4」

 ソラさんの言った門は確認できた。

 が、今の俺たちには門を開いてその先に飛び込むだけの時間的余裕は無かった。

 何故ならば……


『ウオオォォムウゥゥ!』

「うえっ、ちょっ!?予想以上に速えぇ!?」

「アキラお姉様頑張って!お願いだから頑張って!!」

 俺たちを追いかけてくるミミズが想像以上に速いからだよ!

 なんで俺とイースが全力で『凍雲』を走らせてるのに追いすがれんだよこんちくしょう!

 アレか!?象と鼠が競争をしたら一見鼠が勝つように見えるが、実際には象が圧勝すると言うアレか!?サイズ差の暴力とかふざけんな!


『ウォウォッムゥ!』

「なんか吐いてきたぁ!?トキ姉ちゃん!」

「アメノマ様!」

 と、俺は荒野と言う環境で問題なく『凍雲』を走らせるために前を向いているから分からないのだが、ミミズが何か液体のような物を吐き出したらしく前方の地面で数か所煙のような物が立ち昇っているのが見える。

 トキさんとソラさんの声からして『凍雲』にもかかるところだったのだろうが、どうやらトキさんが防いでくれたらしい。


「アキラお姉様!右目は使えないんですか!?」

「無理だ!『凍雲』に力の大半を回しているし、そもそもあのサイズだと表面の一部しか凍らない!」

 だがこのまま逃げ続けていてもいつ追いつかれるか分からない。

 けれど、あのサイズのモンスター相手にイースの力は効果が薄いし、直接的な攻撃でどうにかするのも難しいだろう。

 仮にあのミミズを倒すのならば、最低でも囮役と攻撃役で二つのグループは絶対に必要だ。

 だから最良はどうにかしてミミズの動きを止めるか引き離した後に門を抜けて逃げてしまう事になる。

 と言うかあのサイズでも核が一つってことは普通のモンスターなんだよな……何かが間違ってる。


「何か手は……はっ!アキラさん祓い塩は!?」

「それなら……」

『サイドカーの方の鞄に入っている!』

「分かりました!」

 と、ここでトキさんが俺ではなくイースが祓い塩をしまっている具体的な場所を言ったところで祓い塩を探し始め、見つけ出す。

 その事実に多少思う事が無いでもないが、今はそれどころではない。

 一か八かになるが、こうなればやるしかない。


「トキさんそれを渡して!」

「はい!」

「(イース!祓い塩の使い方!)」

『我の言葉に合わせて神力を込めながら詠唱しろ!その後に投げて奴の口の中に入れるのは他の誰かに任せても構わん!』

「(了解!)」

 俺はソラさん経由でトキさんから祓い塩の入った包みを手渡されると、片方の手に持ってもう片方の手で『凍雲』に神力を注ぎ込むのと一緒に力を流し始める。


「(何時でもいいぞ!)」

『分かった!』

「『いらんなっちおならき おんいそしす あへろっく』」

 神力が注がれ始めた事に反応してなのか包み紙が震え始める。


『ウオオォォムウゥゥ!!』

「アキラお姉様左へ!」

「っつ!?『えあまてもいく えあまちあらは えあまてさくてち』」

 ソラさんの叫びに俺は本能的に『凍雲』のハンドルを左に切り、その直後にミミズが先程まで俺たちがいた場所に向かって奇声を上げながら強酸性と思しき液体に塗れた口の触手を槍のように勢いよく伸ばす。

 ソラさんの叫びに従っていなければと思うとぞっとする光景だった。


『これで最後だ!』

「(分かった!)」

「『えあまてこじりす えだらきちせみふ いにつおのす おをのむらなみそこぃ』トキさん!」

「はい!」

 詠唱が完了した瞬間、祓い塩がその包み紙ごと輝きだし、俺はそれをトキさんに渡すと同時に『凍雲』の運転に再び専念し始める。

 本来ならば渡した後どうするのかまで教えるべきなのだろう。

 だが俺には確信が有った。普通の人間(・・・・・)には聞こえないはずのイースの声がトキさんには聞こえていると言う確信が。


「喰らい……なさい!!」

「食べさせるの!?」

『ウ……ウオオオオォォォォムウウウゥゥゥ!!?』

『よしっ!』

 そしてイースが言った通りにトキさんはミミズに祓い塩を食わせ、祓い塩を食べたミミズは奇声を上げると同時にその動きを止める。


「へぇ……」

 俺は『凍雲』を門に向かわせながら一瞬だけ振り返ってミミズの様子を確認する。

 するとミミズは身体の各部に氷のような物を生やしつつ全身を痙攣させてその場で震えていた。

 が、完全に動きを止めたり、仕留めたりは出来ていないために少しずつこちらに接近してきている。

 うん。長時間の拘束は出来ないようだし早い所逃げ切ってしまおう。


「やっと門ですねー」

「結局生き残りは見つけられずですか」

「(イースこの門は……?)」

 やがて俺たちはソラさんが見つけた門に到着する。

 門の前にある足跡は一種類。普通に考えればあの脱出した隊員のものなのだろうが……何となく俺はこの門から嫌なものを感じていた。

 何と言うかそう……今俺たちが居るこの『迷宮』の空気を煮詰めて濃く、とにかく濃くしたかのような雰囲気が扉から漂っていた。

 その雰囲気に俺は発生してから時間の経過した『迷宮』は複数の階層を持つと言う話を思い出す。恐らくはそう言う事なのだろう。


『ほぼアキラが感じている通りだ。恐らくだがこの門は元の世界では無く、深層に繋がっている。恐らくだが我たちが今居る此処よりも危険度は上だろうな』

「……だが行くしかないと」

『ああ、あのミミズ相手にいつまでも逃げ続けるのは流石に無理があるからな』

 そんな俺の考えをイースは肯定すると同時に、他の選択肢が無い事もイースは告げる。

 まあ、まず間違いなく死ぬ後退と、虎穴かもしれないが上手くいけば『迷宮』を破壊した上で生き残れる前進と考えて前に進むしかないだろう。

 前進した先に潜んでいるのが虎程度では済まない気もするがな。


「二人とも何が来ても良いように覚悟は決めておけよ」

「ソラ。残念だけど地上にはまだ戻れないわ」

「うえぇ……てことはアタシが見つけたのは潜る方の門だったんですね。アキラお姉様が行くならどこまででもですけど」

『あのミミズも拘束を振り切ったようだし、早い所行くとしよう』

「(だな)」

 そして俺たちは目の前の門をくぐって『迷宮』の深部に向かった。

生か死かの世界だから触手塗れは来ませんでした。

と言うわけでまた下の方に答え合わせを置いておきます。








「これは始祖神の力の一端なり」

「凍てつかせたまえ。祓いたまえ。清めたまえ」

「邪なるものをその内に秘めし力で退けたまえ」


08/15誤字訂正

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