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第46話「荒野の迷宮-2」

「トキさん。持ち込んだ水の量はどれくらい?」

「万が一を考えてそれ相応の量を持ち込みましたので、私たち全員が丸一日行動出来る程度には有ります。ただ、要救助者に分ける事やこの日差しの中で出口が何時までも見つからない可能性を考えると少々拙いかもしれません」

 俺は『凍雲』を走らせて荒野にしか見えない『迷宮』の中を進みつつ、トキさんに質問を投げかける。

 が、その返答は芳しくない。

 だがそれもしょうがないだろう。

 この日差しは想像以上にキツイ。こうしてただ『凍雲』を走らせているだけなのに、俺は喉の渇きと共に自分の体力が削られていっているのを感じている。

 この分だと丸一日分の水があると言うが、半日持つかも怪しいな。

 モンスターと戦う事も考えたら適度な休憩は必須だし。


「分かった。とりあえず次に部屋を見つけたら、一度休憩だな」

「そうですね。それが良いと思います。この『迷宮』では『凍雲』の機動力は必須です」

 俺は二人の体調を、トキさんは俺の体調を心配してのようだがとりあえず意見は一致する。

 と言うか、誰だって黒い石の柱と梁で囲まれている一般的な『迷宮』で言う所の部屋に当たる部分の外に出た直後からこんなに日差しがキツくなるとは思わないよな。

 そう考えると脱出してきた隊員がこの情報を持っていなかったあたりから察するに、あの隊員は本当に出口の目の前に落ちたのだろう。

 でなければこの日差しについては絶対に話していたはずだ。


「アキラお姉様。一時の方向に枯れ木に擬態したモンスター……推定ラムパイクを確認しました」

「分かった」

 と、ここでソラさんが進行方向にモンスターが居る事を俺に伝え、俺がそのモンスターラムパイクの姿を目視すると同時にソラさんがサイドカーの横にハンマーを突き出して位置を固定する。

 確かラムパイクは枝振りによる攻撃が得意で、核は根元にあるんだったかな。

 となるとだ。


「カレ……」

「凍って……」

「砕けろ!!」

「キイイィィ!?」

 俺は右目の力を開放してラムパイクの枯れ木の様な表面と一見洞のようにも見える目を氷に変え、それによって俺たちへすれ違いざまに攻撃を仕掛けようと目論んでいたと思われるラムパイクの動きは大きく鈍らせる。

 そして形勢の不利を悟ってラムパイクは逃げ出そうとするが、その前に十分に加速した『凍雲』が到達、『凍雲』の速さがそのまま乗せられたソラさんのハンマーによって枯れ木の様な体を半ばから粉々に粉砕する。


「急ブレーキ掛けるぞ!」

「ソラ!油断しないで!」

「分かってるよトキ姉ちゃん!」

「カ……カ……」

 ラムパイクの体を粉砕した直後に俺は『凍雲』を急停止させ、止まりかけた『凍雲』からそのままの勢いでソラさんが飛び降り、残ったラムパイクの核にハンマーを振り下ろしてラムパイクを完全に倒す。

 すると完全に倒した証拠としてラムパイクの肉体が土くれに変化する。

 ふう、これで一安心だな。


「ラムパイクの土くれ回収してきたよーアキラお姉様、トキ姉ちゃん」

「お疲れ様。じゃ、再出発しますか」

「水です。少しずつですよ」

「ありがとー」

 ラムパイクの素材を回収してきたソラさんが再び『凍雲』に乗り込んだところで、俺は再び『凍雲』を先程向かっていた方向に向けて走らせる。

 こんな状況でよく素材を回収している暇が有るなと言われそうだが、『凍雲』の積載量には余裕が有るので問題ない。

 倒せるモンスターはその後の事や、要救助者の安全性を高める意味でも倒しておいた方がいいしな。


「ゴクッ……ん、アキラお姉様、部屋を確認しました。」

「どっちだ?」

「11時方向です。直に見えてくるかと」

「分かった」

 俺はトキさんの指示に従って進路を変更し、遠くにソルジャーや空飛ぶ羽根つき目玉……フライと言ったモンスターや、教本にも載っていない四足獣系のモンスターの姿を見かけつつも『凍雲』を走らせる。


「見えてきましたね」

「手前で止めるぞ」

 すると黒い柱の様な物が見え始め、俺は黒い柱と柱の間を越えたせいで何かしらの罠が発動するのを警戒してその手前で『凍雲』を止める。

 部屋……と言っていいかは分からないが一応部屋と呼称すべきその中には俺の目で見る限りでは『箱』が一つ置かれていた。


「罠は有りそうか?」

「えーと……大丈夫そうです」

「ではいつも通り私から行きますね」

「よろしくトキさん」

「気を付けてねトキ姉ちゃん」

 訓練で学んだように、罠の有無を一応確認した所でトキさんが盾を構えたまま部屋の中に入る。

 で、『箱』の中身を確認・回収したところで安全だと判断して手振りで俺たちを部屋の中に招き入れる。


「やっぱりか」

「うわっ、一気に涼しくなった」

 黒い石の柱の間を抜けた俺たちが一番最初に感じたのはそれだった。

 やはりと言うべきか、容赦なく俺たちの体力を奪うあの猛烈な日差しは部屋の外だけらしい。


「とりあえず一時休憩。清め塩も渡しておくからそれぞれ装備の点検と水分の補給をしておこう」

「分かりました」

「はーい」

 清め塩を投げ渡しつつ言った俺の言葉に従って二人が少しずつ水を飲むと共にそれぞれの装備品の点検をする。

 さて、今の内に俺も『凍雲』の点検をしておかないとな。万が一部屋の外で『凍雲』がイカれたら生死に直結する可能性もある。


「(じゃ、指示頼む。イース)」

『分かった』

 と言うわけで俺は『凍雲』の脇にしゃがみ込むと、時々清め塩入りの水を飲みながら『凍雲』の状態を確認していく。

 で、水を飲んでいてふと思った事が有ったのでちょっとイースに質問してみる。


「(ところでイース?イースの力で氷に変えた物を溶かすと水になるけど、その水って飲めるのか?)」

『次はそっちだな。ん?ああ要するに我の力で出来た氷が食べられるのかと言う話だな。元が食べ物の氷なら問題は無い。が、モンスターや鉄や石と言った物を元にした氷は止めておいた方がいいだろうな。危険かどうかは分からんが、少なくとも安全は保証できん』

「(こっちか。となるとイースの氷をそのまま何かに使うのなら冷やす以外の用途には用いない方がいいか)」

『そう言う事になる。まあ、これだけ暑いのなら貴重な水を使わずに体温を下げられるだけでも有用だと思ってくれ。ああ、そこで終わりだ』

「(そんなの言われなくても分かってるよ)よし終わりっと」

 イースによるとやはり食用には適さないらしい。

 まあ、腹の中で石とかに戻った場合を考えたら危なすぎるし当然の帰結か。

 で、そうこうしている内に『凍雲』の確認が終わったので、俺は立ち上がって二人の状態を見ておく。


「問題なく終ったみたいですね。こちらも問題なしです」

「それとアチラの方向に次の部屋を確認しました」

「分かった。こっちも問題ないから二人とも乗ってくれ」

 トキさんもソラさんも、既にやるべき事はやったと言わんばかりに俺に声を掛けてくる。

 どうやら一番装備の確認に手間取っていたのは俺らしい。

 まあ、しょうがない。普通の装備に比べたら『凍雲』は複雑極まりないからな。うん。しょうがない。


「じゃ、走り出すぞ」

「「はい」」

 そして俺は二人に声を掛けてから、ソラさんが見つけた次の部屋に向かって『凍雲』を走らせ始めた。

イース氷は食用ではありません


08/15誤字訂正

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