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第45話「荒野の迷宮-1」

 初めて見たジャポテラス東門の外は見渡す限りの草原になっており、馬車が二台横並びで通れる程度のあぜ道が地平線の先まで伸びていた。

 また、草木の隙間やあぜ道からは鏡石と思しき石の先端が僅かに覗いているのが見える。

 どうやら本当に東門の外は鏡石の群隆地らしい。


「見えてきたな」

「ソラ。反応は?」

「うん。間違いないよ。『迷宮』化してる」

 と、しばらく走っている内に地面から何本も大きな鏡石が突き出しているのと、その近くに鏡石専門部隊の人間と思しき人たちの姿が見えてくる。

 どうやらあそこが件の『迷宮』であるらしい。


「アンタたちが鏡石専門の部隊か?」

「あ、ああそうだ。君たちは?」

「俺たちは治安維持機構特務班だ。二飄長官からの任務で、鏡石専門部隊が呑まれたと言う『迷宮』の早期攻略または『迷宮』に呑まれた部隊員の救助に来た。お前たちがその鏡石専門部隊でいいんだよな」

「本当か!それはありがたい!っと、そうだ。我々が鏡石専門部隊だ」

 『凍雲』を走らせて近づいた俺は鏡石専門部隊と思しき人に近づいて自分たちの所属を明らかにすると共に、彼らが目的の部隊であるかどうかの確認を取る。

 どうやら、彼らで間違いないらしい。

 さて、直ぐに突入しても良いが、幾つか確認しないと拙い事も有るな。


「まず飲み込まれた状況は?」

「我々は鏡石の表面に特殊な砂を掛ける事で処理を行っていたんだが、その処理の最中に四人ほど飲み込まれた。が、運よく出口の近くに落ちたのが一人居て、今はその一人から中の状況を聞いている」

「詳しく伺っても?」

「むしろ聞いて行ってくれ」

 それから、しばしの時間をかけて俺たちは『迷宮』の中の状況を彼らから聞いた。

 それによればだ。

 『迷宮』の中は見渡す限りの荒野となっており、天井も無ければ壁と呼べるような物も無かったため、その広さも有って『迷宮』と言うよりは異世界と言った感じだったらしい。

 尤も『迷宮』である以上はしっかりとモンスターも罠も有るそうだ。

 で、この脱出できた隊員は一人で離れた場所に落とされたため、他の隊員がどうなったかは分からないそうだ。


「なるほど。となると『凍雲』に乗ったまま入った方がいいかな?どう思うよ二人とも」

「中は相当広いようですし、アキラさんの疲労が問題ないようならそれも良いと思います」

「救助者が居ることも考えればアリだと思いますよ。無理をすればサイドカーに三人乗せることも可能でしょうし」

「分かった。なら『凍雲』に乗ったままで行こうか」

「分かりました」

「お願いしますね」

 中の情報と俺たちの任務内容から俺は『凍雲』を『迷宮』の中に持ち込もうと考え、トキさんとソラさんの二人もそれに賛成して『凍雲』に乗り込む。

 この状態のまま『迷宮』の中に入れば『凍雲』を持ち込めるだろう。


「それでは仲間の事をよろしくお願いします」

「ああ、無事に助かる様に祈っておいてくれ」

「じゃあ行くぞ!」

「はい!」

「頑張りましょう!」

 そして装備の確認を終えた所で俺たちは鏡石専門部隊に見送られつつ『凍雲』に乗って『迷宮』の中に突入した。



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「……っつ」

「ここは……」

「周囲に敵影無しです」

 『迷宮』の中に入った俺がまず感じたのは、上から降り注ぐ強い日差しと体中に叩きつけられる乾いた風だった。

 俺は周囲を見渡す。

 どうやら俺たちが今居る場所は四方に黒い石の柱と梁が建てられて周囲の空間から区切られた広場の様な場所らしい。


「本当に見渡す限りの荒野だな……」

「これは確かに『迷宮』とは言えない気もしますね……」

「でも、『迷宮』なのは確かなんだよね。外に比べたら遠視の範囲が明らかに狭くなっていますし」

 広間の外に目を向けると時折枯草や枯れ木、隆起した台地などが見えるが、基本的には何処までも同じような光景が広がっており、それは一般的には狭苦しいイメージのある『迷宮』とはかけ離れた光景だった。

 だがそれでも間違いなく此処は『迷宮』なのだ。

 現にソラさんの遠視能力は制限を受けているし、『迷宮』独特の空気のようなものも俺は感じている。

 恐らくだが少し探索すればモンスターにも遭遇し始めるだろう。


「ソラさん。遠視出来る範囲で何か特徴的なものはある?」

「ちょっと待ってくださいね……うーん。特には何も無いですね。門もモンスターも『箱』も無しです」

「ふーむ。となるとまずは警戒しつつ適当に進むしかないか……」

「そうですね。それしかないと思います」

「じゃあ、アタシは警戒を続けているんで、防御はトキ姉ちゃんよろしくね」

「分かってるわよ」

 俺は『凍雲』に少しずつ力を流し込み始めていつでも動けるようにし、ソラさんはサイドカーの上で周囲の警戒を強め始め、トキさんは何時攻撃が来ても良いように盾を構えておく。

 で、俺は一応『凍雲』の蓄冷装置の確認しておくが……十分に冷気は貯まっているし、いざという時には攻撃にも使えそうだな。うん。


「(じゃ、頼むぞイース)」

『ああ任せとけ』

 『凍雲』が走り始め、広間と外を区切っていた石の梁をの下をゆっくりと潜る。

 そして完全に潜り抜けた瞬間……


「っつ!?」

「これは!?」

「うわぁ……」

 俺たちの体に向かって降り注ぐ日差しが明らかに強くなった。

 これは急がないと拙いかもな……。

普通の『迷宮』だったら『凍雲』は置いていく流れでした

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