第44話「海月屋の裏」
アキラたち特務班が『凍雲』に乗って東門へ走っていく中、二人の女性が海月屋の中からその後ろ姿を眺めていた。
「モグモグ……ふーん。アレがそうなんだ」
女性の片方、チャイナ服に白衣と言う服装にオレンジ色の髪の女性……『神喰らい』エブリラは自分の手元にあるカルボナーラを食べながら向かいに座っている女性に話しかける。
「パクパク……そうそう。彼女がアキラちゃん。どう?見覚えとかそう言うのはある?」
もう一人の女性、長い黒髪に白のワンピースと言う服装の女性……『太陽神』アマテラスは自分のラザニアを食べながらエブリラの言葉に同意を示し、それと共に質問を投げかける。
「ゴクッ……魂の感じからしてミリタリーお母様の依頼で私が『迷宮』に引き摺り込んだ子の一人なのは間違いないかな。でも、信仰を切ったのは私でもなければミリタリーお母様でもないね」
「チュル……何か根拠は有るの?」
「モグモグ……後遺症を残さずに、本人の意思とは関係なく信仰を切るのは結構難しい作業だからねぇ。多少あのアキラちゃん自身の心の働きが有ったとしても私の技術だともうちょっと荒くなるかな。それにその後すぐにあの子はそれまでよりも遥かに深くて強い契約を結んじゃったんでしょ?施術した意味が無いじゃない」
「ズズッー……エブリラちゃんの荒いは普通の神の綺麗なんだけど……そうだよ。スサノオちゃんがイースちゃんに聞いた話だとアキラちゃんに偶然出会って契約したって言ってた」
「バクバク……なら余計におかしいかな。あのレベルの隠密能力じゃ例え五感を潰した上に気を抜いていても私やミリタリーお母様なら気づくし、タイミングが色々と良すぎる」
「ゴリゴリッ……と言う事はやっぱりそう言う事でいいのかな?」
「ゴックン……まあ、たぶんサニティお母様の仕業だと思うよ。具体的に何をやったのかの予想は付くけど、私の立場上それは言えないね」
「ゴクッ……いーよー、エブリラちゃんは色々と面倒な立場だってのは分かってるし」
二人は食事を進めながらも和気あいあいと、しかし周りには聞こえないように注意して話を進めていく。
「一応聞くけど、対『
「うん。サニティお母様からミリタリーお母様にはもう協力するなと厳命されているけど、だからと言って敵対できる立場でもないから」
「まあ、『塔』からは元々サーベイラオリちゃんが来てくれているし、これ以上を望むとまたパワーバランスとかが面倒な事になりそうだからねー」
「なるだろうねー……ゼウスさんとかああ見えて結構そう言うの気にするし」
「こちらご注文の品になります」
「おお、来たー」
「いやー、やっぱり誘致して正解だったね。うん」
「そう言っていただけると私、パッツァ=コンプレークスとしても嬉しいですね」
水色の髪の店主が次の料理を二人の座るテーブルに持ってくる。
さて、『ミラスト』では神は人間の世界に居る時、非実体化状態が普通であるにも関わらず何故この二人は普通にこの場に居れるのか。
その理由としてはこの海月屋が、実は多次元間貿易会社コンプレックスと言う多くの異世界に関わりを持つ特殊な企業の営業部が『ミラスト』に出店している店であり、人間の世界と神々の世界の中間と言うかなり特殊な環境に置かれている場所であるからに他ならない。
故に勿論ではあるが、店主も人間ではないし、表向きは飲食店であっても裏では様々なものがここでは取引されている。
「そうそう、どうせなら今度ペルセポネーちゃんも呼んでここでHASOラジの収録する?」
「それもいいかもねー。話も弾むだろうし」
「アマテラス様。この前注文を頂いた品については?」
「あっ、どうせだから今日持ち帰るよ。アレは個人的なものだし」
「了解いたしました。タカマガハラ名義の物はまた後でお届けしますね」
「うん。よろしく」
それは情報であったり、特定の神が力を発揮するのに欠かせない道具であったり、場合によっては……
「では、こちらが例の物になります」
「ありがとー」
「いえいえ、これも仕事ですから」
「アマテラスちゃん何それ?」
「画材道具一式にー……色々なジャンルの話題になっている本とかブルーレイとかだねー」
「ほう。今となると『魔法少女マジカル☆パンプキン』の新作とか?」
「むふふふふーそれ以外にも色々とねー」
超が付くほど個人的な趣味の代物であったりする……。
これで彼女たちが自身本来の仕事をないがしろにしているのであれば、周囲の神々も色々と言えることが有るのだろうが、誠に困ったことに彼女たちは二人とも自身の仕事はしっかりとしているので誰も文句は言えないのであった。
「あっ、アマテラス姉さんこんなところに居たんだ。さっきスサノオが半ギレ状態で探してたよ」
「…………」
と、ここで中性的な顔立ちをした黒髪の少年と鼻の上まで含む全身を拘束衣で包んだ長身の女性が唐突に現れ、少年が店主に何かを注文するとアマテラスに話しかけながら手近な席に二人とも座る。
「へ、へー……何で怒ってた?」
「『また俺をネタにした本を書きやがったなこのXXXXX!今日と言う今日はぶった切ってやる!!』とか何とか」
「うげっ!?」
「うわー、何書いたの?あっ、サーベイラオリやっほ」
「…………」
「や、ちょっとねー……ふふっ、ふふふふふ~♪」
「うん。把握した。逃げれるなら頑張って逃げてね」
「そこは助けてくれても……あっ」
「うん?げっ……」
「見つけたぞ……」
尤も、その趣味によって迷惑を被っている誰かは文句を言っても良いし、むしろ文句を言うべきなのだが。
なお、ここで言う迷惑を被っている誰かとは要するにネタにされている張本人(主にスサノオ)の事である。
「今日と言う今日は往生しやがれ!」
「ひいぃ!?」
「ちょっ、私も!?」
「お待たせしました。ツクヨミ様、サーベイラオリ様」
「どうもー」
「…………」
そしてスサノオによってボロボロにされた二人の駄女神は、ツクヨミとサーベイラオリが見守る中で某童謡が流れそうな空気を纏ってタカマガハラに連れ戻されるのであった。
「…………」
「心配しなくてもアマテラス姉さんも僕もスサノオもその時が来たらやる気を出すよ。今はまだ動く時じゃない」
「…………」
「この世界の人間はあの世界の人間と違って僕らを忘れたりはしない。だから守る価値がある。故に心配はいらないよ」
「…………」
「それにまあ彼女の行動も悪い事ばかりじゃなかったしね。物は考えようさ」
「…………」
「心配性だなぁ君は。ま、何にしたって今はまだ相手の戦力を計り、こちらの戦力を高める段階だ。いずれ来るその時の為にも……ね」
一方のツクヨミとサーベイラオリと言えば、一見すれば片方が一方的に話しているような光景だが、どうやら当人たちの間ではしっかりと意思疎通が行われているらしい。
尤も、ツクヨミによってこの場に関しては言いくるめられたようだが。
ジャポテラスに未だ戦火の匂いは無い。
と言うわけでサーベイラオリ及びツクヨミ様登場です。
そして一つ言っておこう。
サーベイラオリ≠アステロイドだ!
そしてもう一つ言っておこう。
残念太陽さんは本当にやってしまった!