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第42話「特務班活動-2」

「速いですねぇ……」

「本当に馬車並ですねー」

「これでもまだ全力じゃないけどな」

 『凍雲(いてぐも)』と車体の横に書かれたバイクに乗った俺たち三人はジャポテラス西街の街中を、すれ違った人々の視線を集めながら馬車と同じ程度の速さで走っていた。

 まあ、人々の視線を集めるのはしょうがないか。

 馬車並みの速さで走るのに曳く動物も居なければ、その形も既存の馬車とも戦車とも大きく違うわけだし、これで注目を集めない訳がない。

 ちなみに『凍雲』と言うの名はこのバイクの名前らしい。茉波さんがわざわざ言わなかったと言う事はそんなに重要な事じゃないんだろうが。


「それでソラさん?今のところ反応は?」

「今の所は無しですね。探索に集中出来る上に、この片眼鏡とサーベイラオリ様の力でほぼ一区域が同時に探れるようになっていますけど」

「了解。今がアメノヤマ東の……ヤマト川の岸なわけだから、これから時計回りに西街を回ってそれからヤマト川の上橋を通って東街の見回りだな」

 ソラさんの話を聞いた俺はそう判断して川岸の土手の上を『凍雲』を走らせる。

 それにしてもソラさんって集中できる場さえあればかなり探索能力が高いんだな。

 サーベイラオリってのがどういう神なのかは知らないが、並の神と契約の深度ではここまでの探索能力は発揮できないだろう。


「それにしてもアキラさん」

「ん?」

「この前走らせた時は、走り終わった後だいぶ疲れていましたが大丈夫なんですか?」

 と、ヤマト川の下橋と同時に西街の工業区も見えてきたところでソラさんの後ろの席に座っていたトキさんが俺に対して大丈夫なのかと声を掛けてくる。


「ああそれか。この一週間の間に塩分けの儀を始めとして色々な方法で神力を扱う技術を学んだからなぁ……それに今はまだ全然全力じゃないし。何の問題も無いよ」

「そうですか、ならいいです。ただ疲れたらきちんと休んでくださいね」

 が、俺の答えに満足したのかトキさんは周囲の警戒に戻る。

 ただまあ、疲れたならトキさんの言うとおり素直に休むべきだろうな。疲労困憊なのに『迷宮』に入ってしまったら間違いなく命を落とす事になる。


『技術を学んだ……か。とりあえずこの一週間でアキラに歌の才能が無いのはよく分かったがな』

「(うっさいわ!)」

『どうして舞は特殊な歩法を絡めても普通に踊れるくせに、歌は徹底的にまで音程を外すのだろうな。あそこまで酷いと最早一種の才能だぞ』

「(ぐぬぬぬ……)」

 で、工業区の建物の間を歩行者に気を付けつつ走る中、突然俺の頭の中でイースが俺の修行について言いたい放題言ってくれる。

 いやまあ実際歌は昔から苦手だったけどさ……だからと言ってあんな高音域の音を普通に出せるはずがないだろうが。今の俺の声は女としてはどちらかと言えば低めの方なんだからな。出せる音にも限界があるんだよ。


「と、道が開けたから少し速度を上げるぞ。二人とも気を付けてくれ」

「分かりました」

「了解しました」

 俺は『凍雲』に注ぎ込む力の量を増やして加速し、馬車を全力で走らせるのと同じかそれ以上の速さで街中を走り抜けていく。

 うん。やっぱり注ぎ込む力の量を増やしても問題ないな。

 イースには言いたい放題言われたが、イースの修行で神力を扱う能力がだいぶ上がったのはやはり間違いない。

 現に『凍雲』は速度を上げれば上げるほどそれ以上の速さで消耗する力の量も増していくのだけれども、このぐらいの速さならまだ消費と回復が釣り合うようだ。


「そう言えばアキラさんってバイクに乗る時は髪を纏めているんですね」

「折角のアキラお姉様の美しい髪の毛が隠れてしまって残念です……」

「と言われてもねぇ……車輪に髪の毛が巻き込まれると危なそうだったし」

「それは分かってますけど……」

 やがて俺たちを乗せた『凍雲』は西街を時計回りに回り切り、ヤマト川にかかる二本の橋の内で上流の方にある上橋にゆっくりと入って行く。

 ヤマト川に架かる二本の橋は、時には馬曳きの戦車や大量の人間が渡る関係で橋の上で馬車がすれ違える程に幅が広く、『凍雲』の様にかなりの重量が有るものでも問題なく渡れるように木造とは思えない程の強度で作られている。

 作られてから百年以上経つそうだが、昔の人はよくこれだけの物を作ったなと俺は思う。


「と、東街が見えてきたな」

「アレがそうですか。やはり街と言うよりは砦ですね」

「なんか堅っ苦しいですねぇ……あ、今のところは反応無しです」

 やがて上橋が終わり、神療院の壁と同じような素材で作られたと思しき見るからに強固そうな建物群が俺たちの目の前にまで迫ってくる。


『アキラよ。どうして此処までこちらは堅苦しいのだ?明らかに西街とやらとは雰囲気が違いすぎる』

 俺は走らせる上で一番楽な速度にした『凍雲』で今すぐモンスターか何かが攻撃を仕掛けて来ても対応できるようなっていそうな街中を走りつつ、イースの質問にどう答えた物かと考える。

 その結論として思い浮かんだのは……まあ、素直に話す事だった。


「(かなり昔の話になるけどな。昔は本当に東街は砦だったらしい)」

『と言うと?』

「(俺も詳しくは知らない。ただ、ジャポテラスの東には昔スサノオ様たちジャポテラスの神たちと敵対する神が治めていた都市が有ったらしくて、その都市とジャポテラスの間で戦いが有ったんだとさ)」

『ふうむ……』

「そう言えばジャポテラスに攻め込んできていたその都市は結局何で滅びたんでしたっけ?」

「さあ?教本には突然滅んだとしか書いてないから分かんないよトキ姉ちゃん。てか突然どうしたの?」

「え?アキラさんと誰かの声が……いえ、何でもないです」

「うん?でも考えてみれば妙な話ではあるよなぁ……何でかその都市の名前も俺たちには伝わって来てないし、本当に何が有ったんだか」

 俺たちは東街の街中を喋りながら『凍雲』で走り抜けていく。

 うん。ここ数日雨も降ってないから水たまりも無いし、野ざらしになっている鏡とかも俺たちの目に入る範囲では無さそうだから、『迷宮』については大丈夫そうだな。

 時刻は……昼を少し過ぎたぐらいか。

 お腹も減って来たしそろそろ頃合いかな。


「二人とも、そろそろ一度何処かに停まって昼食にしよう」

「分かりました」

「了解です。なら、あそこの馬車止めなどが良さそうですね」

「だな」

 そして俺は『凍雲』に込める力を緩めつつ道の脇に『凍雲』を寄せるとその場に停めた。

 さて、折角東街にまで来たんだし普段とは少し違うものを食べたい所ではあるな。

アキラちゃんは音痴です。


完璧な美人なんてものは居ないと言うのはアキラちゃん自身にも当てはまるのです。

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