第41話「特務班活動-1」
『では、現時刻を以てスサノオ様と治安維持機構長官
『『『了解しました!』』』
治安維持機構長官である二飄ヒルヒ長官の言葉と共に俺、田鹿トキさん、田鹿ソラさんの三人は正式に治安維持機構の特務班として活動することになり、俺たちは主任務の一つである見回りに出るために特務班の寮の前に装備を整えて集まっていた。
「おう、待たせて悪かったな」
「本当に遅いですよ。まったく」
そこに一週間前乗った物から大幅な改造が加えられたバイクを押す茉波さんが現れる。
「悪い悪い。ただまあ、しっかり御姫様たちの要望は叶えたから安心しな」
「具体的な説明を頼んでもいいか?」
「おう、問題ないぞ」
俺たちの前に置かれたバイクは以前と違って白と水色の二色を基本とした彩色が施されており、同時に見慣れない箱のような物や、その箱から前後に伸びた筒状の物体が追加されている。
が、見た目で一番大きく変わったのはバイク本体の右に付けられたソレだろう。
「まずはそっちの要望通りに、三人一緒に行動できるよう二人乗りのサイドカーを追加した。これでそっちの二人も乗れる」
ソレはバイク本体の真ん中あたりに幾つかの器具によって設置されており、座椅子の様な物が二つ縦並びでセットされていた。
「ありがとうございます」
「楽しみですねーアキラお姉様」
「ありがとな。しかし、よくもまあ、この短期間で……」
俺たち三人は感謝の言葉を茉波さんに言いつつ同時に一週間と言うわずかな期間でこれだけの物を作り上げた事に対して驚きを露わにする。
「いやまあ、喜ンでもらえるのはありがたいンだが、良い事ばかりじゃないぞ。重量が増えた関係で加減速や制御が難しくなっているはずだからな。それに相変わらず御姫様以外に動かせる奴が居ないもンで実質これが試運転だ。と言うわけで異常な音や振動が有ったら直ぐに使うのを止めろ」
「分かった。気を付けさせてもらう」
が、やはり乗れる人数が増えると言うのは良い事ばかりでは無いらしく、茉波さんは自身の不満を隠そうともせず問題点を俺たちに告げる。
ただまあ、問題点が分かっているなら対応は出来るだろうし問題は無いだろう。
「で、こっちの箱は何なんだ?」
サイドカーについての説明が終わったと見た俺は、以前は無かった箱のような物を指差す。
箱からは前後に筒状の物体が伸びている他、動力炉とも何か線のような物で繋がっている。
「そいつは蓄冷装置だ」
「蓄冷装置?」
「ああ……」
そして、茉波さんがこの蓄冷装置とやらの説明をするために口を開いたところで俺は自身の失敗を悟る。
いやだって、茉波さんの技術ってのは……
「この前の試運転の時に車体の一部が凍っちまってたろ。アレは動力炉に送られた神力の一部が動力に変換されず、その神力に含まれる属性に最も近しい物理現象に転換された結果として起きた物の様でな、本音を言えば動力炉の変換効率を上げることによって加減速の性能を上げると同時に問題を解消したかった所なンだが、現状の俺の手持ちの素材じゃそれが無理でな。代わりと言ってはなンだが、御姫様の場合は変換しきれなかった神力が冷気に変換されるのを利用してこの箱の中に冷気を集め、こっちの筒から前に放出するならブレーキの補助、後ろに放出するならアクセルの補助と必要に応じて前後に噴射出来る様に改造してみたンだ。勿論、一度に放出する量を調節すれば対モンスター用の武器としても使える。と言ってもこの方法にしても余分な神力を全て利用できるわけじゃないから俺としては不満が残るンだがな」
「「…………」」
「ふうん……」
『ふーむ……』
説明されても良く分からない物だし。
と言うわけでイースに簡単に纏めてもらおう。
「(えーと、要するに?)」
『この箱の中に冷気が貯まる。
箱の中の冷気は前後に噴射出来る。
冷気を噴射すれば色々出来る。と言う事だな』
「(流石イース。あのマニュアルを読破、理解しただけの事は有るな)」
『いや、専門用語を殆ど使っていないからな。今の説明』
「(分からないものは分からないのだからしょうがない)」
『ったく……』
と言う事らしい。
流石イースだな。今の説明を三言でまとめて見せた。
「と、とりあえず使うのには問題ないんだよね。だったら早速見回りに行きましょうかアキラお姉様」
「ああ、ちょっと待ってくれ。まだ渡して無い物が有るンだ」
「へ?」
「「?」」
と、ここで俺と同じように理解できなかったらしいソラさんがサイドカーに近づこうとするが、その前に茉波さんから俺たち三人に袋のような物が投げ渡される。
「これは?」
「バイク用のヘルメットに開発班の他の部屋が試作品として開発した装備の一部だ。特務班の職務に合いそうな物を選ンで持って来た」
「なるほど」
「ふうん」
「『どれどれ……』」
興味を持ったらしいイースが俺の頭の上にへばりついた状態で俺は袋を開けてみる。
中に入っているのは……内側に綿が詰められたヘルメットに紐付きの十字架?
『これは……あの蛙の土くれが使われているな』
「(へ?そうなのか?)」
『ああ、間違いない。とりあえず取り出してみろ』
俺はバイクと同じ色合いのヘルメットと一緒に十字架を取り出す。
と同時にトキさんは何かが入っているらしき小箱を、ソラさんは
どうやら三人とも違う物を渡されたらしい。
「御姫様にはアンカーの素材を使った簪だそうで、神力を込めれば巨大化してスリングの弾として使えるそうだ。普段は首飾りか髪留めとして使えばいいンだとよ」
「なるほど」
「そっちの双子には新型の軟膏に、『迷宮』の気配を視覚的に感知する片眼鏡だそうだ。それぞれの契約している神様の力に合わせて作ったらしい。ああそうそう、軟膏は可燃性が高いから注意しろだと。後、片眼鏡の方はこの前御姫様が仕留めた『迷宮』の主の素材を使っているそうだ」
「ありがとうございます」
「へー……アキラお姉様が仕留めた……」
ふーむ。三つとも試作品らしいが、うまく使えば任務遂行の上で役に立ちそうな物ばかりだな。
「と言うわけでこれで渡す物は全部だ。任務頑張れよ」
「ああ、折角もらった物だからな。有効活用させてもらう」
「ふふ、ふふふふふ……アイタ!?」
「行くよ。ソラ」
そして俺たち三人はヘルメットを身に付けるとそれぞれバイクに乗り込み、全員が乗り込んだところで俺はバイクにイースの力を流し込んでジャポテラスの街中に向けて走り始めた。
さて、治安維持機構特務班活動開始だ。
なお、アキラちゃんはゴーグルなどを付けていませんが、無駄に高い身体能力のせいで元々要らなかったりします。
くそう……ゴーグルなどの装備品まで含めての様式美だと言うに……
08/08誤字訂正
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