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第37話「特務班始動-6」

 その後俺たちは討伐班、医療班、書類班、糧秣班など治安維持機構内に存在している部署を巡っていて、次は諜報班を訪れることになった。


「ここがそうですか」

「他の班に比べて小さくありませんか?」

「聞いた話だと此処は情報を求めてきた相手のためにある窓口みたいな場所らしいぞ」

『要するに本当の諜報班本部は別の場所にあると』

 で、その諜報班なのだが他の班の本部が有る部屋に比べると明らかに狭い事が部屋の中に入る前から分かるぐらい狭い。

 恐らくだが他の班の半分も無いだろう。

 まあ、情報を渡すだけの場だと考えれば納得も行くが。


「とりあえず入りましょうか」

「ですねー」

「だな。失礼します」

 俺たちはノックをしてから扉を開けて中に入る。


「おっ、よく来たな」

「あれ?ユヅルさん?それに……」

 部屋の中は大量の書棚が所狭しと置かれており、後はソファーが二組とそのソファーに挟まれる形で机が置かれている他は執務机と呼ばれる机が有るだけだった。

 やはり此処は情報を渡すだけの場らしい。

 で、現在室内に居るのは俺たちを除けば執務机で何かをしている男性一人に、俺は知らなかったが座っているソファーの位置からして実は諜報班だったであろう大多知ユヅルさんとユヅルさんに対面する形で向かいのソファーに座っている白くて長い髭を蓄えた温和な雰囲気の老人……まさか!?


「な、何で見回り班総班長の空傘(からがさ)さんが此処に!?」

「ちょっと聞きたい事があってのー」

「まあ、気にせずアキラ君も座るといい」

「は、はぁ……」

 俺はユヅルさんにそう言われて空傘さんの隣に座る。

 見回り班総班長空傘ヤカラス。

 見回り班の総班長と言う事は当然白氷アキラの上司(と言ってもかなり上だが)に当たる人物なので俺はこの人の事を良く知っている。

 今でこそ総班長達の中で最も優しく温和な人物とされているが、若い頃は討伐班の最前線で修羅の如く暴れまわっていた人物であり、その働きは味方を鼓舞すると同時に畏れさせたともされる人物である。

 ぶっちゃけ全盛期には人間よりも神様に近いんじゃないかと噂されたことが有る事からもその実力のほどは窺えると思う。

 ちなみに現在でも並の討伐班一グループ三人よりも間違いなく強いと言われているし、実際強いと思う。


「ああそうそう。田鹿トキ君、田鹿ソラ君。君たちは話が終わるまで外で待っている様に。此処は色々と機密事項が多いから立ち行っていい人間は制限させてもらっているんだ」

「二人とも食堂で待っててくれ」

「了解しました」

「失礼しますねー」

 ユヅルさんと俺の言葉を受けて二人は部屋の外に出ていく。

 で、俺は視線だけでユヅルさんに俺は居て良いのかを問いかけるが、それに対してユヅルさんは頷く事で居ても良いと告げる。

 そして二人が出ていってしばらく経った後に何故か空傘さんがユヅルさんの座っているソファーに移ってから話が始まる。


「さて、見た目どころか性別まで変わってしまったようじゃが久しぶりじゃな。白氷君」

「!?」

「心配しなくてもここに居る人間は全員君の正体も君の肩に乗っている神様の事も知っているよ。だから何の問題も無い」

「ならいいですが……」

 俺は空傘さんの言葉に驚きの目をユヅルさんに向けるが、どうやらここに居る人間は全員俺が本来は白氷アキラと言う男であることや、イースと契約している事も知っているらしい。

 考えてみれば空傘さんに連絡と説明をしないで今の俺の状況を作るのは面倒が多すぎるよな。うん。

 と言うかユヅルさん実体化してないイースの事が見えているんですね。


「まあアレじゃ。今日は挨拶回りに来たのじゃろうが、儂ら見回り班はむしろ助けてもらう側じゃからな。討伐班では無理だと思ったらすぐに連絡をするからその時はよろしく頼むぞい」

「は、はあ……」

「諜報班に関しても私が窓口に立つから大抵の情報は手に入ると思っていい。欲しい情報が有ったら言ってくれ」

「あー、よろしくお願いします」

 何だろうか……トントン拍子に見回り班と諜報班両方への挨拶が終わったような感じがして、そのせいなのか何か嫌な予感がしてしょうがない。


「でまあ、ここからが本題なんだけど。諜報班ではアキラ君、君が所属する特務班に関して市井の方で色々と工作をさせてもらっている」

「工作……?」

『随分と不穏な響きだな』

「正確に言えば見回り班も協力した宣伝じゃがの」

「『?』」

 工作と言う不穏な気配が漂う言葉に一瞬俺は身構えるが、その後すぐに空傘さんが言った言葉で余計に訳が分からなくなる。


「特務班は女性三人だけの班だ。それ故に不埒な真似をしようとする愚か者が出る前に防衛策として先手を打っておいたのさ」

「具体的にはお前さんたちのアイドル化じゃな。こうしておけばそう言う事をしたくても周囲の目が有って出来なくなるじゃろうし、白氷君に向けられている感情を信仰として己の力に変えることも可能じゃろう」

「イース、そんな事出来るのか?」

『んー、やってみなければ分からないが、やれないことは無いと思う。ただ正しい信仰を貰ったからには何かしらの形で恩を返すのが信仰を受けた者の義務だとは言っておくぞ』

「なるほど」

「ふむ。問題なく出来るようじゃな」

「そのようですね」

 どうやら諜報班は見回り班と協力して以前から俺たちの為に動いていてくれたらしい。

 まあ、特務班が出来る前と出来た後では微妙に流す噂は違うのだろうけど。

 それにしてもアイドルかぁ……アイドルねぇ……なんかすごく嫌な予感がする。


「一応言っておきますけど、俺は歌とか踊りとか出来ませんし、フリッフリの服とかは拒否しますよ」

「ははは、心配しなくてもそこまでは求めていないさ。出来たら私たちの工作が楽になったのは否定しないけれども」

「チッ(勿体無いのう……)」

 俺の言葉に対してユヅルさんは笑顔で返してくれるが、空傘さんは心底残念そうな顔で何かを呟く。

 残念そうにしている所悪いが断じて具体的なアイドル業に手は出したりしないからな。信仰が得られるにしてもそう言う形で得るのはゴメンだ。


「では、今日はこれぐらいにしておきますか」

「そうじゃの」

「お二人とも今後ともよろしくお願いします」

 そして話に区切りがついたところで俺は二人と握手を交わして部屋の外に出た。

 で、トキさんとソラさんの二人を迎えに行くために食堂へ行く道中でイースが思い出したかのように俺に向かって呟く。


『そう言えばアキラよ。舞踏も歌唱も修行のメニューとして普通に組み込めるぞ。ついでに言うと効率も結構良い方の修行だ』

「!?」

『と言うわけで修行が始まったら安心して励むといい』

「……」

 どうやら地味に逃げ道を塞がれたらしい。

 まったく安心できないな……うん。


 その後、トキさんとソラさんの二人と合流した俺は三人で残りの治安班等を回って、挨拶回りは何とか今日中に終わらせることが出来た。

 さて、明日からは今後に備えて力を高めておかないとな。

アキラちゃんアイドル計画進行中


08/04誤字訂正

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