<< 前へ次へ >>  更新
36/245

第36話「特務班始動-5」

「うーし来たな。じゃ、まずはコイツを見てくれ」

 そう言って茉波さんは俺の胸ぐらいまでの高さが有る布を掴むと、その下にある物を見せるために布を勢いよく剥ぎ取る。


「これは……なんだ?」

 布の下から出てきたそれは二つの車輪に手で持って身体を支えるハンドル、腰かける場所と思しき座椅子がついており、全体的に金属で出来ているようだった。

 うーん、俺の記憶で当てはまるものだと一部の貴族たちが最近使い始めたって言う自転車に近いか?

 ただそれでも自転車に付いているべきペダルとか言う部分が無いし、何と言うか色んなパーツが付いて全体的にゴツゴツしている。


「コイツはアマテラス様曰くバイクと言うものに近いらしくてな。此処の動力炉に大量の神力を流し込むことによって車輪が回って走る。性能的には……設計上では馬と同等かそれ以上の速度を出せるな」

「「「馬!?」」」

『ほーう……』

 俺たち三人は茉波さんの言葉に驚きを露わにする。

 いやうん。馬と同等かそれ以上のスピードで走れるとかとんでもないにも程が有るだろう。

 だがしかしだ。ちょっと待ってほしい。


「いや待て!それだけのものなら何で実用化されてない!と言うかそもそもさっきの爆発事故はその動力炉関係じゃなかったか!?」

「あー、その話な……」

 俺の指摘に茉波さんが目を逸らして言葉を濁す。

 言っておくが安全性が確保されていないものを試せと言われたら絶対に断るからな。絶対にだ。


「実を言うと出力に問題が有ってな。現状だと信心が薄い俺では殆ど動かせないし、巫女や神主の様に一つの神社を取り仕切るような一族でも自転車よりちょっと速いぐらいでなぁ……それで動力源には別に燃料を用意して神力を直接使うのは燃料に着火する場面だけに絞った新型の動力炉を作ってたんだが、どうにも燃料の配合比を間違ったみたいでな。その結果があの爆発だったンだ」

「……」

「と言うわけでコイツに関しては爆発する心配はない!アマテラス様とウカノミタマ様からも大丈夫だと言うお言葉を頂いているしな!さあ!是非とも試してくれ!アキラ君!神の分体が憑いている君なら絶対に動かせる!!」

「まあ……アマテラス様にウカノミタマ様が大丈夫と仰るなら大丈夫だと思いますけど?アキラさん」

「その御二柱が仰ったなら安心ですね。アキラお姉様」

『よし乗るぞ!乗るのだアキラ!』

「……」

 茉波さんはそう言うと付けろと言わんばかりに何処からか綿がたっぷり詰められた帽子や籠手のような物などを持って来て俺に渡し、トキさんとソラさんの二人も二柱の有名な神の名前が挙げられたためなのか反対する意思は示さなくなっている。

 おまけにイースは鼻息を荒くして見るからにやる気満々である。

 実際、その二柱が言うのなら爆発したりする心配はないのだろう。

 でもなぁ……アマテラスの名はなぁ……実際に会った身としては……口には出さないけども……ね。何がとは言わないけど……ね!


「アキラお姉様?」

「アキラさん?」

「はぁ……しょうがない」

『よし!』

「うしっ!」

 まあ、流れ的に乗るしかないか。

 と言うわけで俺は茉波さんから渡された装備品を身に付けた上で念のために髪をまとめ上げておき、その後に茉波さんの指示に従ってバイクとやらに跨り、動かし方を一通り説明される。

 で、一通りの説明が終わったところで茉波さんは舗装された道路の方を指差し、


「この道路をそのまま走っていくとジャポテラス北西部にある開発班の本部に出ちまうから、途中適当なところでUターンして戻って来てくれ。じゃ、最初は少しずつ神力を流し込むようにしてくれ」

 と言って、俺から離れる。

 俺に向けられるのは期待と不安が入り混じった視線。


「(イース。それじゃあ行くぞ)」

『ふふん。いつでもいいぞ!』

 イースが姿を完全に眩ませ、俺はハンドルと言う部分から右目に力を集めるのに似た要領で少しずつイースの力を流し込んでいく。


「お……」

 すると動力炉が小刻みに震えだし、それに合わせてゆっくりとだが車輪が回り始め、やがて車体全体が前進を始める。


「おおー」

 ハンドルを切れば当然の様にそちらに曲がり、力を流し込む量を増やせば速度が上がり、減らせば逆に速度は落ちる。

 動力炉が出す音が慣れるまでは多少煩わしいかもしれないが、慣れればこれはこれでいいな。


「じゃあ、ちょっと行ってくる」

「おう。行きすぎて外に出るなよ」

「気を付けてくださいねー」

「お気をつけて」

 そしてある程度慣れた所で俺はバイクの速度を多少上げて何処までも続いているように思える地下通路に向かって工房部分から飛び出す。


「(じゃ、行くぞイース)」

『やれ!早くやるのだアキラ!』

「(へいへいっと)」

 意外とイースって子供っぽいよなーと思いつつも俺は大量の力を動力炉に流し込み、それに合わせてバイクも一気に加速、瞬く間にトキさんたちが待つ工房が見えなくなる。


「って!?ちょっと待て!?これ本当に馬より速いんじゃないのか!?俺は馬の背中に乗った事なんてねえけど!!」

『フハハハハ!いいぞいいぞー!アキラよもっと加速するのだ!!』

「バ!?馬鹿イース!!制御が利かなくなるからこれ以上流し込むんじゃねえよ!!てか現状でもかなり怖いんだよ!?いい加減にしやがれ!!」

 速度が上がると共にバイクが左右どちらかに傾く事は無くなった。

 が、俺の体に叩きつける風は身を切るように寒くなり、視界も狭まって行くように感じる。

 もしこの状態で何かにぶつかったら……そんな考えがよぎった瞬間俺は堪らず送り込む力の量をイースの意に反して絞り上げ、バイクのスピードを一気に落とし始める。


「ぜぇぜぇ……死ぬかと思った」

『むう。アキラのビビりめ。並の馬より速く動ける機会なぞ早々無いのだぞ』

 やがて力の供給が完全に止めたところでバイクも止まり、俺は片足を地面につくとハンドルにもたれかかる。

 頭の上でイースが俺の事をなじっているようだが、無理なものは無理だからしょうがない。

 命は一つしかないんです。再生できるものと出来ないものが有るんです。そこはきちんと理解してくださいイースさん。


「てか、さっきは高揚感で気づかなかったけど結構疲労も溜まるぞこれ……」

『のようだな。まあ、力を流し込む事も含めて慣れの問題だと思うぞ』

 俺はバイクを反転させると行きに比べてゆっくりとした速度でトキさんたちの元に向かってバイクを走らせる。

 で、そうしている間に気づいたのだが意外とバイクは燃費が悪いらしい。

 これでは確かに動かせる人間が限られるのはしょうがないだろう。

 それにイースの力の余波なのか他に理由が有るのかは知らないが、バイクの所々に氷もへばりついているし、まだまだ欠点も有りそうである。

 ただ、この速さは特務班の任務的に役立つよなぁ……でもバイク自体は一人乗り……となるとだ……ちょっと帰ったら提案してみるか。


「お疲れさン」

「本当に疲れたよ。だけど良い速さだった」

「そいつは上々。先に上に戻っておいてくれ」

「分かった」

 と、考え事をしている内に元の場所に辿り着き、動力炉を落としたところで俺は茉波さんにバイクと各種装備品を渡すとその言葉に従って梯子を上って元の部屋に戻った。



-----------



「で、感想以外にも改善点とか要望とかあるか?俺としてはあそこで埃を被っているよりかはアレを動かせるお前ら特務班に使ってもらいたいンだが……」

「そうだな……」

 やがて戻ってきた茉波さんに俺はバイクに乗った感想や、帰ってくる時に考えついた事や此処はこうした方がいいんじゃないかと言う点についてを話す。

 俺の話を聞き終わった茉波さんは至極楽し気にこう言った。


「最高だ御姫様。一週間後の特務班活動開始までには絶対に仕上げてやるから楽しみに待っていろ」

「お、おう」

『ふふふふふ、これは楽しみだなぁアキラよ』

「アキラお姉様……」

「今後もよろしくお願いしますね」

 正直に言ってその笑みは頼んだ身でこう言うのも失礼かもしれないが、ちょっと怖かった。

 そして俺たちは最後に鵜飼開発班総班長に礼を言うと開発班から次の部署に向かう事にした。

女性とバイクの組み合わせって良いと思うんだ……

<< 前へ次へ >>目次  更新