第35話「特務班始動-4」
「アキラお姉様は自分の容姿について無自覚過ぎます」
「と言われてもなぁ……」
俺に対して非難の言葉を向けているソラさんが先導する形で俺たちは開発班へのあいさつ回りをしていた。
どうして怒られているのかについては……正直分からない。
俺は単に開発班の人たちに対して今後ともよろしくお願いしますと言っているだけ何だがな。
何故か大抵の人はそう言った後顔を逸らしたり、どもったり、場合によっては何か怯えたような表情を見せるけど。
いやまあ、一応この身体が美人だって言う自覚はあるけどさ。それにしたって声を掛けただけで茫然自失になるほどの物とは思わないんだがなぁ……。
「収穫は有ったからいいじゃない」
「まあ、そうですけどねー」
「あー、アッチ方面のは確かに開発班の協力を得られてよかったとは思う」
ただまあ、こうして開発班巡りをした収穫はきちんと得ている。
具体的には武器防具の他……うん。はい。生理関係の用品についてです。開発班の女性陣が討伐班の女性たちの為に独自に開発しているそうです。
ただ一つ気になる事が。
「(そう言えばイース?この身体未だにその手の物が来ていないんだが大丈夫なのか?)」
この身体になって一月過ぎるが、未だにその手の物に俺は遭遇していない。
半端な知識ではあるが、普通の女性なら一月に一度は来ると聞いたことが有るんだが……。
で、その辺りの事をイースに訊いたところこんな返答が。
『アキラの身体は我との契約で変わったものだからな。もしかしたら発情期のようなものでもあるのかもしれん』
との事だった。
嫌な予感しかしないな。うん。その時が来たらしばらく人目に付かない所に引き籠るのも有りかもしれない。
「と、ここで最後ですね」
「ここは……ああ、例の茉波さんですね」
「ああ本当だ」
『ほう。それは楽しみだ』
そうこうしている内に開発班へのあいさつ回りは佳境に至り、俺たちの前には先ほどの爆発事故を起こした茉波さんの部屋の扉が現れた。
此処まで殆ど何もしていなかったイースが何故か楽しみにしているようなので、俺は一度ノックをしてから早々に扉を開けて中に入る。
「おう。良く来たな。とりあえず適当にかけてくれ」
「失礼します」
「お邪魔しまーす」
「よろしくお願いします」
『ほーうほうほう。どれもこれも中々……』
茉波さんの求めに応える形で俺たちは雑多に書類や本、作成途中の何かが所狭しと置かれている部屋に入り、それぞれ適当な椅子に腰かける。
「まずは自己紹介だな。治安維持機構開発班第29室室長の
「治安維持機構特務班班長のアキラ・ホワイトアイスだ。よろしく頼む」
「同班の一般班員田鹿トキです」
「同じく田鹿ソラです」
茉波さんの独特なイントネーションの言葉遣いによる自己紹介を受け、俺たちもそれに合わせる形でそれぞれに自己紹介をする。
「それでここ……第29室では何を?」
「何でもだな」
「何でも?」
トキさんの何を専門として作っているのかと言う質問に対して茉波さんは気取った様子も無くそう答える。
それにしても何でも……か。言葉通りに捉えるのなら武器、防具、薬、道具、衣服、建物その他諸々と言う事になるが……本当にそうなら凄まじいな。
「と言う割には他の部屋からは恥さらしとか呼ばれてみたいだけど?」
「それについてはアレだな。俺が造っている物のレベルが高すぎて理解されなかったりとか、構想や設計には何の問題も無いが、本当に作ろうとすると技術や素材、出力が及ばずに作れなかったりするせいだな」
「それは……」
正直に言って駄目だと思う。
理解されないのはともかく技術や素材が足りないってのは机上の空論にしか過ぎないって事だと思うんだが。
そして俺がそう思って口を開こうとした瞬間、
「『実に面白いな。先程我に見せた神力を動力に出来る装置とやらの実物も見てみたい』」
「おっ、特務班の御姫様は俺の開発した物を理解しているみたい……いや、御姫様じゃないのか?」
「「!?」」
イースに口の動きを乗っ取られて別の言葉を発することになった。
ぐぐぐ、どういうつもりだ。イースめ。
ついでに言えば茉波さんは俺の口以外の動きから今の言葉が俺の物ではない事に気づいたらしい。
「『ああ、自己紹介が遅れたな。我はアイスバジリスクと言ってこの者に力を与えているものだ。直接話せないため今はこの者の口を借りている』」
「へぇ、流石は神様の分体を憑けているだけはあるな。これならアレを見せてもいいかもな」
「『ほう。何かあるのか。これは楽し……』いい加減にしろ」
で、ずっと口を使われているのも癪に障るので、俺は気合を入れてイースから口の主導権を取り返す。
アレが何かは気になるが、イースが何かを言いたいのなら俺の意思を通す形で喋れっての。
「アキラお姉様さりげなくですけど無理やり主導権を取り返すなんて言う荒業をしましたね」
「流石ですね」
俺の後ろでソラさんとトキさんの二人が何かを言っているのが聞こえるが、気にしないでおく。
荒業かどうかなんて知った事かっての。
で、俺たちがそうしている間に茉波さんは何か床面をゴソゴソと弄っている。
「まあなんだっていいさ。興味があるなら付いてくるといい」
『ほう。隠し階段か。アキラよ。追うのだ!』
「へいへい」
「あっ、待ってくださいアキラお姉様」
「私も行きます」
そして床に付けられていた隠し扉が開けられると、茉波さんはそこに掛けられていた梯子を降りていく。
まあ、今更退くのもアレとやら気になってしょうがないし、素直に付いて行くとしよう。
と言うわけで俺を先頭として三人で梯子を降りていった。
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どれほど降っただろうか?
体に感じている感覚が確かなら10m程降ったところで梯子は終わり、俺たち三人はそれぞれ床に足を付ける。
「これは……」
「よくもまあ……」
「合法なんですか?これ」
そこは貴族の家にあるような馬車などを置いておくスペースに近い物だった。
室内には何処かに通じていると思しき舗装された道と、様々な素材や作りかけの何かが置かれており、とても地下とは思えない様な広さと整った設備だった。
ただまあ……治安維持機構開発班の建物の地下にこんな物が有ると言う話は聞いたことが無いし、有っていいものでは無いと思う。
多分だけどこれって茉波さんが勝手に作った秘密基地に属するような違法な何かの気がするし。
まあ、俺も元男だからこういうのにはワクワクするけどな!
「おっ、降りてきたか。とりあえず三人ともこっちに来てくれ」
そして俺たちは茉波さんの声がする方向に向かって歩き始めた。
さて、アレってのは一体なんなんだろうな?
茉波ヤツメ-「茉」は「バツ」とも読むそうで、ヤツメは漢字で書くなら八芽ですね。
……たぶん、気づく人は気づくでしょうねぇ。
08/02誤字訂正