第33話「特務班始動-2」
よ、予約投稿をミスってましたごめんなさい……orz
その後、無事に引っ越しが完了し、それ以外の諸々も特に問題なく終わったところで俺は自室に戻って扉に鍵をかけると寝巻に着替えてからベッドに倒れ込んだ。
フリル付き天蓋のベッドにもおおよそ一月近く経って流石に慣れましたとも、ええ。
「ただまあ相変わらず胸は重いし邪魔と。気兼ねなく開放できるここが本当に癒しだな」
『言いたい放題だな。まあ、邪魔なのには納得するが』
なお、俺の寝巻は作務衣と呼ばれる物である。下着はきつくて寝るには邪魔なので下しか付けていないが。
『まあ、胸の話はさておいてだ。神療院の方で言っていた我とアキラの契約の深度を深める方法について話しておこうか』
「あー、このままの体勢で聞いてるからよろしく」
『まあ、別に構わんが寝るなよ』
「流石に寝ないっての」
俺はベッドの上に寝転がったままイースの方を向き、そのままの体勢で伸ばせる程度に手足の筋肉を伸縮させる。
『さて、実際の手段として我が提示できる方法としては三種類あるな』
「三種類ねぇ」
明かりが消され、暗い室内で仄かにイースの鱗と俺の髪の毛が光を放つ中で話が始まる。
『一つ目はアキラの肉体を今よりも更に我の体に近い物に作り替える事だな』
「最初っから論外な方法が来たな。今でさえ契約前の俺の風貌が一切残ってないのに、これ以上作り変えたら以前言ってた六本腕の蜥蜴人間の女版確定じゃねえか」
『その通りだ。だから我自身この方法は論外だと思っている。流石に外見までアキラが人間を辞めるのは拙いと言う次元では済まない』
一つ目の方法として肉体改造が挙げられるが、俺もイースも一切の躊躇なくその方法は切り捨てる。
流石に人間を完全に辞めたらイースとの契約が完遂しても戻ってこれなくなるだろうしな。
強くなるにしてもそれは流石に勘弁してもらいたい。
『と言うわけで実際にやるとしたらこの次からだな』
イースは枕に身体を埋めつつ話を続ける。
『二つ目はアキラの精神を我……いや、グレイシアンの民に近い物にする事だな』
「?」
イースは何故か近づける対象を自身からグレイシアンの民だと言い直す。
『方法としては簡単に言えば食事や行動の一部にグレイシアンの物を取り入れたり、グレイシアン流の儀式を行ったりだな。そうすることで我を信仰していたグレイシアンの人間と同じように我とアキラの繋がりが強くなるはずだ。具体的な内容についてはいずれまた教えておこう』
「お前自身の考え方に近づけるんじゃダメなのか?」
で、俺は何故かその点について気になったので、イースとしては無かったことにして流したかっただろうがその点について尋ねておく。
何でかは知らないがきちんと尋ねておかないといけない気が直感的にしたんだよ。うん。
『我自身の考え方に近づけるのはな……当初はそれでも良いと思ったのだが、今の我はアキラの中に本体まで居る状態だ。その状態で考え方まで近づけすぎると場合によっては我とアキラの魂と精神が混ざり合って一つになってしまう可能性もある』
「それは……」
確かに恐ろしい事かもしれない。
自分が自分で無くなる恐怖と言うのは筆舌に尽くしがたい物であるし、だからこそ本能的に俺はそれを忌避し、避けるために聞こうと思ったのかもしれない。
『おまけに我とアキラでは地力に差が有り過ぎるからな。十中八九、我が主体となってアキラは残り香として感じられる程度になるだろう。ついでに言えば我が主体にならなかった場合だと恐らくその後に現れるのは我でもなければアキラでもない別の誰かと評すべき存在だろうな』
「なにそれ怖い」
が、事実は俺が想像する以上に酷かった。
どうやら俺とイースの精神が融合した場合、俺は確実に消え去ることになるらしい。
うん。グレイシアンの風習を取り入れるのは良いが、イースと近くなるのは無しだ。仮に得られる力が大きくてもそれに対するリスクが見合ってない。
『と言うわけで実質的に主体になるのは三つ目の方法だが、具体的には肉体的精神的修行によってアキラ自身の能力を底上げするか、我の能力を行使するのに適した道具を作ってもらってそれを使う事だな』
「修行ねぇ……まあ、修行については後で教えてくれ。グレイシアンの風習でもあるだろうし。道具については……明日以降の挨拶回りをする時にでも開発班に頼めばいいかもな」
『道具については我もそれでいいと思う。修行については後で教えるから暇を見て日々やるしかないな。まあ、いずれにしても他の二つの方法に比べれば安全な方法だからそこは安心していい』
「了解ー」
どうにもイースの挙げた三つ目の方法は簡単に言えば急激な能力上昇こそ見込めないが、安全かつ確実に成長出来る方法らしい。
他二つの方法が危険すぎるせいでそう感じるだけかもしれないが。
「ま、いずれにしても明日から少しずつって事か」
『そう言う事だ』
「じゃ、お休み」
『では我も寝るか』
そして俺もイースも明日以降に備えるために目を閉じて眠る事とした。
■■■■■
『ーーーーー』
「ん?ああ……」
アタシが新しいベッドを満喫しつつ寝ていたら、アタシの耳に奇妙な声のような音が聞こえてきた。
この感覚は……うん。前にも有った。あの方が来た時の感覚だ。
アタシは起き上がると声の主が居るであろう方向に顔を向ける。
「何の御用でしょうか?サーベイラオリ様」
そしてアタシは頭を下げながら声の主の名を虚空に向かって告げる。
すると虚空からサーベイラオリ様の声が頭の中に直接響いてくる。
『アキラーーーーー出来たーーーーーねーーーーー助けるーーーーー使命ーーーーー』
「心得ています。尤も今ではサーベイラオリ様のお言葉が無くともアキラお姉様をお助けするつもりですが」
『ーーーーー』
アタシの言葉に満足したのかサーベイラオリ様の気配は何処かへ去っていく。
サーベイラオリ様の言葉は音としては理解できないが、何故か頭の中でははっきりと意味が繋がって聞こえてくる。きっとサーベイラオリ様の御神力なのだろうけど不思議な話ではある。
いずれにしてもアキラお姉様をお助けする事はかつてアタシとトキ姉ちゃんを救ってくれたサーベイラオリ様に報いる事であるし、今ではそんなの関係なしにアキラお姉様を助けたいとも思っているけど。
「さーて、明日も早いしもう寝よっと」
そしてアタシはアキラお姉様の写真を印刷した抱き枕を抱いて眠り始めた。
■■■■■
『ーーーーー!』
気が付けば私の目の前で山のような大きさのモンスター相手に傷ついたアキラさんが仁王立ちをして何かを叫んでいた。
ああ、これは夢だ。
だって、私はあれほど巨大なモンスターを見た事も無いし、彼女があれほど傷ついた姿も見た事が無いから。
『ーーーーー!』
『ーーーーー!』
やがて巨大なモンスターが暴れ出し、そのモンスターの攻撃から私たちを守るためにアキラさんはその身で攻撃を受けてボロボロになって行き、やがて息も絶え絶えになって行く。
これは夢だ。けれどただの夢とも思えなかった。
だって、あまりにも現実味が有り過ぎたから。
『ーーーーー…………』
『ーーーーー!!』
そしてアキラさんが倒れ、巨大なモンスターがその身に相応しいだけの咆哮を上げる。
ああそうか。これは夢は夢でもいつか現実になる夢なんだ。
だったら私はもっと強くならなければいけない。
彼女を守る事こそが私の使命だから。私は彼女の行く末をその目に留めたいから。
『ーーーーー』
それから目覚める間際になって私は誰かの声を聴いた気がする。
そうか、もしかしたらそもそも私はこれを見ているのでは無かったのかもしれない。
私はそうして目を覚ました。
修行法が出ましたよー
とりあえずイースとアキラが近くなりすぎると混ざってしまって戻れなくなるので注意が必要です。