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第27話「木琴の迷宮-4」

「そこを右です。アキラお姉様。トキ姉ちゃん」

「分かった」

「うん」

 俺たちはソラさんの誘導の元『迷宮』を進んでいく。

 いつの間にか戦闘の音は止んでおり、モンスターの姿も見かけなくなっている。

 どっちが勝ったのかまでは分からないが、どうやら戦闘そのものは終わっているらしい。

 そして俺たちは警戒をした状態で曲がり角を曲がる。


「と……広間か」

 曲がり角を曲がった先は複数の通路の出口が有る円筒状の空間になっており、他の通路や小部屋に比べれば明らかに戦い易そうな場所になっていた。

 そんな広間だが、あちらこちらにモンスターを倒した後の残骸と思しき土くれが転がっており、通路の一本にはトキさんが持っているような巨大盾を用いた簡易のバリケードが作られていた。


「ん?お前たちは……田鹿姉妹のグループか!おおい!こっちだ!」

 と、ここでバリケードの向こうから俺たちに向かって聞き覚えが多少ある声が掛けられ、手も振られる。

 どうやらここで戦闘をしていたグループに所属する候補生の一人らしい。


「田鹿姉妹と言うよりはアキラお姉様のグループなんですけどねー」

「いいから行く」

「無事そうで何よりだ」

「そっちこそな。とりあえず奥に入ってくれ。いつまたモンスターが来るかも分からないからな」

「分かった」

 俺たちはバリケードの方に近づいていき、バリケードに張り込んでいた候補生の誘導でバリケードを乗り越えて通路に入る。

 そこで気づいたのだが、どうやらこの通路は少し進んだところで小部屋が一つあるだけの行き止まりのようで、通路と小部屋には複数のグループが集まっているのか何人も候補生が居た。


「よく来てくれた。とりあえずこっちで事情を説明するよ」

「……」

「あの、アキラさん……」

 小部屋に着くと腰に実践を重視したと思われる無骨な剣を差したキザっぽい男性の候補生が居り、俺たちを自分の方に招く。その言葉からしてどうやら何が有ったのかを俺たちに教えてくれるらしい。

 ただしかしだ。小部屋の中には戦闘で傷ついたのか他の候補生に回復してもらっている候補生や、壊れた装備品の修繕を行っている候補生も居る。中には索敵をしている候補生も居るだろう。

 その中で三人揃って事情を聞いているのは時間が勿体無いな。

 トキさんも動く気のようだし、こうした方がいいだろう


「事情は俺が聞いておくから二人は他の候補生と協力して索敵と治療をよろしく」

「分かりましたー」

「よろしくお願いします」

 と言うわけで二人にはそれぞれ自分のやれることをやってもらい、戦うしか能が無い俺だけが事情を聴くことにしておく。


「話を聞くのはアキラさんか」

「ああ、よろしく頼む。確か不揺君だったか」

「君みたいな美人に覚えてもらっていてありがたいね」

「世辞は要らない。と、そちらの彼は?」

 俺は男性……確か同じ第一部隊の候補生で、名前は不揺(ふゆれ)サクと言う名前の彼と握手を交わし、その後隅の方で縮こまって震えている小柄な男性の候補生に目を向ける。

 顔には見覚えが有るんだが……駄目だ。名前が思い出せない。


「まあ、簡単に言えば私たちが集まるきっかけになった鳴子床を踏んだのが彼なんだが……」

「ううううう……」

 そこまで言ったところで不揺君はその先について言い淀む。

 これはしっかりと事情を聴かないと拙いかもしれないな。


「とりあえず私が彼……三理マコトと言うんだが、彼から聞いたままを話しておくよ。俄かには信じがたいがね」

「ああ、よろしく頼む」

 俺は震えている彼の方に目を向けつつ、不揺君の話を聞く。

 その話によればだ。

 彼……三理マコトは角取キオ、赤唐ジローの二人と一緒のグループだったらしい。

 で、彼らは教本通りにモンスターを倒し、『迷宮』を探索していたそうだが、『迷宮』探索開始から一時間程経った頃に突然それは起きたらしい。


「まあ、此処から先は話半分に聞いておいてくれ」

 不揺君はそう前置きをしてから続きを語る。

 何でも角取キオの額から突然青い結晶が生えたかと思えばその身体が数倍に膨れ上がり、敵も、近くに居た味方……赤唐ジローも関係なしに襲い始めたらしい。

 その力は凄まじく、腕の一振りでブラシの様な大型モンスターが吹き飛び、片腕が吹っ飛んでも一瞬にしてより太く逞しい腕になる形で再生したそうだ。

 そしてそうなった時点で三理マコトはその場から離脱、罠や敵を感知する余裕も無くひたすら逃げたらしい。


「なるほどね。で、不揺君は三理君に何か言ったのか?」

「信じられないとは言ったよ。彼の言う通りなら角取君は完全に人間では無く、モンスターに近いナニカになっている事になる。流石に人間がモンスターになるのはいくらなんでも信じがたいし、実際信じられないさ。言っておくが彼が今震えているのは、その時の惨状を思い出してしまっているためだよ」

「ううううう……」

「…………」

 俺は話を聞いて考える。

 結果として多数のグループが集まり、三理君のグループに何が起きたのかを把握できたのは幸いと言える。

 だが、人間がモンスターの様になり、その姿に相応しいだけの力を突然得る……か。

 確かに俄かには信じがたい……信じがたいが俺もイースとの契約で大きく姿が変わっているし、絶対にありえない事ではないか。


「出口の把握は?」

「此処に集まってきたグループの一つが把握済みだね」

「なら、準備が整い次第向かった方がいいと思う。実際に何が起きたのかは分からないが、この情報は直ぐに上に伝えるべきだろう」

「君に言われなくても元々そのつもりさ。鈴鳴教官も言っていたが、私たちの任務で一番大切なのは生きて帰り、情報を持ち帰る事だからね。怪我人や装備の破損も著しい現状で探索を続けるのは論外だ」

「分かった。そう言う事なら俺のグループも協力させてもらう。幸い俺たちの方はまだまだ余裕があるしな」

「ああ、よろしく頼む」

 不揺君との話に切りが付いたところで、俺は今の話をトキさんとソラさんの二人にも伝えて二人の協力を仰ぎ、二人とも彼らの脱出を手伝う事に了承の意を返してくれた。


「(それにしても青い結晶か……イースに心当たりはあるか?)」

『いやないな。モンスターの核になっているのなら必ず赤い結晶のはずだ。気を付けろよアキラ。件の者にそれ(青い結晶)が仕込まれたのが迷宮に入ってからなのか入る前なのかは分からないが、我と契約しているアキラ以上の再生能力を持つと言う事は下手をするとこの迷宮の主以上に危険な敵かもしれん』

「(分かった。気を付けておく)」

 そして特に準備をする必要が無い俺は先程の話についてイースの意見を聞き、警戒感を強めることにしていた。

まだまだ続くよ『迷宮』探索


07/25誤字訂正

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