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第26話「木琴の迷宮-3」

「ブラッシャアアァァ!!」

「くっ!?」

 ブラシの首が振り切られて充分なスピードが牙に乗る前にトキさんが前に出て強化した盾を構える。

 そしてブラシの牙とトキさんの盾が激しく衝突し、大きな金属音と火花を周囲に散らす。


「タヂカラオ様!ふっ」

「ブッ……」

 首が振り抜かれてブラシの動きが止まったところにソラさんがブラシの頭を狙ってハンマーを振り下ろし、ブラシの頭を叩き潰す。


「よっ……」

「油断するな!」

「えっ、きゃあ!?」

「ラッシャアァァ!」

「くっ!?」

 頭が潰され、一般的な生物の常識からすれば仕留めたように見えるかもしれない。

 だがブラシの身体はまだ土くれになっておらず、その意味からこの先を察した俺はソラさんの首を掴んでトキさんの盾の後ろにまで引き戻す。

 そしてその直後に潰された分だけ短くなったブラシの首の先端に新たな頭と牙が一瞬にして生え、先程の一撃の軌道を逆からなぞる様に振り抜かれ、再びトキさんの盾とブラシの牙が衝突する金属音が鳴り響く。


「当たれ!」

「ブラッシャ!」

「ちっ!」

 俺はブラシの尻尾の先端に付いている赤い結晶を狙ってスリングの弾を放つ。

 が、弾が当たる直前にブラシはその身を翻して俺たちから距離を取ると同時に俺の攻撃を回避する。

 流石にそう容易く急所を撃たせてはくれないらしい。


「本当にモンスターって常識外の存在ですねー」

「軽口を叩いている暇が有るなら構えて」

「早い所アイツを倒すぞ。じきに他のモンスターもさっきの鳴子床の音に反応してくるはずだしな」

「ブッブッブッブッ……」

 ソラさんが立ち上がってハンマーを構え直し、俺とトキさんもそれぞれの装備を構え直す。

 対してブラシも最初の時の様に右前脚で地面を擦り始める。


「で、実際どうやって倒します?アタシだとあの動きは速過ぎて対応出来ませんよ?」

「動きについては俺の右目でどうにかする」

「では、私が防いだ直後にお願いします」

 俺は右目に集めている力の量をさらに増やす。


「ブラッシャアアァァ!」

「ぐっ!?」

「凍れえぇ!」

 そしてブラシが攻撃を放ってそれをトキさんが防いだタイミングで俺はトキさんの左手側を駆け抜けてブラシの側面に移動、ブラシの胴体に向けて右目の力を開放する。


「ブラッシアアァ!?」

 俺の右目の力によってブラシの胴体と二本の脚が凍り付き、その状態で動こうとしたためにブラシの凍った脚が砕け散って体勢を大きく崩し始める。


「ここぉ!」

「アアアァァァ!?」

 そこへ俺から一瞬遅れて逆方向から飛び出したソラさんが、移動による加速も乗せたハンマーをブラシの尻尾の先端に向けて振りかぶり、ブラシが立ち上がって次の行動を始めるよりも早くブラシの命である赤い結晶を粉々に粉砕してブラシの肉体を土くれへと変化させる。


「よっ……キャッ!?」

「ふぅ……えっ!?」

「何とかなったか。ただもう次が迫って来てるな」

 ブラシと言う強敵を倒した事で二人の気が一瞬緩む。

 が、その中で俺は二人に向かってゆっくり(・・・・)と空気を切って進む二本の矢を目視し、片方は氷に変えて自壊させ、もう一本は左手の爪を伸ばして弾き飛ばす。

 俺は今の矢に内心で冷や汗をかく。

 イースの目のおかげで認識、対応することが出来たが、もしイースの目がなければ確実に二人が死んでいたと言える不意打ちだった。


「トキさんは矢が来た方に向かって盾を構え続けろ!ソラさんは周囲の敵影を確認!俺は逆方向からのに対応する!」

「は、はい!」

「これは……ブラシが来た方からボウとハンドが3体ずつ来てます!他に敵影は無し!」

 俺とソラさんが、トキさんの盾の陰に隠れると同時に、盾から幾つも何かが当たる音が聞こえ始める。

 そしてソラさんの報告に上がったのはボウとハンドと言う二種類のモンスターの名称。

 確かボウが弓と矢筒と矢を扱うための手だけで構成されたモンスターで、ハンドが手の形をしたモンスターだったか。

 どっちも地面や壁に張り付いてゆっくりと移動しながらこちらに向かってボウは矢で、ハンドは丸い弾を投げつけて攻撃してくるんだったかな。

 で、肝心の弱点はどちらも接触面スレスレの部分と。


「距離は分かるか?」

「だいたい100m先に居ますが、徐々にこちらに迫って来ています。後、今攻撃しているのはボウだけのようです。アキラお姉様」

「了解。となればトキさん。盾の強度は大丈夫?」

「問題ありません。距離が有るおかげで威力も落ちていますから」

「分かった。なら二人ともこのままの状態で後退、曲がり角まで移動するぞ」

「「了解!」」

 状況を把握した所で俺たち三人はゆっくりと後退していき、曲がり角が有る場所にまで移動する。

 そして曲がり角に到達した所で三人揃って身を隠し、ソラさんが周囲を警戒している間にトキさんがブラシの攻撃によって損耗した盾の耐久度を回復させ、俺は右目に力を集め始めておく。

 幸いにして他の通路からは今だ他の敵が現れる気配は無い。

 ただ、ソラさんの遠視によれば、曲がり角の先には先程の六体以外にもモンスターが集まって来ており、小型モンスターばかりではあるがその総数は既に二十を超えているようだ。


「アキラお姉様。規定ラインを先頭の敵が割るまで後僅かですので、カウントを開始します」

「よろしく頼む」

「5……4……3……2……1……」

 勿論小型モンスターだからと侮るわけにはいかない。油断したその一瞬でこちらの命を刈り取られる可能性が有るのは先程の矢で俺も含めて全員身に染みているのだから。

 おまけに小型モンスターは普段の動きが遅くて先手を取れれば簡単に倒せる可能性が高い代わりにこちらの死角にも潜り込み易く、乱戦になれば不意を打たれやすい。

 故に今接近しているモンスターの大群と乱戦になるのは出来る限り避けるべき事であると言える。

 ではどうするか?


「0!」

「神性解放!」

 ソラさんのカウントが0になると同時に俺は曲がり角から飛び出し、容易に視認できるほどの距離にまで接近していたモンスターの大群に向けて右目の力を無制限に開放。

 俺の視界に収まっていたモンスターがダンジョンの床や壁ごと氷に変わっていく。


「あたっ!?」

「アキラお姉様!?」

「アキラさん!?」

「痛ぁ……だがうまく行ったな」

 そして俺が飛び出した勢いを殺しきれず向かいの壁と床に軽くぶつかったところで、俺は全てのモンスターが氷になって死んだのを確認する。


「うわぉ……あっ、周囲に敵影は無しです」

「凄いですね……」

「欠点も有るけどな。イース曰くこうやって凍らせたら素材としては使えないらしい」

 俺は氷の彫像と化したモンスターたちに接近し、イースの力で伸ばした爪でモンスターに触れる。

 すると氷になっていたモンスターが全て砕け散り、俺たちに迫っていた小型モンスターたちは一掃される。

 残念ながら素材は回収できないが、まあ安全と確実性を優先した以上はしょうがないか。


「とりあえず装備を確認したらモンスターが集まろうとしていた方に向かってみよう」

「戦闘音もまだしていますしね」

「味方が居るって事だろうしねー」

 そして俺たちは装備を整えると今なお戦闘の音が聞こえている方に向かって駆け出した。

完全凍結させると素材回収不可って地味にキツいデメリットですよねぇ

ちなみに現状では小型モンスターなら確実に即死させられますが、ブラシの様な大型モンスターは部分凍結が限度です。

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